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「嫌なこと」から学び、みんなで勝ちに繋げてきた滝川二。4年ぶりの選手権へ!:兵庫

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優勝を喜ぶ滝川二高イレブン

[11.7 選手権兵庫県予選決勝 滝川二高 1-0 相生学院高 ノエスタ]

 11月7日、第100回全国高校サッカー選手権大会兵庫県大会の決勝戦がノエビアスタジアム神戸で行われた。

 決勝に臨むのは、4年ぶり21回目の優勝を狙う滝川二高、そしてこの決勝戦だけでなくベスト4入りさえ今大会が初めてとなった相生学院高。両校とも準決勝での厳しい接戦を80分で制し、勝ち進んできた。準決勝からは、中3日。それを感じさせない白熱した決勝戦を繰り広げた。

 滝川二は、MF藤田仁朗(3年)の高いテクニックを生かした局面の打開、FW田中璃亜夢(3年)のドリブルでの突破、DF黒井海舟(3年)からの速いクロスにFW相原禎汰(3年)がダイレクトで合わせるなど、積極的に仕掛けていくものの、相生学院のCB日高光揮(3年)を中心としたディフェンスラインの粘り強さにゴールを奪えない。

 相生学院もまた、MF森川透海(3年)がボールを回収すれば、讃岐内定FW福井悠人(3年)やMF山口悠太(3年)がドリブルで突破し、ロングボールをFW村越優太(2年)が納めてゴール前に差し迫っていくが、滝川二のDF島田爽吾(3年)を中心とした落ち着いた守備陣が立ちはだかる。

 両チームともゴール前に侵入させる機会はあったが、ゴールを破ることは許さないまま0―0で折り返した。後半に入っても、一進一退。このまま延長戦にもつれ込むかと思われた40分、滝川二のMF倉内晴久(3年)の放ったシュートがハンドの判定となり、PKを獲得。これをエース藤田が「蹴る直前まで右に蹴ろうと思っていたけれど、さすがにもう読まれているかなと思って」左方向に蹴り込んだ。冷静な判断から、先制点を得た。

 残されたアディショナルタイム4分で、相生学院はその1点を懸命に追ったが、追いつくことができず。滝川二が1-0で決勝戦を制し、4年ぶりの優勝を果たした。

 終了のホイッスルが鳴り響くと共に泣き崩れた相生学院の選手たちに、テクニカルエリアから「最高の選手たちだ」と声をかけていた上船利徳総監督は試合後、選手たちの健闘を心から喜んで称えると同時に、「自分がこれまで選手として、指導者として過ごしてきたサッカー人生の中で、最も楽しく幸せな80分を過ごさせてもらった」感謝の気持ちを選手たちに伝えたという。

 キャプテンのMF白倉琉聖(3年)は、「相生学院では、チームのために、仲間のために、ということを学び、成長してくることができました。今日の試合でも、力を合わせて、仲間を信じて、クサいセリフですけど、それを全員で楽しみながら思い切り表現することができました」と試合を振り返った。

 実際に試合後、相生学院側のロッカールームの外で「自分がPKを献上したことが唯一の悔い」だと1人泣いていた日高に対し、チームメイトが迎えに来て抱きしめるシーンもあった。互いに支え合い、過ごしてきた3年間。「最高の仲間と共に、最高の景色の中に立たせてもらった」(日高)経験を胸に、選手たちは涙を流しながらも笑顔でスタジアムを後にした。

 相生学院だけでなく、優勝した滝川二も、今年の選手たちは全国大会どころか選手権予選の決勝さえ経験のない選手たちだった。昨年の選手権予選では「先輩たちに連れてきてもらって」(藤田)、準決勝を初めて経験した。2月の新人戦では、自分たちの力で決勝戦まで勝ち進んだが、トロフィーには手が届かず。夏のインターハイ予選では、準決勝にもたどり着かなかった。

 表彰式後も「正直まだ実感がなくて。ようやく、やっと、ここまで来られたという気持ちが一番強い」と話した藤田は、「去年は緊張やプレッシャーもあって、うまく繋ぐことを断念してしまう部分があったと思う。でも今大会では、準決勝でも怯まずボールを繋ぐことができてそこで自信も得たことから、今日も自分たちの積み重ねてきたことを途中で諦めることなく貫けた」ことを優勝できた要因として挙げた。

 決勝戦でも体を張り、泥くさくとも魂の見える戦いぶりだった黒井は、前回大会で敗退した準決勝においては先制点も上げていた。「負けから学ぶというのは、学びを得られる自分たちにとってもすごく嫌なこと。でも、その経験からどうすれば勝ちに繋がるかということを考えて、みんなで声を掛け合い、みんなで勝ちにいくという姿勢を持つことができた」と語っている。

 そして、ようやく今日、その「みんなで」トロフィーを掲げることができた。このトロフィーは、どの選手も「すごく嫌なこと」から逃げずに学び、成長してきた成果に他ならない。

「やっと辛くない話ができる」と安堵した表情を見せた亀谷誠監督もまた、選手たちが経験から自信を得てさらに成長していることを感じている。「今年のチームの強みをよく質問してもらうけれど、その質問に応答しながら自分でもなぜかピンとこないような感じがあった。なぜピンとこないか考えてみたところ、原因は選手たちがまだ成長し続けているからだと気づいた」という。準決勝から決勝まででも、選手それぞれがさらにたくましく成長している。強いていうならば、今年の滝川二の強みは「成長していけるだけの柔軟性があること」。

 亀谷監督の想いも、選手たちの想いも同じ。あと1か月半でさらに成長した「滝川第二の魅力的なフットボールを全国の舞台で披露する」。

(取材・文 前田カオリ)
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