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東山が終盤に意地の2ゴールも、「良い薬」を突き付けられた青森山田が静岡学園との準決勝へ

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ゴールを決めたMF田澤夢積(16番)とアシストのMF藤森颯太(11番)が歓喜の抱擁(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.19 インターハイ準々決勝 東山高 2-5 青森山田高 三国総合運動公園陸上競技場]

 5-0でリードした試合終盤に、1点を奪われた1分後。失点に絡む形でベンチに下がってきたMF宇野禅斗(3年)と、黒田剛監督は少し時間を掛けて話し込む。「あの失点をした時は、前向きじゃなくて、後ろ向きの時にボールを失って、その後のディフェンスの対応もよくなかったんだけど、『全然無理する必要ないよな』って。5点のリードがあったからああいう不用意な持ち方をしたんだろうけど、もし受ける選手がいなかったらキーパーまで返すということをやっても良かったし、なんかちょっとチャレンジしたかったのか、そういうところがやっぱりアイツの甘いところかなと」(黒田監督)。おそらく宇野が、もう同じ過ちを繰り返すことはないだろう。

 すべては勝利のために。そこに“妥協”という二文字が入り込む余地はない。19日、インターハイは準々決勝が開催。近畿大会王者の東山高(京都)と、3試合19得点無失点と圧倒的な数字を残して勝ち上がってきた青森山田高(青森)の一戦は、東山も終盤に意地の2ゴールを挙げたものの、5-2というスコアで青森山田が準決勝へと駒を進めている。

「前半はもう向かい風だったので、0-0でいいかなというぐらいの感じで行ったんですけどね」とは黒田監督だが、ピッチに立った選手たちは既にアクセルを踏み込んでいた。前半6分には東山も10番を背負うMF藤枝康佑(3年)が、この試合のファーストシュートをゴール右へ外したものの、これが東山にとって前半唯一のチャンスとなる。

 13分にはエリア内へ侵入したキャプテンのMF松木玖生(3年)が、マーカーとの接触で倒れると、主審はPKを指示する。スポットに立った10番が選択したのは、いわゆる“パネンカ”。GKを先に倒しながら、フワリと蹴り込んだボールがゴールネットへ収まる。1-0。

 18分。2トップの一角を占めるFW渡邊星来(3年)が右へ振り分けたボールを、MF藤森颯太(3年)はグラウンダーで中央へ。「チームの決まり事として、逆サイドからのクロスに“蓋”をするというのがあるので、やるべきことをしっかりやった結果が、ゴールに繋がったと思います」というMF田澤夢積(3年)がきっちり“蓋”をする形で、ゴールへ流し込む。2-0。

 33分。「確実に身体を張ってやってくれた」と指揮官も認める2トップで一仕事。世代屈指のバランサー、宇野の正確な左足クロスをFW名須川真光(3年)がワンタッチで落とすと、渡邊がすかさず放ったシュートはゴールへ吸い込まれる。3-0。「向かい風の中で3点獲れたというのは凄く大きかったですよね」(黒田監督)。前半で早くも点差は3点に広がった。

 ハーフタイムに東山ベンチは「70分で勝つということを考えた時に、阪田と李は後半から勝負というところだった」と福重良一監督も明かした通り、MF阪田澪哉(2年)とFW李隆志(3年)と2枚のジョーカーをピッチへ解き放つも、流れを大きく変えるまでには至らない。

 後半3分。名須川が正確なポストプレーから左へ展開。田澤が中央へ折り返したボールを、「自分が今は出ていけるかなという判断をしました」という宇野が3列目から全力で走り込み、冷静にゴール右スミへグサリ。4-0。

 15分。この日2本目となったPKを松木が右ポストにぶつけた直後にも、藤森が斜めに打ち込んだパスを渡邊はダイレクトで裏へ。駆け上がった右SBの大戸太陽(3年)が優しく送ったパスに、田澤はスライディングシュートでゴールネットを揺らす。5-0。勢いが止まらない。

 ただ、「5点獲られた後でも、追い付こうという気持ちがみんなあった」と李も口にした東山が、終盤に意地を見せる。31分。中盤でMF松橋啓太(2年)が宇野からボールを奪うと、ドリブルで運んだ阪田がラストパス。切り返しでマーカーを外した李のシュートは、鮮やかに右スミのゴールネットを貫く。5-1。9番を背負ったストライカーが、青森山田に今大会初めての失点を刻み込む。

 35+4分。高い位置でプレッシャーを掛けた阪田は相手からボールをかっさらうと、そのまま右足一閃。ファイナルスコアは5-2。「今年のチームは2年生が主体なんですけど、やっぱり試合に出ていない3年生も含めて全員が一丸となって戦えるチームだと思っているので、自分としては応援してくださった方や、京都にいる3年生にゴールを届けられたから、そこは良かったと思います」(李)。東山も『感謝の2ゴール』を挙げたが、青森山田がきっちりとリードを生かして勝ち切り、準決勝へと駒を進めた。

 東山を率いる福重監督は試合後、まずは大会が開催されたことに対して言葉を紡いだ。「去年はコロナ禍でなかった大会があったということに対して、僕らとしてはまず感謝していますし、大会中に出場を辞退せざるを得なかったチームもありましたけど、東山としては最後まで試合をさせてもらえたという、そこに尽きると思います」。

 その上で、最後まで諦めない姿勢を見せた選手たちも称えている。「当然最初から力の差があるのはわかっていたので、何とか勝つための戦い方を考えてやったんですが、あまりにも最初の失点が重くのしかかったので、プランからズレてしまいました。ただ、京都を代表させてもらって、こういうコロナ禍の中で試合をさせてもらっている中で、最後までやるというのは選手たちの当然の使命だったので、それは凄く感謝しているというか、意地を見せてよく頑張ってくれたなと思います」。最後に手にした2ゴールという自信を携えて、今度は冬の全国出場という大きな目標へと向かっていくことになる。

 相次いで交代カードを切った終盤に、とうとう今大会初となる失点を喫した青森山田。「今日はこれだけシュートを打たせなかったのに、メンバーが代わることによって前の圧が変われば、こういう失点もしてしまうということは、明後日に向けて喝を入れられる良い薬を与えていただいたなと」と黒田監督。細かいミスも見逃さず、必ずそれを次回以降の反省点として、確実に改善してしまうのがこのチームの凄味であることは間違いない。
 
 準決勝の相手は静岡学園高(静岡)。推し進めるスタイルこそ異なれど、お互いのそれは国内最高峰の水準に達しているだけに、ハイレベルな一戦を期待してしまう。

「この大会はすべての試合を楽しみにしていましたし、去年1年間は大会が開催されなかったという悔しい想いを全員がしているので、優勝を目指すということを口にはしているんですけど、1試合1試合やることを全員で確認しながら、楽しむべきところは楽しんで、やるべきことをやって、勝ち進んでいければいいなと思います」(宇野)。

 好ゲームの予感。8月21日。9時15分。日東シンコースタジアム丸岡サッカー場で、準決勝の戦いの火ぶたは切って落とされる。

(取材・文 土屋雅史)
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