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「オレたちも”ダイイチ”だ!」。全国基準を追求してきた高岡一が堂々の富山制覇!

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高岡一高はDF渡辺赳仁(2番)の決勝弾に大喜び

[6.6 インターハイ富山県決勝 高岡一高 2-1(延長) 水橋高 高岡スポーツコア]

 県内の勢力図を真剣に塗り替えようと、日々の練習から目線を上げてきたことが、この優勝に繋がったことを、松浦朗夫監督は強調する。「富一(富山一高)は全国で勝つことを目標にしていると。オレらが勝つには、やっぱりそこを目指してやらないといけないと思って、やってきました」。オレたちも富山県を代表する“ダイイチ”だ。6日、インターハイ富山県決勝、高岡一高水橋高が対峙した一戦は、延長戦までもつれ込む熱戦を高岡一が2-1で制して、4大会ぶり4度目のインターハイ出場を決めている。

 立ち上がりから、高岡一の勢いが鋭い。FW唐沢来輝(2年)、FW高畑裕輝(3年)、FW今田理輝(3年)の“輝き3トップ”が、スピードとパワーを生かして前へ。10分にはMF上久大来未(2年)の右クロスから、高畑のヘディングは枠を越えたものの、惜しいシーンを作り出す。

 ところが、ワンチャンスを生かした水橋の集中力。11分にペナルティエリア内へ侵入したFW奥田敦士(3年)がGKと接触して倒れると、主審はPKを指示する。これを奥田が自ら冷静に蹴り込み、押し込まれていた水橋が先制点を奪った。

 今大会初失点を喫し、追いかける展開となった高岡一は、「相手がたぶん引いてくるだろうなというのがあったので、CBの3人とWBの所でフリーな状況で受けられるかなと。ただ、前半はそれが単調になり過ぎましたね」と松浦監督。ボールは保持するものの、縦へと急いでしまうシーンが目立ち、決定機に繋がらない。

 リードを得た水橋は、右からDF檜谷匠(3年)、DF長谷川敬桂(3年)、DF村椿侑哉(3年)、DF竹野颯人(3年)が並ぶ4バックを中心にした守備陣も、集中力の高いディフェンスを維持。35+1分に高岡一のDF高田峻輔(3年)が投げ入れたロングスローも、ニアで村椿が大きくクリアしてガッツポーズ。前半は水橋が1点のアドバンテージを握って、ハーフタイムに入る。

 後半も攻める高岡一、守る水橋の構図は変わらない。2分は高岡一。上久が左から蹴ったCKは、水橋のキャプテンを託されたFW松波壮飛(3年)が懸命にクリア。11分も高岡一。ここも上久のFKがゴール前で混戦を生み出すも、水橋ディフェンスの人垣が押し寄せ、DF四柳亨丞(3年)のシュートはクロスバーの上へ。21分も高岡一。投入されたばかりのMF渡辺赳仁(3年)の左クロスから、MF麻生輝斗(3年)のシュートも水橋の選手に当たって枠を外れる。

 ただ、この一連で得たCK。左から上久が丁寧に蹴り込んだボールを、ファーで途中出場のFW横田真冴斗(2年)が頭で折り返すと、今田のヘディングがとうとうゴールネットを揺らす。「県リーグでもシュートは打っているのに、点は決められなくて、というのが続いていたんですけど、この大会に入ってからは、大事なポイントでちゃんと決めてくれるんですよね」と松浦監督。22分。苦しい展開の中で、高岡一がスコアを振り出しに引き戻す。

「自分たちのゲームプランとしては狙い通りの部分と、ちょっと先制も早かったので、その後に耐える時間が長くなってしまうと、どうしても苦しいなというのはあったと思います」と上田裕次監督も話した水橋は、それでも「『まだまだ行けるぞ、同点だぞ』と。『もう1点獲れば勝ち越しだ』ということをピッチ内で喋っていました」と松波も話した通り、ベンチメンバーの檄も後ろ盾に、失点にもメンタルを落とさずに再び前を向く。

 29分。水橋は左サイドをMF城石圭翔(3年)が粘り強く前進してクロス。3列目から飛び出したMF福島隆世(3年)のフィニッシュは枠の左へ逸れるも、後半のファーストシュートに士気が上がる。33分。高岡一は渡辺の左クロスに、高畑のダイビングヘッドはゴール左へ。35+1分。高岡一はMF谷内一景(3年)が右へ振り分け、横田のクロスに今田が突っ込むも、水橋のGK草野晃志(3年)が果敢な飛び出しでゴールを死守。70分間で決着は付かず。勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦に委ねられた。

 延長前半7分に輝いたのは、3トップではなく、途中出場の左ウイングバック。右サイドで獲得した高岡一のスローイン。そこまで再三使っていたロングスローを布石に、高田が短く投げ入れたボールを、「左足には自信があります」という渡辺はその左足一閃。軌道は左スミのゴールネットへ吸い込まれる。

「最初は何があったのかわからなかったんですけど、ちょっと経ってから『ああ、自分が決めたんだ』って嬉しかったですね」(渡辺)「渡辺には延長に入るタイミングで、スローインで『やるぞ』と。『外して、ドンで行くぞ』と言ったら、見事に決めてくれたので狙い通りでした」(松浦監督)。高岡一がとうとう逆転する。

 22年3月での廃校が決定しており、これが“最後のインハイ予選”となる水橋は、それでも折れずに走る。松波が、村椿が、そしてピッチ外で見つめる11人の3年生が、懸命に声を出し、折れそうな心を繋ぎ止め、走り続ける。延長後半5分。こぼれ球に食らい付いたMF鍛野裕人(3年)のシュートは、しかし高岡一のGK大野航暉(3年)が丁寧にキャッチ。同点ゴールを奪えない。

 10+2分。高岡一は横田の左クロスから、MF坂元和哉(3年)が決定的なシュートを放ったが、草野が驚異的な反応でビッグセーブ。高校からGKを始めたという守護神が、執念のプレーで意地を見せるも、直後に聞こえたタイムアップのホイッスル。「ベンチメンバーも、応援してくれたスタンドのみんなも一緒に戦ってくれたので、絶対に勝てると思いました」と高畑も笑顔を見せた高岡一が激闘を力強くモノにして、富山の頂点に立った。

 実は松浦監督は、全国に出場した5年前の県予選と、今回の大会に不思議な符号を感じていたという。「あの時もちょうど準々決勝が富一、準決勝が富山工業、決勝が水橋と、同じ相手だったんですよ。決勝は先制されて、逆転したら、終了間際に追い付かれたので、『何が起こるかわからないぞ』というのはアイツらにも話していましたけど、今日も『ああ、PKかあ。そうなるかあ』とは思いましたね(笑)」

 ここ8年で3度目の全国切符を掴んだ高岡一だが、転機は16年に参入したプリンスリーグ北信越。18試合の結果は1勝1分け16敗。まったくと言っていいほど、県外の強豪に歯が立たなかった。「県の基準でやっていたら、新潟明訓さんに開幕戦で0-8で負けて、その後もボコボコにやられて、『ああ、基準を変えなきゃダメだ』と気付いたんです」(松浦監督)。大事な所でゴールを奪うこと、ゴールを守ることを強調してきた結果が、富山一を0-0からのPK戦で破った準々決勝でも、この決勝でも接戦をモノにできる勝負強さに繋がった。

「やっぱり僕らが富一に勝っても『富山第一敗れる』なんですよね。だから、全国で富一が持っているような結果を出すまで、ずっと僕らは『富山第一敗れる』としか書かれないので、そこまでやるぞ、と」。松浦監督が口にした『全国で富一が持っているような結果』。すなわち、それは全国の頂上。「目標を持つのは自由ですから」と軽やかに笑った指揮官の元、高岡一が“ダイイチ”の誇りを胸に、晴れ舞台でも存分に暴れ回る。

(取材・文 土屋雅史)
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