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3年生のたゆまぬ努力で引き寄せた全国8強。前橋育英は寒風吹きすさぶいつものグラウンドから、またスタートを切る

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前橋育英高は準々決勝で涙の敗退

[1.4 選手権準々決勝 大津高 1-0 前橋育英高 フクアリ]

「前橋育英さんの素晴らしいサッカーに敬意を表したいなと思います。相手チームの方が素晴らしいサッカーをしていたと思います」。大津高(熊本)を率いる山城朋大監督の言葉に、準々決勝の80分間が凝縮されている。攻めて、攻めて、それでも前橋育英高(群馬)はゴールを奪い切れず、国立競技場への道は閉ざされる結果となった。

 前半11分の失点が、より試合の構図をハッキリとしたものに変えていく。「もっとお互いに攻めたり、守ったりの攻防を僕らは予想していたんですけど、結構ラインが下がっていて、スペースを消されていたという感じですね」とはチームを率いる山田耕介監督。少しずつ守備へと比重を傾けていく相手に対し、チャンスは作り続けるものの、なかなか決定的なシーンまでは生み出せない。

 前線で縦関係気味に並んだFW守屋練太郎(3年)にMF小池直矢(2年)、右SHのMF渡邊亮平(3年)、左SHの長崎内定MF笠柳翼(3年)が細かいパスワークにドリブルを組み込みながら、何度もエリア付近へ迫る。

 もともとボランチを務めていた両SB、右のDF大竹駿(3年)、左のDF岩立祥汰(3年)も好配球を繰り返し、MF根津元輝(2年)とMF徳永涼(2年)の実力派ドイスボランチは、根気強くボールを動かしていく。

 チームの堅陣を支えるDF桑子流空主将(3年)とDF柳生将太(3年)も、失点以降は高い集中力を保ち、最後尾では守護神のGK渡部堅蔵(3年)がビルドアップにも参加しながら、指示の声を途切れさせない。

 3回戦の鹿島学園高(茨城)戦で2ゴールを奪ったFW高足善(2年)、群馬内定のDF岡本一真(3年)と、2枚の交代カードも課せられた役割を的確にこなしていく。だが、肝心のゴールは生まれず。ファイナルスコアは0-1。「前半の最初に失点して、自分たちがボールを持つ時間が長かったんですけど、相手に引かれた状態で、そのゴールをこじ開けることができなくて、そこの最後の詰めの甘さが出た試合だったのかなと思います」。桑子はそう言って、悔しさを噛み締めた。

 思い描いていたような1年間ではなかったことは、間違いない。「当初新チームがスタートしたころは結構大変だなと思いました」と指揮官も素直に明かしたように、昨年からのレギュラーもほとんど残っていなかったチームは、前進と後退を繰り返しながら、まさに一歩ずつ、ゆっくりと歩みを進めてきた。

 日本一を掲げて福井に乗り込んだインターハイでは、2回戦で東山高(京都)に0-1で惜敗。「細かいところの映像を見せて、振り返りをやって、トレーニングをやっていくことの繰り返しなんですけど、それによって1つ1つがクリアされていったようなところがあって、そういう地道なことを日々やっていかなくちゃいけないなというのは感じました」と山田監督。もう一度足元を見つめ直し、選手権への挑戦権を勝ち獲ってきた。

 全国初戦の草津東高(滋賀)戦でハットトリックを達成した守屋も、予選では準決勝まで無得点。「シュートが全然多くなかったので、シュート数を増やしたくて、結構強引にシュートを打ったりするプレーを増やしました」と意識改革に着手し、決勝ではチームを群馬制覇に導くゴールを奪ってみせた。

 力強いプレーで最終ラインのキーマンとなった柳生も、夏前まではセンターバックやボランチの控えという立ち位置。それでも、「自分のストロングを出して行けば試合に出れる」と憧れのセルヒオ・ラモスのプレーを参考にしながら、対人の強さをひたすら磨き、不動の定位置を手に入れた。

 守護神の渡部は公称“177センチ”。小柄だという周囲の評価を十分に受け入れた上で、「ハイボールに出ていけないと試合にも出られないので、身長がない分、そういうトレーニングは誰よりもやってきましたし、そこの練習量に自信はあります」ときっぱり。アグレッシブなスタイルを貫き、この日も果敢な飛び出しからのファインセーブで、決定的なピンチを回避している。

 選手権では全4試合に出場を果たし、攻守に存在感を発揮した大竹は、12月のプレミアリーグプレーオフで岡本の負傷欠場を受け、“代役”としてプレミア昇格に貢献。当時は「自分が代わって出ているから負けたとは言われたくないですし、しっかり歴史に名を刻めるように、自分を高めていきたいと思います」と話していたが、今大会では“主役”級のパフォーマンスでチームを何度も勢い付けた。

 とりわけ3年生たちが自分自身にできることを見つめ、課せられた役割を最大限に理解し、努力を重ねてきたことで、チーム力の輪はどんどん大きくなっていった。山田監督の「だんだん良くなりまして、ビルドアップの質も良くなって、徐々に伸びてきたなという1年間だったと思います」という言葉にも頷ける、非常に成長率の高いグループであったことは語り落とせない。

 新チームには悲願の昇格を成し遂げたプレミアリーグの舞台が待っている。先輩たちの“置き土産”を、根津や徳永を中心とした後輩たちが引き継ぎ、チームとしての経験値を積み上げていく。山田監督は来シーズンに向けて、こう言葉を紡いだ。

「よりハイレベルなところで1年間戦えますし、おそらく反省の繰り返しや連続で、だんだんチームも個人も伸びていくんだろうなと思うので、頑張りたいです」。

 最上級生たちがたゆまぬ努力で手繰り寄せた、全国ベスト8という素晴らしい成果。そんな3年生たちの背中を見ていた下級生たちは、その姿勢が示した答えを自分たちの力に変え、また寒風の吹きすさぶいつものグラウンドから、1年後の栄冠を見据えてスタートを切っていく。



(取材・文 土屋雅史)

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