beacon

みんなが連れてきてくれた3回戦の舞台。長崎総科大附DF児玉勇翔主将の意地と感謝

このエントリーをはてなブックマークに追加

長崎総合科学大附高を牽引したキャプテン、DF児玉勇翔(左端5番/写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 東山高 3-0 長崎総合科学大附高 駒沢]

 再び帰ってきた夢の舞台は、やはり最高だった。それはもっとみんなとサッカーがしたかったけれど、仲間がしっかりと用意してくれたこのピッチを思う存分走り回れたのだから、最後まで胸を張って挨拶したい。相手のキャプテンと握手を交わし、東山高(京都)のベンチ前へと小走りで進んでいく。

「みんな試合でも、試合外でも元気が良くて、そういったチームをまとめられたというのは、とても嬉しかったです」。

 監督不在という想定外の事態に見舞われた中で、2つの勝利を重ねた長崎総合科学大附高(長崎)。そのチームを牽引してきたキャプテン、DF児玉勇翔(3年=FC佐伯S-Play Minami出身)は涙をこらえて、深々と頭を下げた。

 1年時から最終ラインでレギュラーの座を務めてきた。ちょうど2年前の選手権初戦。前半途中からピッチに投入された児玉だったが、残り4分で2点を奪われ、まさかの逆転負け。先輩たちが涙する姿を胸に刻み、リベンジの機会を窺い続けてきた。

 だが、昨年度の選手権予選は、決勝で延長戦の末に創成館高に0-1で敗れ、全国への出場権を逃す。「僕らは王者じゃない。チャレンジャー精神でやってきた」という児玉の言葉は、チームの共通認識。1年後に再び決勝で相まみえた創成館を2-0で撃破し、2年ぶりとなる全国切符を引き寄せた。

 1回戦の北海高(北海道)戦は、終了間際の劇的な決勝ゴールで逆転勝利。まずは前回出場時に果たせなかった初戦突破を手繰り寄せるも、2回戦の堀越高(東京A)戦で、児玉をアクシデントが襲う。相手ペナルティエリア内での接触で左足首を負傷し、プレー続行が困難に。担架で運び出され、前半31分での交代を余儀なくされる。

「痛みがあって、ピッチには残れないかなと。正直プレーできない悔しさがありました」。勝利の瞬間はベンチから見届けていたものの、キャプテン不在のチームは3回戦に向けて一抹の不安を抱えることになる。

 東山と対峙したこの日のゲーム。メンバー表の上から3番目。スタメンの位置に“児玉勇翔”の名前が印刷されていた。チームメイトが勝利という形のバトンを繋いでくれたことで、児玉は再びピッチに戻ってきた。

 白と黒の選手たちが、陽の傾きかけた緑の芝生へ崩れ落ちる。「自分たちのサッカーをやろうとしていたんですけど、それを全部相手に止められたところもあって、その中で失点を重ねてしまったというのは悔しいところもあります」と児玉。スコアは0-3。チームの指揮官、小嶺忠敏監督を体調不良で欠く緊急事態の中、逞しく戦った長崎総科大附の選手権は、ベスト16で幕を閉じる格好となる。

「2回戦でケガしてしまって、痛みは少しあったんですけど、今日は普段通りやれたと思います。個人としては試合に出られたことは嬉しいですけど、チームが勝利できなかったので、悔しさはあります」とオンライン会見で言葉を紡いだ児玉は、改めて大会の総括をこう口にする。

「初戦は先制されながらも逆転できたのは、チームとして良かったと思いますし、2回戦も自分がいなくなってから チームのみんなが立て直してくれて、それで勝利できたというのは成長できたと思います」。とりわけ自身の負傷退場を受けて、チームが1つになって引き寄せた2回戦の勝利は、キャプテンの心に深く刻まれていたようだ。

 大分から長崎の地へ飛び込んで3年。歴戦の名将であり、教育者としても知られる小嶺監督の元で学んだ時間が、これから先の人生の大きな指針になることは疑いようがない。

「サッカーも多く学んだんですけど、人間性の部分もそうで、これから先はみんな大学生や社会人になると思うんですけど、サッカー以外のところも多く学んだので、そこは凄く感謝しています」。

 3年間で一回りも二回りも大きくなった人間性を携えて、児玉と3年生たちは、それぞれの新たな道へと旅立っていく。

(取材・文 土屋雅史)

●【特設】高校選手権2021
▶高校サッカー選手権 全試合ライブ&ダイジェスト配信はこちら

TOP