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[選手権予選]「マイナスからのスタート」切った北陸が劇的決勝点で5年ぶりの選手権へ:福井

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[10.29 全国高校選手権福井県予選決勝 北陸高 2-1 福井商高 丸岡スポーツランド]

 第95回全国高校サッカー選手権福井県予選決勝が29日に行われ、北陸高福井商高を2-1で破り、5年ぶり4回目の選手権出場を手にした。

 一昨年はPK戦、昨年は延長戦。過去2年、予選の決勝であと一歩及ばず涙を飲み続けた北陸が3度目の正直を果たした。ただし、これまで同様、試合運びは決して楽ではなかった。最初のピンチは開始直後。福井商のロングボールを受けたDFのクリアを福井商FW渡邉律己に奪われ、GKとの1対1に持ち込まれたが、これはGK椎葉俊介が辛うじてブロック。続く前半4分にも左サイドのスローインがPA内に入り、渡邊のポストプレーからFW赤坂慶司にボレーシュートを打たれてしまう。

 強烈な向かい風を受けながらも何とか立ち上がりのピンチを防いだ北陸は徐々に攻撃の糸口を掴み、10分に中盤からのスルーパスに反応したFW三宅勇輝がPA左からクロスを展開。GKの頭上を越えたボールはゴール前に落下したが、味方とわずかに合わずに終わる。以降も、チャンスを作りながらも、「前半は前線にパスが入る度に盛り上がる福井商の雰囲気に飲まれていた」(松本吉英監督)。

 それでも、22分に相手のゴールキックをMF高嶋竜輔がヘッドではじき返すとこぼれ球に反応した三宅が体勢を崩しながらも前線にボールを流す。反応したのは1年生のMF杉村勇輔。相手DFの背後で受けたファーストタッチは大きくなってしまったが、PAに入った所でGKに倒され、PKを獲得すると、高嶋が落ち着いて決めて均衡を破った。しかし、37分には再びピンチが到来。福井商は左サイドからゴール前に入ったMF村田拓哉のFKに渡邊がジャンプで反応。視界を遮られたGKがこぼしたボールを赤坂が押し込み、試合は振り出しとなった。

 エンドが変わった後半は北陸が試合の主導権を握ったが、17分に放ったMF吉田迅杜が放ったミドルシュートがクロスバーに拒まれるなど追加点が奪えない。次第に福井商もロングボールから攻撃の機会を掴み、試合終了間際の40分にはエリア右でFKを獲得すると、ゴール前に浮き球を展開。DF森崎友斗がGKと競り合ったこぼれに赤坂が反応し、がら空きとなったゴールマウスを狙ったが、北陸DF中山惠司が身を投げ出し、失点を回避した。絶体絶命のピンチを凌いだ北陸はこのクリアボールを素早く前線に運び、CKを獲得。MF坂東陽優吾がゴール前に入れたボールを途中出場のFW舘日向が頭でたたき込んで勝負あり。劇的な決勝点で熱戦を締めくくった北陸が全国行きの切符をもぎ取った。

 最後まで諦めない粘り強い戦いを見せた北陸だが、今年は近年で一番弱いという声も多くあった。原因は昨年11月に行われた新人戦の3回戦。選手権出場を逃したばかりで難しい試合だったとはいえ、覇気のないプレーに終始したため、ハーフタイムには外部コーチを務める元日本代表の水沼貴史氏から「下を向くな、もっと声を出せ。俺は選手、指導者になってからもこんな指示は一度もしたことがない」と喝を入れられた。それでも、最後まで気持ちのこもったプレーは見られず、0-1で敗戦。試合後には保護者から選手に対し、「北陸は普段からあんなサッカーをやっているのか?」との声も挙がった。「新チーム立ち上げ当初はゼロからのスタートどころか、マイナス10、マイナス20からのスタートだった」と松本監督は当時を振り返る。

「水沼さんから小学生に言うような指摘を受けて、このままじゃダメだと思った。あの試合を機に、一人ひとりの意識が変わった」。そう振り返るのは主将を務める高嶋。屈辱的な指摘を受け、日々のトレーニングと真摯に向き合うようになり、メンタル面が少しずつ成長していった。この日も、同点に追いつかれただけですでに負けたかのような顔を見せていた選手がいなかったわけではない。だが、指揮官が新人戦の時との違いを感じたのはハーフタイムの出来事。暗い表情を見せる選手に対し、高嶋やDF梅田亮祐が「まだ負けたわけじゃねーぞ。下を向くな」とハッパをかけていたこと知り、成長を感じたという。

 前回、選手権に出場した5年前は初戦で大分高に0-10と大敗し、力の差を痛感させられた。「全国で勝つこと」(三宅)を目標に掲げる今回も決して楽ではない戦いが待ち受けるはずだが、マイナスから大きな成長を遂げた彼らなら不可能なミッションではない。この一年の成長を全国で示すことで、5年前からチームとしても成長したことを示してくれるはずだ。

(取材・文 森田将義)
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