beacon

[選手権]「今日は70点」で5点大勝の前橋育英

このエントリーをはてなブックマークに追加

[12.31 全国高校選手権1回戦 前橋育英5-1宮古 駒場]

「上州の虎」前橋育英(群馬)が宿願の「4強超え」を目指して初戦をきっちりとものにした。あらゆる意味で好対照の両チームだった。選手権過去4度のベスト4という実績を誇る前橋育英は部員172名。メンバーにはサブも含めて国体選抜がズラリと並ぶ。応援席には惜しくもメンバー入りできなかった部員が大声を張り上げ、ブラスバンドとチアが華を添える。

 一方、宮古(沖縄)は全員が離島・宮古島出身で12年ぶり2度目となる選手権出場。小、中学校からともにプレーしてきたチームは、自然とひとつにまとまっている一体感を感じさせる。応援席にブラスバンドもチアもいないが、人数の多さは前橋育英とひけをとらず、ひとつひとつのプレーに対する歓声と指笛、そしてエアスティックを叩きまくる音量はむしろ相手を凌駕していた。

 スタイルも対照的だ。しみついた基本技術と戦術理解をベースに、意図がはっきりしたプレーを積み重ねゲームを支配する前橋育英は冷静沈着。ボールの流れに身を任せるように豊富な運動量で粘り、動き回る宮古からは熱を感じた。

 試合ははっきりと地力の差が出た形になった。キックオフからボールを支配する前橋育英は、サイドチェンジなどでワイドに展開。堅守がウリである宮古DF陣の目をサイドに向けさせ、広げてから中央を攻め込む。その狙い通り前半8分、右サイドのMF上田慧亮 (2年)の折り返しを受けたFW外山凌(3年)が確実にシュートを決めて先制。前半23分にもサイドからのセンタリングがルーズボールになったところをボランチのMF小川雄生 (3年)が得意の弾丸ミドルでネットを揺らした。

 宮古は1失点後の前半15分あたりからスタイルである「堅守速攻」の形が見られるようになる。ただ、フィニッシュまでなかなかたどりつかない。小気味のよいパス回しは出るものの、ゴール前で前橋育英DFに体を入れられてしまう。前半は前橋育英2点リードでの折り返しとなった。

 後半も前橋育英ペースは変わらない。しかし、前半に比べてシュート数が減った。宮古イレブンの粘りのディフェンスが奏功しているように見えた。しかし、そこから反転攻勢とはいけないところが苦しい。後半の入り、シュートこそないものの前半以上にポゼッション率を高める前橋育英に対し、宮古は守備で手いっぱい。徐々に強めてくる前橋育英の圧力が、まるでボディーブローのように効いてきて、宮古DFの位置はじりじり下がっていく。そうなると、マイボールになる機会があったとしても、攻撃に人数をかけられない。

 それでも次の1点が宮古に入ればわからない。そう信じて懸命に守備をする彼らの集中力を打ち砕いたのが先制ゴールを挙げた外山だった。前橋育英は後半27分、左サイドでボールを持つとドリブル突破をしかける。相手DFの寄せが甘いと見るや、そのまま一人で持ち込んでゴールを陥れた。これで宮古の集中が切れたか。わずか1分後、またも左サイドからの崩しから、最後はDF高田龍司 (2年)が押し込んで4点目。後半36分にも左サイドから今度はMF三橋秀平 (3年)にぶっちぎられ、5点目が決まる。

 結局、宮古は試合終了間際の後半38分、相手GKのミスから、途中出場のFW砂川鉄信 (1年)が押し込んで1点を返すのが精いっぱいだった。5点大勝発進に、前橋育英の山田耕介監督もご満悦かと思いきや、試合後の表情は重いものだった。「パスミスが多く、どこかぎこちなかった。ただ、いちばん大事だった初戦。そこを勝ちきったので今後変わってくるのでは。スムーズにパスが回ってくれることを期待します。今日の出来は…平均点よりやや上ぐらいでしょうか。それでも初戦を勝ち切ったので70点ぐらいかな」。今や関東を代表する力を持つようになったといえる前橋育英。その視線は目の前の一戦に集中しつつも一喜一憂せず、自分たちの居場所を客観視する冷静さを失っていない。

「前半に2点を取られて元気がなくなった部分はあった。後半開始後も少しは止められたが力負けしました」と、宮古の上間良哉監督は淡々と振り返った。自分たちのスタイルが全く出せなかったというわけではない。残念だったのは力を発揮できる機会が散発になってしまったことだった。が、攻守にわたり体を張り、ピッチを走る姿に応援席からの歓声が途切れることは80分を通して一度もなかった。「今大会、学校では応援団というものを組んでいません。それでも父兄の方々が各自で来てくれたり、関東に住んでいる島出身の方々、そしてサッカーで提携している浦和市民の方々がたくさん、宮古島のために来て下さった。それは本当にありがたいことです」。選手権初勝利はかなわなかった。しかし、勝利以外の何か心地よいものを応援席には間違いなく届けることができた。勝って兜の緒を締める勝者、負けてなお清々しい敗者。両者の姿は最後まで対照的だった。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文/伊藤亮)

▼関連リンク
【特設】高校選手権2012

TOP