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[Fリーグ]戸惑いが産む一体感 FP渡邉「今年のチームはある意味、名古屋っぽくない」

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『変わった練習をするなぁ』。初めてオーシャンアリーナで開催されるセントラル開催に向けたトレーニングの中で、名古屋オーシャンズのFP渡邉知晃は、そう感じていたという。その練習メニューとは、CKからグラウンダーで出されるボールと浮き球のボールをシュートするというものだった。セットプレーの確認自体は、珍しいことではない。ただ、フットサルは選手交代が自由ということもあり、セットプレー練習は、ある程度メンバーを固定してやる。しかし、今季から名古屋の監督に就任したばかりのビクトル・アコスタ監督は、全員の特徴を把握したいという意図もあったのか、全選手にシュート役を命じたという。

「結構、みんな『?』な感じでやっていたんですけどね(笑)。多分意図があったと思うんですよ。昨日の大阪戦でも、実際に僕と白方の2人が、その形からゴールを決めていますから。『練習の成果が出たな』っていうのは、試合が終わってから思いましたね。そんな基礎練みたいなメニュー、小学生くらいしかやりません。それを『まだやるの?』っていうくらい反復してやって。ただ、自分の中では、あれで良い感触をつかめていました」

 実際に渡邉は大阪戦、湘南戦と2試合続けてボレーシュートを決めている。指揮官がどういう意図からそのメニューを行ったのかは、残念ながら聞けなかったが、効果的であったことは結果が証明している。さらに、今季の名古屋はセットプレーからのゴールも増えた。FPリカルジーニョ、FP逸見勝利ラファエルが抜けた中でも、チームは着々と組織力を高めて、点を取る形をつくっている。

「日本代表でミゲル・ロドリゴ監督がやっているセットプレーに通じる部分もあるんです。だから、代表に行っている選手たちは、比較的受け入れやすい。『ここでブロックして、個々に人を通してやるんだな』っていう風に。ほとんどの選手が代表に行っていますし、状況に応じて、いろんなバリエーションができるのかなと思います」

 新監督の戦術を少しずつ消化している名古屋だが、まだ戸惑いがあることは否めないようだ。昨年、公式戦無敗で3冠という偉業を達成したことは、変化を難しくしている一つの要因だと渡邉は言う。

「うまくいかないときに『昨年までやっていたやり方のほうが、いいんじゃないの?』と思ってしまうんですよね。勝ってきましたし、昨年の無敗の1年というのが、どうしても昨年からいた選手には残っていますからね。失点したときも、正直、『こうしたら、今のは防げただろう』というのは、みんな頭にあると思う。けど、一人が勝手にやったら、バラバラになってしまうので、そこは我慢してやらないといけない。そういう葛藤はあると思いますが、割り切ってやっていくしかないですね」

 異なる戦術を消化しながら、結果を残す。この2つの極めて困難なタスクを、名古屋は同時にこなしている。そのカギになっているのは「これまでと異なる一体感」だと、渡邉は説明する。

「みんなが一つにならないと勝てないっていうのを強く感じていますね。昨年は『絶対に勝てる』とみんな思っていたはずです。やっていて負ける気がしなかったし、焦りが一切ない、自信のある一体感でした。でも、今年のは危機感があるからこそ、まとまらなければいけないという一体感ですね。薫くんがPKを室田に譲ったり。ああいうのが今年のチームの一体感ですね。うちは基本、弱肉強食でしたからね。僕が入ったときなんて、そんな気遣いありませんでしたよ(笑)。『自分で勝ち取って、自分でやれ』『出られなかったら自分のせい』って感じでしたから。今年のチームはある意味、名古屋っぽくないですよ」

 今季の名古屋に死角は、ある。それでも、結果に直結する新指揮官のトレーニング内容、そして選手間の連帯感で、その穴を埋めている。チームが完成する前に、どこかが名古屋の歯車を狂わせられなければ、今季もリーグは早期決着を見ることになりそうだ。

(取材・文 河合拓)

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