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ホームで3-0の快勝劇。「勝負欲」を身に付けつつある仙台ユースは、選手も指導陣も一緒に成長中

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ベガルタ仙台ユースは3-0の快勝で3試合ぶりの白星!

[9.11 高円宮杯プリンスリーグ東北第14節 仙台ユース 3-0 聖光学院高 マイナビベガルタ仙台泉パークタウンサッカー場]

 大事なのは、目の前の1つ1つの勝負にこだわる『勝負欲』。チームの指揮を託された木谷公亮監督の考え方は明確だ。「結局サッカーというスポーツをやっているわけで、決して負けていいスポーツじゃないですし、この子たちも1試合1試合が“試合”であって、『いいサッカーをしたから負けてもいいよ』という試合は1つもないと思うので、それは紅白戦でも同じですけど、1得点、1失点にこだわるところ、そういう勝負欲みたいなものは大事ですよね」。

 『勝負欲』をきっちり披露した好ゲームで、勝ち点3を獲得したのはホームチーム。11日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープリンスリーグ東北第14節、ベガルタ仙台ユース(宮城)と聖光学院高(福島)が対峙した一戦は、FW加藤壱盛(3年)の今季リーグ戦初ゴールを含む3得点を奪った仙台ユースが3-0で快勝。3試合ぶりの白星を手に入れた。

 試合を動かしたのはキャプテンの右足。前半10分。FW小野獅道(2年)が獲得した左FK。スポットに立ったMF淀川誠珠(3年)は「練習からコーナーもセットプレーもニアが空くという話をしていて、練習もしていたので、まず1本目はニアに蹴ろうと思っていた」と速いキックをニアへ蹴り込むと、相手DFのクリアがそのままゴールネットへ吸い込まれる。「結果的には狙い通り」(淀川)という先制点。仙台ユースが1点のアドバンテージを奪う。

 早々にビハインドを負った聖光学院は、「前向きにボールを奪うところまではある程度できましたけど、攻撃に繋げるところで、フォワードに付けるボールとか、サポートの位置とか、そのあたりのミスが多かったですね」と山田喜行監督が話したように、ドイスボランチのMF佐藤風雅(3年)とMF阿部圭汰(2年)がセカンドも含めてボールを回収しつつ、左SB南雲遥翔(2年)や前線のFW佐藤慧真(3年)、MF渡邉陽路(1年)でポイントを作って、速い攻撃を狙う意図は十分。19分には左サイドで粘った渡邉が、カットインしながら放ったシュートは枠の左へ外れるも、1年生アタッカーがフィニッシュを繰り出す。

 だが、次の得点を記録したのもホームチーム。23分にMF荒川颯磨(3年)のスルーパスから、抜け出した小野のシュートは聖光学院のGK山本稀石(2年)がファインセーブで防いだものの、36分にはサイドアタックからチャンス。左SB佐々木裕貴(2年)のクロスに小野が頭で触ったボールは上空へ。「ボールが上がったので、ステップをしっかり踏めて、ショートバウンドで左足でうまく合わせられたかなと思います」と振り返る加藤が左足で蹴り込んだシュートは、ゴールネットに突き刺さる。「もう涙が出てきそうなくらい嬉しくて、いろいろな感情が湧き上がってきました」と話すストライカーは、これが今季のリーグ戦初ゴール。待ちに待った加藤の1点も生まれた仙台ユースが、2点をリードして前半の45分間は終了した。

 後半に入ると、聖光学院も2トップでチャンスを創出。3分。「もともとポテンシャルはあったんですけど、夏以降凄く伸びてきた選手で、聖光らしくタフで強いというところがありますね」と山田監督も評した渡邉が右サイドからクロスを上げ切り、10番を背負う佐藤慧真のヘディングは枠の右へ逸れるも、惜しいシーンを。

 ただ、「攻撃も守備もまずは背後、その後はライン間、それで幅を使おうよ、という優先順位はハッキリさせています」と木谷監督も口にした“優先順位”を意識しつつ、攻勢はやはり仙台ユース。14分には荒川が、34分には小野がシンプルなアタックでディフェンスラインの背後に抜け出し、決定機を迎えるも、ともに山本のビッグセーブに阻まれたが、ダメ押しの一撃はやはりセットプレーから。

 35分。仙台ユースの左CK。キッカーの淀川は「後半1本目のCKの時に、1回ニアを越えるボールを蹴って、それをヘディングで外したんですけど、少し相手もそこを気にしていて、『ちょっとニアが空いているな』とは感じたので、ニアに蹴って何かが起こればと思いました」とニアに鋭いボールを蹴り入れると、飛び込んだMF小林亮太(2年)と競り合った相手DFのクリアが、再びゴールネットを揺らす。

 ファイナルスコアは3-0。「最近は勝てていない状況が続いていて、今日はチーム全体が『まず戦うところからやっていこう』ということで、前半からいつもよりはいい入りをした中で点も入りましたし、失点ゼロの中で後半も追加点を決めて勝つことができて、結果としては良かったと思います」と淀川も手応えを語った仙台ユースが、理想的なスコアで完封勝利を達成。きっちりと勝ち点3を積み上げた。

 仙台ユースはプリンスリーグ東北の開幕から7試合が延期になり、初めての試合は5月15日の第8節・青森山田高セカンド(青森)との一戦に。「これが言い訳か、言い訳じゃないか、ということは置いておいて、シーズンの最初は正直非常に難しかったです。なかなか対外試合もできなかったので、2か月近く紅白戦だけだったんですよね。だから、紅白戦も公式戦のホームとアウェイのユニフォームを着させて、アップから別にして、勝負欲みたいな所を引き出そうと。そういう雰囲気を作ってやろうというようなことに行くしかなかったところもありました」と木谷監督は当時を振り返る。

 それゆえに、まだ時折スケジュールが延期されることはありながらも、ようやく試合がある程度継続的に行われることでのメリットや、選手たちに与える影響も大いに感じているという。「練習中の勝ち負けからこだわらせたいなとは思っているので、そのへんは最初からやってはいたんですけど、実際に“本気の試合”を経験させるのが一番でした(笑)。僕らがどれだけ語り掛けようが、やっぱり本当の試合をこなすことが絶対一番だと思うので、その試合をたくさん経験させたいなと。この状況なので、そういう経験をこの年代は十分にさせてあげられないのがもどかしいですけど、いろいろ僕もあれこれ思っていたものの、実際の試合で『できた、できなかった』を経験するのが一番ですよね」(木谷監督)。

 現在はプリンスリーグも12試合を消化しており、残された試合数も、3年生の彼らがアカデミーで過ごす時間も、もうそう多くはない。「もうチームとしても残り6試合なので、本当に勝たなきゃいけない状況で、練習からまず勝ちにこだわってやっていきたいですし、個人的にも次のステップがあるので、チームの結果もそうですけど、プレー面で成長しながら、個人的な結果も出していければいいなと思います」とは淀川。チームの結果と、次の進路へのステップをより良い形で踏み出すための個人の結果を、みんなで求めていくことになる。プロになるか、なれないか。真剣なサッカーを続けるか、続けないか。この二択のさらに先にあるモノを、指揮官は考えているようだ。

「アカデミーでの時間は1人1人の人生にも関わる部分ですし、『ベガルタ仙台、ベガルタ仙台』と言わなきゃいけない部分と、『1人の人間としてどうなっていかなきゃいけないの?』という部分も、サッカーと同じかそれ以上に大事なことですよね。だから、そこは僕も大人として見失わないように、その先の人生のことまで考えて教えていかなくてはいけないということは、僕自身も彼らと一緒に成長していかなくてはいけないということだなと思っています」。

 勝ったり、負けたり、前進したり、後退したりを繰り返しつつ、選手たちも木谷監督を筆頭にした指導陣も含めて仙台ユース、着々と成長中。

(取材・文 土屋雅史)
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