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PK戦10人目で訪れた守護神の直接対決、川崎Fソンリョンが挑んだ心理戦「僕がインサイドで蹴ったので…」

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川崎FのGKチョン・ソンリョン

[12.9 天皇杯決勝 川崎F 0-0(PK8-7) 柏 国立]

 守護神は自らPKを決め、PKを止めて優勝を掴んだ。川崎フロンターレは2020シーズン以来の天皇杯制覇。自身のプレーで優勝の瞬間を迎えたGKチョン・ソンリョンは「2位は記憶に残らない。後悔もする。優勝したこともあり、そういう自信を持ってピッチに立てたことがよかった」と喜びを口にした。

 120分の死闘でゴールを守り切った。強力な攻撃陣を擁する柏レイソルに作られたチャンスは多かった。しかし、守護神が立ちはだかった。後半24分には柏のカウンターを食らう。FW細谷真大の突破に素早く反応したのはソンリョンだった。また、延長前半4分にも細谷と1対1で対峙。だが、再びソンリョンが体で防ぎ切った。

 これまで数々のピンチを救ってきた百戦錬磨だ。ソンリョンは細谷やFWマテウス・サヴィオの名前を口にしながら「そういう状況が起こり得るという予測はしていた」と明かす。「僕のストロングポイントは1対1を止めること。先に転ばないように、相手を見て威圧感を与えようとした。運もよかった」と手応えを語った。鬼木達監督も「あそこで決められていたら難しいゲームになっていた」とソンリョンを称えていた。

 120分をスコアレスで終え、決着はPK戦に委ねられた。10人目までもつれ込む死闘。先攻・川崎Fの10人目はソンリョンが務めた。右足のインサイドキックで放った弾道はゴール右隅に突き刺さる。そして後攻・柏の10人目、GK松本健太と対峙した。

 同じGKだからこそキックの心理はわかる。ソンリョンは横っ飛びで松本のシュートを阻む。「僕がインサイドで蹴ったので、そのあとでインサイドで蹴らないだろうなと思った。一回逆(に行く素振り)を見せて、タイミングを合わせて止めた」。経験値で上回るソンリョンが守護神対決を制した瞬間、川崎Fの優勝が決定した。

 仲間たちはソンリョンの活躍を手放しで喜んだ。ソンリョンはFW家長昭博の言葉を明かす。「止めたのもすごいけど、キックもすごいなと褒めてくれました(笑)」。また、優勝が決定した瞬間、チームメイトのGK上福元直人が誰よりも早く駆け付けた。「あっちに走っていこうと思ったら、カミ選手がすごい勢いで来た。一緒に抱きあえてよかった」。2年ぶりタイトルの喜びを噛み締めた。

 川崎Fで黄金時代を築いたベテランだが、メンタル面で余裕だったわけではないという。試合中に1人でうずくまるシーンがあった。精神統一を図っていたかと思いきや「本当に集中をしていて…集中しすぎてクラっとした感じもあった。ちょっと水が足りなかった」と打ち明ける。優勝が懸かった大一番に、守護神も人知れず緊張していたようだ。「水はいっぱい飲みました。サントリーの。スポンサーのサントリーの水を飲んだ」と冗談めかして恥ずかしさを隠していた。

(取材・文 石川祐介)
●第103回天皇杯特集
石川祐介
Text by 石川祐介

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