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「おれが10番で、青森山田を勝たせられなくてすみません」涙止まらぬ小湊絆へ、指揮官の愛ある言葉「いまここで約束しろ」

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青森山田高FW小湊絆(3年)

[1.4 選手権準々決勝 青森山田 1-2 神村学園 等々力]

 青森山田の背番号10は、選手権の舞台でも躍動した。前半34分、FW小湊絆(3年)は自らボールを奪い切り、DF中山竜之介(3年)の先制ゴールをアシストした。だが、接戦の末に神村学園高に逆転負け。「最後は笑って終わりたかったですけど、それが叶わなくなってしまったのが一番悔しいです」。試合後、涙とともにあふれる思いを語った。

 数多の英雄たちが着けた番号だ。日本代表MF柴崎岳も袖を通し、昨年度は松木玖生がその番号を背負い、3冠を達成した。それは憧れであり重圧。小湊はプレッシャーに苦しみながらも、それを跳ね除けるべく奮闘を続ける。プレミアリーグでは前期に5連敗を喫し、夏のインターハイは初戦敗退。それでも県予選決勝では、小湊が延長後半に選手権出場決定ゴールを挙げた。実力が本物であることを証明し続けた。しかし、高校サッカーの頂点に立たない限り、10番の重みがなくなることはなかった。

「あんなにかっこよく見えた金色の10番の文字が、試合を重ねておれが着るごとにどんどん価値が見えなくなった。おれが着けていい番号なのか……という思いがあって、本当に最後までおれでよかったのかな、おれには山田の10番は重すぎたのかなと」

 前回大会では10番・松木がチームを率いて3度目の制覇を成し遂げた。そして今年度は王者として、連覇を達成することができる唯一のチームだった。高校サッカー界の最強を掲げ、追われる立場として戦い続けた。「どこのチームよりもおれらが一番苦労した自信がありますし、悔しい思いをしてきた自信もある。だからこそ、最後は笑って終わりたかった。それが叶わなくなってしまったのが一番悔しいです」。試合後のミックスゾーンでも、涙は止まらない。

 正木昌宣監督からは愛のある言葉をもらったという。「正木さんにはそういう10番が大好きだったよと言ってもらいました。自分自身では本当に物足りなかった。だけど、周りから一言でもそうやって言ってもらえたことが、自分が今シーズン玖生さんから10番を引き継いで戦ってきた意味だったのかなと思います」。

 大きな挫折を味わった。だが青森山田の10番を背負える才能を、サッカーから離れさせるわけにはいかない。「おれが10番で、チームを勝たせられなくてすみません」と伝えた小湊に対し、黒田剛総監督や正木監督はひとつの約束をさせたという。

「2人とも絶対にプロになれよと、いまここで約束しろと言ってくれた。この悔しさは忘れることはない。この先に大学4年間がある。黒田総監督からも正木監督からも言われたプロになれという言葉を背負って、その成長の糧につなげていけたら」

 寝れない夜は何度もあった。だが、それもすべて“財産”という言葉にまとめる。「本当に苦しい時間ではありましたけど、3年間で最高の仲間と最高の指導者と過ごせた。自分にとっては本当にこの先の人生の財産になる」。卒業後は法政大でサッカーを続ける。指揮官と結んだ約束とともに大学サッカーの頂点へ。そして、プロの舞台を目指していく。

(取材・文 石川祐介)
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