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「これはオレが蹴る」。“帝京長岡っぽくない”ストライカー。FW渡辺祐人が衝撃のキャノン砲で決勝弾!

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“キャノン砲”FKで逆転弾を奪った帝京長岡高FW渡辺祐人

[11.3 選手権新潟県予選準決勝 帝京長岡高 4-2 日本文理高 新発田市五十公野公園陸上競技場]

 自信はあった。何なら、いつだって自信はある。それを発揮できるコンディションが整っていなかっただけ。今は試合に出られるだけでも、幸せだ。

「もらった瞬間、『これはオレが蹴る』って。いつも蘭人と岡村が蹴っていたんですけど、『これは自分が行くしかないな』と思って、自分で蹴りました」。帝京長岡高のナンバー9。FW渡辺祐人(3年=FC多摩ジュニアユース出身)が蹴ったFKが、唸りを上げてゴールへ向かっていく……。

 2点のビハインドを背負って幕を開けた、日本文理高との準決勝。1点目はゴラッソとしか言いようのないFKを叩き込まれたが、それに繋がるファウルをしたのが渡辺だった。「焦りとかはなかったです。1点目は自分がファウルしちゃったので、自分で取り返せばいいと思いました」。やられたら、やり返す。気持ちは強く持っていたが、なかなか自身のパフォーマンスが上がってこない。

「ずっと自分の思うように行かなくて、イライラしていました。最近はドリブルしちゃって、打てるタイミングを逃してというのが多かったので、今日も多かったんですけど、そういうところが自分の中でうまく行かなかったですね」。チームは同点に追い付いたものの、モヤモヤした想いが自分の中で渦巻いていた。

 後半18分。帝京長岡はペナルティエリア付近でFKのチャンスを得る。角度的には先制弾を食らったのと同じような位置。スポットにはいつものプレースキッカー、MF廣井蘭人(2年)とMF岡村空(2年)が揃っていたが、もう1人、9番を背負ったストライカーも一緒に並んでいた。

「『もうオレが蹴るから』って言いました。練習は若干していました。(ゴールの)予感はないです。気持ちですよ」。自信は、あった。いわばFKもシュートには違いない。それなら今まで何度も、何度も、ゴールにぶち込んできた。

 短い助走から右足を振り抜くと、ボールは強烈な軌道となって、そのままあっという間に右スミのゴールネットへ突き刺さる。「軌道とか特に考えていなかったです。気持ちっすね。メッチャ嬉しかったです。『気持ちで押し込んでやろう』ぐらいに思っていたので、入って良かったです」。

 気持ちで押し込んだ割には、あまりにも綺麗な“キャノン砲”でのゴラッソ。「自分が出ているということは、出ていない他のメンバーもいるので、そういう仲間のためにも自分が決めないといけないですから」と話した渡辺の逆転弾に、バックスタンドを埋めた黄緑のチームメイトたちも一気に沸騰。高校ではFKでゴールを決めたのも初めてなら、選手権でもこれが3年目にして初ゴール。それをこの舞台に持ってくるのだから、恐れ入る。

 勝利に大きく貢献したストライカーについて、古沢徹監督はこう言及する。「去年も選手権のメンバーに入れていたんですけど、ケガでほとんど2年間サッカーをしていなくて、ようやく夏以降に出てきた子なので、想いはあると思いますし、見てもらっても分かるように“ウチっぽくなさ”がちょうどバランスが取れて、ちょっと足りないピースが夏以降にハマったかなという部分はありますね」。

 自分のことは、自分が一番よく分かっている。「蘭人とか空とか上手過ぎて付いていけないので(笑)、アイツらの時間稼ぎというか、アイツらがよりやりやすいような感じの仕事をするしか自分はできないので。いろいろやろうとすると失敗するので」。やるべきことは、至ってシンプル。ゴールを獲ること。それだけだ。

 3年生にして巡ってきた選手権へのラストチャンス。ここまでの想いをぶつける舞台は、整っている。「自分が中学3年の時に、帝京長岡に行くって決まった時が選手権でベスト8に入った代で、自分も行くからには『このチームで全国優勝したい』という気持ちはあって、去年も一応メンバーには入ったんですけど、1試合もベンチに入れなくて、結構悔しい想いをしましたし、今年はやっと自分が出るチャンスを掴めたので、優勝したいですね」。

 何かをやりそうな雰囲気は、常に漂わせてきた。あとは、自分がやるか、やらないか。『帝京長岡っぽくなさ』で勝負するストライカーのさらなる爆発を、黄緑の仲間たちが楽しみに待っている。

(取材・文 土屋雅史)

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