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進学校・栃木高で引退撤回の3年生GK冨澤、後輩への罪悪感と感謝

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夏に引退せず、1、2年生とともに選手権予選を戦ったGK冨澤凛太朗(3年)

[11.4 高校選手権栃木県予選準決勝 栃木0-2佐野日大 栃木グ]

 栃木高は県内屈指の進学校とあって、大学受験に備えるため、最上級生は夏の総体予選をもって引退するのが慣例になっている。選手権予選は例年1、2年生のチームで挑むが、3年生のGK冨澤凛太朗はチームに残る決断をした。

「大学でサッカーをしたいので、これからしっかり勉強して受験します」。夏の引退を回避して秋まで残ったのは、大学に入ってもサッカーを続けるという意志から。栃木屈指と評される181cmの守護神は高さのある跳躍でハイボールを処理し、最後尾からチームを支えた。

 栃木高は連動したプレスとパスワークで前半は主導権を握ったが、後半に2失点。佐野日大を相手に奮闘したが、ここで敗退となった。

「3年生ひとりだけだったんですが、それでも居心地が良いくらい、2年生の雰囲気がよかった。正直、2年生に助けられてグリスタまで連れてきてもらって、感謝しています」――。チームに残った冨澤は下級生たちと栃木グリーンスタジアムの舞台にたどり着くと、初めてそのピッチに立ち、ゴールマウスを守った。

 ただ、それは来夏に引退する後輩GKの“一枠”を奪うことでもあった。「個人的には罪悪感というか、爽汰に申し訳なさがあった」(冨澤)。2年生にとってもこれが最後の選手権予選。大会前にGK片柳爽汰(2年)と2人で話し合いの場を持ち、大貫祐市監督にも相談したという。

 そうした事情から、今大会の1回戦と2回戦は前半40分が片柳、その後半40分は冨澤がピッチに立つという形を取った。片柳にとっても最後になるであろう選手権予選の出場はその2試合となったが、無失点でバトンをつなぎ、2人でクリーンシートを達成。「無失点で後半につなげた。そこからは凛太朗さんのプレーに気持ちを乗せた」(片柳)。

「罪悪感」を抱く冨澤に対して、片柳は尊敬する先輩の決断を、清々しく受け止めていた。

「自分もこれが最後になっちゃうんですが、凛太朗さんには自分の気持ちまで背負ってもらったので。断然うまいですし、チームが勝つために凛太朗さんに出てもらった」。準々決勝、グリーンスタジアムで行われた準決勝は出番が訪れなかったが、全力でサポート役に徹した。

 栃木高サッカー部では異色の決断を快く受け止め、下級生が冨澤を支えたからこそ、チームは一丸となって勝ち上がることができた。後輩への感謝の言葉を繰り返した冨澤は「みんなのチームワークとサッカーに対する姿勢なら、出来ると思う」とエール。片柳は「凛太朗さんの気持ちを受け取って、夏は優勝できるようにしたい」と次なる目標を掲げた。

(取材・文 佐藤亜希子)
●【特設】高校選手権2019

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