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[J内定者の声]節目で力を発揮してきた男…仙台内定、流通経済大DFアピアタウィア久「やらなきゃいけない場面で力を発揮できる」

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身体能力抜群のプレーを披露するDFアピアタウィア久

 ベガルタ仙台に内定したDFアピアタウィア久(4年=東邦高)は、流通経済大に入学する際に「プロになって帰ってきてね」と送り出してくれた母親への恩返しが出来たと素直に喜ぶことができる好青年だ。

 愛知県千種区出身。ガーナ出身で高校のネイティブティーチャーを務める父は元陸上短距離選手、日本人の母は中学時代にバスケットボールで東海大会に出場した実績を持つというサラブレッド。子供のころから運動神経は抜群で、小学校の運動会ではリレーのアンカーを任されると、半周差を追い抜いて優勝するという伝説を作った。ちなみに2歳年下の妹・蛍さんは短距離走で愛知県3位になった実績がある。

 サッカーは5歳で始めた。ポジションはずっとFW。「点を取るのが好きだった」という少年は、地元クラブの愛知FCですくすくと育った。しかし中学に上がると、急激な体系の変化に悩まされた。小学校を卒業するときは153cmだった身長が、3年間で183cmまで伸びた。そのために成長痛が収まらず、ほとんど試合に出ることが出来なかったという。それもあって、高校はどこのセレクションも受けることができず、一般入試で東邦高に進んだ。

 高校に進んでからもトップチームに絡むことはなかなかなかった。ただ大きな節目が訪れたのは高校2年生の冬。中京大学との練習試合で、突如CBで起用されることになった。「自分でもボールは収めることはできるけど、点が取れなくて、FWとしては壁を感じていた」。そして思いの外、自身でも手ごたえを感じることが出来た。「もしかしたらCBの方がいいんじゃないか」。この日を境に、CBアピアタウィア久が誕生することになる。

 そしてすぐに2度目の節目がやってくる。高校3年生の夏。CB転向後も主戦場はBチーム、県リーグ2部を戦っていたが、トップチームがプリンスリーグ東海で結果を残せていなかったことで、起爆剤としてメンバーの入れ替えが行われた。そこで結果を残したのがアピだった。「8月の四中工戦がプリンスリーグのデビュー戦。でもその試合で凄く調子が良くて。自分は大事な試合とか、やらなきゃいけない場面で力を発揮できるんです」。

 レギュラーCBになったアピは同年冬、愛知県屈指の選手として注目されることになる。同年11月の高校選手権愛知県大会決勝、インターハイ出場校の刈谷高との対戦だったが、アピは身体能力の高さを活かした鉄壁の守りで強力攻撃陣をシャットアウト。全国選手権では初戦の2回戦で東福岡高に惜しくも0-1で敗れたが、すでに存在感は全国レベルでも引けを取らなくなっていた。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

 高2冬からの一年間は、人生の選択にも大きな影響を与えた。当初は高校でサッカーに区切りをつけ、愛知県内の大学に進学してキャンパスライフを満喫するつもりでいたが、周囲が才能を放っておかなかった。ちょうど自身もサッカーへの情熱を取り戻していたころ。関西の強豪チームである阪南大からも声がかかったが、よりレベルの高い関東への挑戦を決意し、12月になって流通経済大への進学を決めた。

 流経大への進学で成長速度はさらに速まる。1年生の前期はIリーグ、後期はJFLで力をつけると、関東1部リーグの最終戦の慶應義塾大戦でトップチームデビュー。同年冬の大学選手権でもメンバーに抜擢されると、決勝ではサイドバックで先発出場。3年ぶりの優勝に大きく貢献した。そして同試合を視察に訪れていた森保一監督の目に留まり、U-21日本代表のパラグアイ遠征メンバーに指名された。

 高校3年生の夏まで控えだった選手が、わずか1年半で世代別日本代表まで駆け上がるシンデレラストーリー。「自分でもびっくり、周りもびっくり。海外で試合をするのも初めてだったので、めちゃくちゃ緊張しました。でもああいう大きい経験をしたので、普段の試合では行く前よりは堂々とプレーできるようになったと思います」。


 大学選手権で評価を上げたアピは、清水エスパルスや松本山雅FCの練習に参加。順調に階段を上っているかに思えた。ただ今度は実力以上に上がってしまった周囲の期待値に苦しめられることになる。「周りからみられているのが分かって、自分の思い切ったプレーが出来なくなった。何やってもミスしてしまうみたいな感じだった」。

 しかし地道な努力でプレッシャーを跳ね除けようとした。体作りも見直した。1年生の時は70kgだった体重を83kgまで増やすことに成功。「サッカーが嫌になることがあった」というスランプは3年生の途中まで続いたが、日々の練習から自信を取り戻すことを心掛けた。すると徐々にプレーに安定感が出始め、そのタイミングで仙台から声をかけてもらえた。

 参加した今春のキャンプでは「めちゃくちゃ調子が良かった」という。手ごたえを感じていた最終日。大分との練習試合のあとに木山隆之監督に呼び止められた。「これからどうするの?」「仙台でやりたいです」「じゃあ、来てくれ」。入団内定が即決した。

「今年は流大より仙台でやることの方が多くなると思います。3バックも4バックもどちらも対応できます。キャンプでは金正也選手とコンビを組むことが多かった。ビルドアップやロングフィードにミスがなく、90分を通しての安定感が抜群だなと思いました。僕は身長が高い(191cm)ので、特長のヘディングで勝負していきたいです」

 流通経済大での一番の成長をメンタル面だと振り返る。「最初は上下関係の厳しさもあって、やって行けるのかなと思ったけど、結果的に部員が200人いる中でもまれたということが、自分の成長に繋がったと思います」。ただまだまだ成長期。無限の可能性を秘める大型CBが、プロのカテゴリで更なる飛躍を目指す。

 次回はジュビロ磐田に内定したDF森岡陸(法政大)を予定。

※学校の協力により、電話形式で取材をさせて頂きました
(取材・文 児玉幸洋) 

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