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絶対王者・青森山田から先制点を奪うも逆転負け。それでも八戸学院野辺地西の2021年は、まだ終わらない

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八戸学院野辺地西高はMF工藤悠晟(21番)のゴールで先制点を奪う!

[11.7 選手権青森県予選決勝 青森山田高 5-1 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 新たな歴史の扉は、確かに開き掛けていた。オレンジの歓喜がピッチに弾ける。スタンドにも、その空気が漂っていたことに疑いの余地はない。だからこそ、余計に悔しさがこみあげてくる。

「今回は節目の100回の記念大会で、『自分たちが歴史を変えよう』とずっとやってきたので、凄く悔しい気持ちしかないです。もうちょっとできたのかなと思いますし、チームとしても1点決めてから、ずっと守ってこのまま行こうという感じだったのに、悔しい気持ちしかないです」(工藤悠晟)。10秒近い言葉の中に2度、『悔しい気持ちしかない』というフレーズが口を衝く。

 5年連続での同一カードとなった高校選手権青森県予選決勝。八戸学院野辺地西高が掲げてきた『打倒・青森山田』という唯一無二の目標は、先制点を挙げた今年も叶わなかった。

 幸先は最高だった。前半12分。キャプテンマークを巻くMF木村大輝(3年)が左からFKを蹴り込むと、3バックの右に入ったDF齋藤晃葵(3年)が高い打点で競り勝つ。ボールはDFに当たって枠の右へ逸れたものの、あわやというシーンにどよめくスタンド。だが、その数十秒後。それ以上の歓声と興奮がスタジアムを包む。

 右CKのスポットに向かったのはレフティのMF村上大地(3年)。インスイングで中へ入れるようなモーションから、一転してショートパスを選択。回り込んだMF町家紅斗(3年)が右足でクロスを上げると、中央で待っていたMF工藤悠晟(3年)が宙を舞う。

「練習ではやっていたんですけど、事前に話はしていないです。あそこは来ると思っていなかったんですけど、ステップで剥がして、マークを付けない感じにしました。感覚ですね」。夢中で頭に当てたボールは、左スミのゴールネットへ吸い込まれる。

「当たり損ねたんですけど、しっかり入ったので良かったです。ビックリしました。『あ、入った』という感じで、メッチャ嬉しかったです」。工藤のゴールに、選手たちの笑顔が眩しく輝く。

「ずっと映像分析もして、山田の選手の配置ももちろんそうですし、あらゆる部分を想定しながら、大学生やJ3のチームとの練習試合でも試した中でうまく成功したので、そういった部分では良かったのかなと思います。子供たちも一生懸命トレーニングでやってきたデザインプレーなので、気持ち良かったですね」と話したのはチームを率いる三上晃監督。間違いなく、幸先は最高だった。

 “5年目”の決勝で初めての先制点。しかし、この1点が王者のプライドに火をつける。「やっぱり点を獲った後でしょうね。相手が本気になって、パワーもギアも上げた中で失点して、前半は1-1で折り返せれば良かったんでしょうけど、勝ち越されてしまったので、またそこに山田さんの強さがあったなと思います」(三上監督)。先制から2分後に追い付かれると、前半のうちに逆転を許す。

 後半は次々と失点を重ね、ファイナルスコアは1-5。「今までやった相手の中で一番強かったです。収めるところだったり、2人目の関わりだったり、凄い連携ができるなと思いました。やれた手応えも少しはありましたけど、チャンスを作られて、そこでゴールを決められるという決定力が凄かったです」と工藤。全国チャンピオンの壁は、厚く、高かった。

「強い。強すぎです」。開口一番、青森山田をそう評した指揮官は、特に差を感じた部分をこう語っている。「本当に強さと速さがある相手に対して、やっぱりもうちょっと我々も技術じゃない部分、そこをもう1回やり直さないとなと。才能じゃない部分ですよね。努力する部分をもうちょっと伸ばして、太刀打ちできるようにならないといけないなと思います」。

「たぶん山田は松木(玖生)や宇野(禅斗)が一番ボールを受けて、一番走っていたと思うので、そういうサッカーで大事な“走る”部分は我々もやってきているつもりですけど、山田とやると『もっともっとやらなくてはいけない』と、改めて感じますね」。上手くて、強くて、速い。青森山田はそれだけではない。彼らから学ぶ『才能じゃない部分』を、『努力する部分』を、もう一度見つめ直す覚悟は固まった。

 試合後。少し長めのミーティングには、理由があった。実は彼らの2021年は、まだもう少し続くのだ。「幸いなことに、12月にプリンスリーグ参入戦があるんです。これで終わりであれば泣き崩れて、というミーティングになるんでしょうけど、目標はもう1つありますから。今日でひと区切り付いたので、今度は後輩たちがもう1個上のステージでやって、強くなって、本当に打倒・青森山田のために戦える環境を、という目標設定を最後に確認しました」。この日の経験を生かす舞台は、しっかり残されている。

 三上監督が口にした言葉には、おそらく県内の高校が抱えている共通の想いが滲んでいる。「青森県自体がこういう状況なので、ここでプリンスリーグに我々が出る必要があると思っています。『青森県は“山田一強”』と思われている部分もあると思うので、青森県のそういったところを僕らが変えていきたいですよね」。

 工藤がうつむきながら発した想いも印象深い。「もっとできたかなと思いますし、もっとやれたかなと思います。ちょっと心残りはあります」。ならば、ぶつけよう。心残りも、悔しさも、3年分の努力も。正真正銘、高校サッカーの“終わり”までは1か月。2021年度を全力で駆け抜けてきた八戸学院野辺地西の挑戦は、まだ終わっていない。

(取材・文 土屋雅史)

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