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[船橋招待U-18大会]歴史の継承と最先端の変化と。東京Vユースは「隣のヤツには負けたくない」日々をランドで積み上げる

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東京ヴェルディユースは激しい競争の中で切磋琢磨を続ける

[3.26 船橋招待U-18大会 千葉U-18 1-0 東京Vユース]

“ヨミウリ”の名を冠していた時代から、常に日本の育成のトップを牽引してきた、伝統と歴史のある無類の『サッカー好き集団』。濃厚な緑のDNAは間違いなく今の選手たちにも引き継がれている。そのグループを、柔軟な思考と揺るがない芯を持ち合わせているこの指揮官が率いているところに、組織としての奥深さを感じさせる。

「非常に良い経験をさせてもらっていますけど、彼らにとっても貴重な高校生活の時間なので、自分のことだけを考えていてもダメだと思いますし、しっかり結果を出しつつ、選手をもっと成長させていかないといけないなということは感じています。その中でトップへと昇格する選手がもっと増えていくことで、少し先になりますけど、大学経由で帰ってくる選手ももっと出てくると思いますし、そういう選手をより多く出したいですよね。結果と育成のところを両立できるように、できる限りのことはやりたいなと考えています」(中後雅喜監督)。

 積み上げられた歴史の継承と、時代に応じた最先端の変化と。それでも、やはりヴェルディはヴェルディ。クラブOBの中後雅喜監督に率いられた2022年の東京ヴェルディユース(東京)も、やはりサッカーの多面的な魅力にあふれている。

 第1試合は『勝負強さ』を感じさせる逆転勝ちだった。おそらく今回の船橋招待U-18大会の中でも、屈指の攻撃力を有する静岡学園高(静岡)との一戦。翌週に控えたプリンスリーグ関東の開幕も見据えたメンバー構成の中で、立ち上がりから押し込まれる時間が続き、先制点を献上してしまう。

 だが、失点から3分後に新10番のMF新鉄兵(新3年)が同点ゴールを叩き出すと、後半20分(25分ハーフ)にはFW白井亮丞(新2年)が力強く決勝ゴール。難敵相手に逆転勝利を手繰り寄せる。

「入りのところで静学さんが特徴を出してきた中で、本当に上手い選手が多くて、対応に苦しんで先に失点してしまったんですけど、そのあとは上手く対応しつつ、すぐに点も獲り返せましたし、そういう意味では逆転もできて、評価できるような形ではありましたね。でも、やっぱり始めから失点せずに自分たちのリズムでできなかったので、ボールを持たれる時間も長かったですし、そこは改善点かなと思います」。もちろん指揮官の考える基準は、決して低くない。

 第2試合は『多様性』を感じさせる惜敗だった。ジェフユナイテッド千葉U-18(千葉)と対峙したゲームは、新1年生をチームに組み込んで戦うチャレンジングな陣容。とりわけ中盤は3人全員がニューカマー。MF粕谷晴輝(新1年)、MF土屋光(新1年)、MF千葉サニー大生(新1年)。いずれも“ヴェルディ感”のある小柄なアタッカーたちが、ピッチの中を楽しそうに泳いでいく。

「相手が非常に良いチームでありながら、自分たちの形でサッカーができたので、結果は負けてしまいましたけど、面白いゲームだったかなと。先が楽しみだなと思わせてくれるような選手も多かったですし、楽しみなチームだなとも感じましたね」。このプレシーズンの時期だけあって、勝敗だけではない部分にも指揮官はフォーカスを当てている。

 チーム内での競争は、既に激化している。静岡学園戦では中盤のポジションで、U-16日本代表候補でもあるMF山本丈偉(新1年)がスタメン出場。早くも確かな存在感を示していた。

「他の1年生にもやっぱり悔しいと思ってほしいですし、逆に言えば自分もチャンスがあると思ってほしいですよね。ちょっと小粒な選手が多いですけど、技術や立ち位置はいいですし、『アピールしないといけないよ』ということは伝えているので、そういう意味で2試合目はチャンスと捉えてやってくれたのかなと。そういうふうに切磋琢磨することでチーム力が上がっていくと思いますし、今日来れなかった選手も含めて、まだまだケガ人も含めて良い選手もいますし、もっと良い競争をしていってほしいですよね」(中後監督)。

 山本の言葉も印象深い。「他のチームの同世代で意識する選手はそんなにいないですけど、自分のチームの同学年には負けたくないという想いはあるので、先発で出て頑張りたいです」。健全な競争意識と、隣のヤツに負けたくないという想いが、ランドでの日常をより濃厚な時間に高めていく。

 今シーズンはトップチームでもMF山本理仁、MF石浦大雅、DF馬場晴也と昇格3年目のアカデミー出身者が定位置を掴み、やはりDF谷口栄斗やDF深澤大輝といった大学経由でクラブに帰ってきたアカデミー育ちの選手たちも、出場機会を手にしている。山本たちの代にもユースの指揮官として携わった中後監督は、その現状をこう口にする。

「もちろんチームとしての今までの指導の流れと、今まで彼らに携わった方々の力ですし、それが今トップチームで出てきているというのは喜ばしいことだと思いますし、今の僕の立ち位置では、それをずっと継続していかなくてはいけないですよね。もっと言えば下のカテゴリーから積み上げていくことも大事になってきますけど、そういうクラブとしての成果が出ているかなということは感じていますし、そういう選手をより多く出すために自分も成長しなくてはいけないなと」。

「トップは僕らの人工芝の練習場のすぐ上の天然芝のグラウンドでやっているので、『そういう環境が身近にあるんだ』ということをより意識しながら、やっていってほしいなと。僕自身も選手たちも、クラブもそれを継続して、どんどんアカデミーの選手が試合に出ていく、大学経由で戻ってきた選手も含めて、そういう選手をより多く出せるように、全員で努力できたらいいかなと思います」。

 ちなみに、中後監督は千葉U-18出身。この日の一戦は自身にとって“古巣対決”でもあった。そのことを問われると、クラブに対する小さくない想いが零れ落ちる。「やっぱり僕はジェフで育っているので、常に気にはしていますよ。ただ、サッカーはその頃とはだいぶ変わっていますし、違った形で整理されてきているので、近い将来もっとより高いレベルで、育成の選手がトップで出るような形になってくれたらいいかなと思っていますけど、ジェフもヴェルディも今はJ2なので、やっぱりJ1に戻って、またトップチームもアカデミーも上のステージで戦えればいいかなと思っています」。

 この時期だからできること、できないこと、やれること、やりたいこと。あらゆるものを柔軟にジャッジしつつ、3日間で戦った6試合は間違いなく彼らの小さくない蓄積になるはずだ。

「負けた試合はもちろん全部悔しいですけど、良いプレーはしてくれました。選手にも『良いプレーはできたからポジティブには捉えたいけど、やっぱり結果のところは負けているし、これを引き分けにするとか、勝ちにするとか、そこは伸びしろの部分で変えられる』と。もちろんすべての試合に勝ちたいですけど、勝てばいいわけではないですし、特にこういうフェスティバルだからこそチャレンジできる選手もいるわけで、それを生かしていく選手も出てくることを考えれば、公式戦になったらより勝敗は出てきますけど、今日の試合は全員が出られた中で、良い表現もしてくれたので、これからが楽しみですね」(中後監督)。

 やはりこのチームには、憎たらしいぐらいの強さと面白さを纏っていてほしい。今シーズンも東京ヴェルディユースは、サッカーの魅力を存分に表現しながら、自分たちの帰るべきステージを全員で目指していく。

(取材・文 土屋雅史)

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