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仲間の死から10年、EUROで救えた命…C大阪は次世代にも「#命つなぐアクション」伝える

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救命処置にトライしたスクール生

 セレッソ大阪は3日、7月に新装オープンした本拠地のヨドコウ桜スタジアムで、スクール生の小学生を対象とした救命講習を実施した。森島寛晃社長と日本代表で共にプレーしていた松田直樹さんの悲痛な死から、きょうで丸10年。Jリーグではさまざまな形で「#命つなぐアクション」の取り組みが行われている中、C大阪は次世代にも心肺蘇生法(CPR)の重要性を伝えていく構えだ。

 イベントにはC大阪のスクールでプレーしている小学3〜6年生の約30人が参加。子どもたちは大阪市消防局による映像講習を受けた後、訓練用人形で胸骨圧迫を行ったり、AED(自動対外除細動器)を使ったりし、心肺蘇生法の流れを経験した。

 自ら挙手して挑戦した伊藤源侍くん(小3)は「初めてやったけど思ったより簡単やった」と振り返り、「もし近くにあれば自分でもできそう」と手応えを得た様子。大塚博生くん(小6)は「AEDがいろいろなところにあればすぐに対応することができ、命が助かるのに重要だと思った。自分も誰かが倒れた場合、すぐにAEDを探して、大人を呼びながら素早く行動できたら」と力強く語った。

伊藤源侍くん

大塚博生くん

 C大阪が子どもたちを対象にしたのは意味がある。ホームタウングループの伊藤由佳さんは次のように話した。

「私たち大人も何度も講習を受けているけど、定期的に受けないと忘れてしまったり、いざというときに使えないと思うことがある。子どものころから定期的に受けることによって、いざという時にすぐに使えて、周りの方を呼べばいいということもわかる。学校なども含めてこういう取り組みを進めることで、より多くの人が助かると思います」。

 C大阪にとって、スクール生はともにサッカーをプレーする仲間というだけでなく、チームを支えてくれるサポーターでもある。「いまはコロナの影響で難しいんですが、彼らは今までずっとスクールのユニフォームを着て応援に来てくれていた一番のサポーターです。彼らがAEDがどこにあるかを知っておいてくれれば、何かがあったときに活動してくれると思います」(伊藤さん)。講習会の終了後、子どもたちはヨドコウのスタジアムツアーに参加し、AEDの設置箇所も確認したという。

 講習中の子どもたちの様子について「最初は集中力が持たないと思っていましたが、みんな画面を食い入るように見ていて、飽きる子がいなかったのはすごいと思いました」と伊藤さん。真剣に取り組んでいた背景には、今夏ヨーロッパ各地で行われていた欧州選手権(EURO2020)での出来事もあったようだ。

 6月12日にデンマーク・コペンハーゲンで行われたグループリーグ第1節。フィンランド代表と対戦したデンマーク代表だったが、前半途中に10番を背負う中心選手のMFクリスティアン・エリクセンが突然心停止し、ピッチに倒れ込むアクシデントが起きた。

「講習会でエリクセン選手の出来事は知っていますかと聞くと、大半の子が手を挙げていました。みんなサッカーをしている子どもたちなので関心を持っている子が多く、より集中して学ぼうという姿勢だったようです」(伊藤さん)。

 エリクセンはその後、ピッチ上での懸命な救命処置により、無事に意識を取り戻した状態で救急搬送。現地報道によると、現在は日常生活に支障がない程度にまで回復していると伝えられている。こうした「助かる方がいることが証明された」という実例が、子どもたちの学ぶ意欲になっていたようだ。

 C大阪において、こうした取り組みに最も熱心なのは森島社長だという。2011年に急性心筋梗塞で亡くなった松田さんとは2002年の日韓W杯で共にプレーし、Jリーグでは何度も何度もマッチアップを繰り広げた間柄。Jリーグが進める「#命つなぐアクション」の活動にも次のようなコメントを寄せている。

「Jリーグ、日本代表として同じ時代にピッチに立ってきた松田直樹さんが、急性心筋梗塞で急逝されてから今年で10年になります。あっと言う間の10年に感じ、私は今も共に戦った思い出は鮮明に浮かび上がってきます。それでも、やはり10年は長い年月です。多くの方にとっては、記憶が少しずつ薄れていってしまう年月です。でも、絶対に忘れてはいけないし、風化させてはいけません」

「これまでもJリーグと一緒にAEDの普及のための啓発活動を行ってきましたが、今年は節目の年として、もう一歩進んだ活動を行っていきたいと考えます。知ることから身につけることへ。一人でも多くの方がAEDの設置場所を知り、また使い方を身につけることで、救える命が増えると思います。一人でも救える命を増やすこと、そして悲しい思いをされる方を一人でも減らすためにも、みなさんも一緒にAEDの知識を身につけていただけますよう、お願いいたします。私も講習を受け、身につけます!」

 C大阪は4日にも、クラブ職員を対象とした救命講習を実施。「同じ悲劇を繰り返さないために、もしもの時に行動にうつせるようにしましょう」というミッションを共有した。また森島社長は日々、クラブ職員に向けて「こうした講習は節目だけでなく、定期的にやるべきだ」と伝えている様子。重すぎる教訓から10年、日本各地で「命をつなぐ」ための取り組みが続いている。


(リモート取材・文 竹内達也)
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