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執念で返したロングスローからの1点。盛岡市立にはやるべきことをやり切った爽快感も

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MF大山青夏(7番)がゴールを奪った盛岡市立高。タイムアップの瞬間まで粘り強く戦った

[10.31 選手権岩手県予選準決勝 専修大北上高 3-1 盛岡市立高 いわぎんスタジアム]

 それはもちろん悔しいけれど、全力を尽くした感覚は自分たちの中に残っている。ゴールが決まった時の喜びも、試合が終わった時の寂しさも、きっといつまでも忘れることはない。

「自分たちもできることはやったのかなと思いますね。やり切れたかなと思いますね」(川村禅)「悔しい気持ちもありましたけど、今日も楽しかったですし、3年間も楽しかったです」(大山青夏)。準決勝で大会を去っていく盛岡市立高だが、自分たちのやるべきことはやり切ったのだ。

 今年のチームは、なかなか結果に恵まれない時期が続いてきた。「新人戦も高総体もベスト16で、自分たちでも弱いというふうに自覚していたので、パス練習とか基本的なことをイチからやってきました」とMF大山青夏(3年)が振り返ったように、新チーム初の公式戦となった新人戦は3回戦で盛岡北高に1-2で敗れ、インターハイ予選でもやはり3回戦で、遠野高にPK戦の末に競り負ける。

 今大会も決して楽に勝ち上がってきたわけではない。初戦こそ岩手高に大勝したものの、3回戦の盛岡一高戦は前半をスコアレスで折り返す展開の中で、後半に3点を奪っての勝利。準々決勝ではPK戦の末に不来方高を何とか振り切って、ベスト4へと駒を進めてきた。

 ファイナル進出を巡る準決勝の相手は専修大北上高。「元々格上なのはわかっていましたけど、専北には1年前も準決勝で負けていて、そのリベンジで倒したかったので、準備すべきことは準備してきました」とMF川村禅(3年)。昨年度の選手権予選でも同じステージで戦い、0-1で敗れた因縁の相手。簡単に負けるわけにはいかない。

 だが、前半終了間際に先制を許すと、後半にも追加点を奪われ、2点のビハインドを背負ってしまう。そんな追いかける展開の中で、2人の3年生が意地を見せる。

 後半27分。右サイドで獲得したスローイン。「ターゲットを決めて、あとは逸らして、中の混戦で押し込めればいいかなという狙いです」という川村のロングスローが“狙い通り”に中央の混戦へこぼれると、大山の“右足”が反応する。

「ずっと狙っていたのもありますし、ゴール前だったので気合で入れました。正直入った瞬間はあまりゴールを見ていなくて、利き足じゃない方の右足だったので、ビックリしましたし、嬉しかったです」。レフティが魅せた“右足”での一撃。1-2。盛岡市立は、終わらない。

 明らかに流れは来ていた。押し込んで、スローインを奪い、川村がロングスローを投げ入れる。「一応準々決勝を見て、ロングスローがあるということはわかっていたので、その対処や対応の仕方はある程度練習してきたつもりだったんですけど、やっぱり怖かったですね」とは専修大北上の小原昭弘監督。相手も明らかに嫌がっていた。

 30分。ここも左から川村が放り込んだロングスローが、ゴール前に密集を生み出すと、ディフェンスラインを束ねてきたCB工藤光介(3年)がシュートを放つも、執念を見せた専修大北上の厚い壁に跳ね返される。最後は1点を追加され、1-3でタイムアップ。1年前のリベンジは、果たせなかった。

 試合後。川村は1人で歩けず、大山の肩を借りて取材エリアへ現れた。聞けば前半のうちに左足首を捻挫していたとのこと。それでも、自分の意志でピッチに立ち続けていたという。「ロングスローを投げ始めたのは、今年の高総体(インターハイ)ぐらいからです。元々肩は強かったので。今日はリードされていましたし、点を獲るしかない状況だったので、普段よりは投げれたかなと思っています」。川村の存在が、相手の大きな脅威になっていたことは間違いない。

 重い足取りでスタジアムを出てきた選手たちは輪を作り、少し時間を掛けて“最後のミーティング”に臨んでいた。「スタッフ陣1人1人が話してくれました。監督は『ナイスゲームだった』と言ってくれたので、悔いはないかなと思います」。川村の表情は、確かに晴れやかだった。

「ここまで、ベスト4まで来れたので、『やってきたことは間違っていなかったんだな』とは思います。ただ、今日は『身体のパワーが全然違うな』と感じたので、後輩たちにはフィジカルやパワーを付けて、どんな相手にも身体負けしないようなチームになってほしいと思います」。そう言葉を口にした大山にも、少しだけ笑顔が浮かぶ。

「2年連続で選手権予選もベスト4止まりで、オレたちの代で優勝したかったですけど、後輩たちにはオレたちを超えて、優勝を狙って頑張ってほしいですね。今日、楽しかったです」。川村にも少しだけではあるが、笑顔が戻る。準決勝で大会を去っていく盛岡市立だが、やはり自分たちのやるべきことはやり切ったのだ。

(取材・文 土屋雅史)

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