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[MOM4200]岡山学芸館MF木村匡吾(3年)_“守備の人”が国立の決勝で鮮やかな2ゴール!日本一の主役はまぎれもなく「学芸館の木村匡吾」!

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2ゴールでチームを日本一へ導いた岡山学芸館高MF木村匡吾(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ supported by sfida]
[1.9 選手権決勝 岡山学芸館高 3-1 東山高 国立]

 その男は国立競技場のゴールネットを鮮やかに揺らす。しかも一度のみならず、二度までも。そのたびに5万人の観衆を飲み込んだスタンドが波打ち、信じられないほどの大歓声が巻き起こる。その歓喜のど真ん中もど真ん中に立っていた165センチの小柄な身体が、誰よりも輝いて見えた。

「日本一を目標とはしてきたんですけど、実感が湧かないというか、嬉しい気持ちが一番強いです。点を獲りたいという気持ちは凄くありましたけど、2つもゴールを獲れた理由はよくわからないですね(笑)。でも、獲れて良かったです」。

 衝撃の2ゴールでチームを日本一に導いてみせたナンバー7。岡山学芸館(岡山)をボランチの位置で牽引し続けた小さな巨人。MF木村匡吾(3年=高槻ジーグFC出身)が懐に忍ばせていた得点感覚が、全国大会の決勝で大きく花開いた。

 チームで目指してきた全国ベスト4の舞台。準決勝の神村学園高(鹿児島)戦を迎えても、正直に言って実感はなかなか湧いてこなかった。「一戦一戦集中してやろうとは高原(良明)先生も言ってくれていて、それがここまで結果に出てきたんですけど、ここまで来るとは正直思っていなかったです」。

 ピッチに足を踏み入れた国立競技場が、とにかく大きく見えた。「緊張してしまいました。開会式でも来たはずなんですけど、『こんなに大きかったっけ?』って。最初は少し硬いプレーが多かったですけど、前半の終わりにかけて少しずつ乗ってきたというのはありますね」。

 試合は白熱のシーソーゲームに。お互いに3点ずつを奪い合い、もつれ込んだPK戦。木村は2人目のキッカーとして登場すると、左上に迷いない軌道をグサリと突き刺す。4人全員が成功した岡山学芸館は神村学園を振り切って決勝進出を果たしたが、自身のパフォーマンスには納得が行っていなかった。

 決勝への抱負を問うと、「守備をしっかり丁寧に、最後まで全員でやり切って、自分も粘り強さだったり、運動量を生かして、攻撃にも関わっていけたらなと思います」という答えが返ってくる。守備には自信がある。あとは攻撃にどれだけ関われるか。強い決意を持って、最後の1試合へと向かっていく。

 木村と岡山学芸館を待っていたのは、50,868人の大観衆だった。東山高(京都)と対峙するファイナル。国立のスタンドには凄まじい数のサッカーファンが詰めかける。「グラウンドに入った時も『こんなに人がおるんや』という想いはあって、かなり緊張しました」。先制こそしたものの、押し込まれる時間が続く中で、前半終了間際には豪快なシュートを決められる。「いつも通り自分たちで運動量を生かして、チームのペースを作ろうという感じだったんですけど、相手のボランチが凄く上手くて、今日は本当に苦しいゲームでした」。1-1。タイスコアで試合は後半へと移っていく。

 もともと決勝を戦うに当たり、木村はある決意を携えていた。「今までの試合はあまり高い位置が取れていなかったので、『今日は高い位置を取ってプレーしよう』という気持ちがあったんです」。ここまでは中学時代からの盟友であり、ドイスボランチを組むMF山田蒼(3年)が攻撃に比重を置いていることもあって、自重することが多かった。「今日はオレも」。その秘めたる狙いは、後半7分に発動する。

 左サイドでMF田口裕真(2年)が時間を作ると、3列目からスルスルと前へ上がっていく。マークはいない。スペースも見えた。DF中尾誉(3年)のクロスはイメージ通りの場所へ届く。宙を舞った木村が頭で叩いたボールは、左スミのゴールネットへゆっくりと吸い込まれていく。「クロスが良かったです(笑)。気持ちが出た感じですね」。スタメンの11人で一番小柄な男の、完璧なヘディング。とうとう飛び出した今大会初ゴール。2-1。岡山学芸館が再び前に出る。

 この日の主役が攻撃面で披露した躍動は、それだけで終わらない。1点のリードを保ったままでゲームは終盤へ。後半40分。右サイドで得た岡山学芸館のスローイン。「ロングスローからこぼれてくるというのはチームの狙いとしてあって、あそこは狙いどころでした」。DF福井槙(3年)がロングスローを投げ込むと、1人だけ密集から離れてポジションを取っていた7番の元へ、ボールがこぼれてくる。

「『自分のところにこぼれてこい』という想いでずっとあそこに入っているので、それがたまたまこぼれてきてくれて良かったです」。右足の“すね”で叩いたボレーは、右スミのゴールネットへ確実に到達する。「攻撃でも活躍できるボランチになりたいという想いが強くて、ここまでは毎回結果を残せずに悔しい想いはありました」。“守備の人”が、高校生活の最後の最後で解き放った獰猛な攻撃性。タイムアップのホイッスルが鳴ると、木村は両手を高々と国立の空に突き上げる。自らのゴールで引き寄せた全国制覇は、とにかく最高だった。



 以前、木村はこんなことを話していた。「よくエンゴロ・カンテに似ていると言われるんですけど、僕的にはチアゴ・アルカンタラの方が好きなので(笑)。でも、どっちも良い選手だと思うので、両方のプレーができたらいいかなと思います」。守備面での貢献度がより目立つプレースタイルもあって、『学芸館のカンテ』という呼び名も定着しつつあった。

 ファイナル進出を手繰り寄せた準決勝の試合後。本人に「今大会はチアゴに近付いてきてる?」と尋ねたところ、苦笑しながら、こういう答えが返ってきた。「いえ、今は完全にカンテですね(笑)。全然攻撃はダメなので。でも、次は本当に最後の試合なので、チームが勝つために出せるものは全部出して、笑顔で終わりたいです」。

 決勝の試合後。もう一度聞いてみた。「今日はチアゴだったんじゃない?」。木村はこう言葉を紡ぐ。「いや、全然です。攻撃はまだまだなので、もっと練習したいです(笑)」。自身のゴールで日本一を勝ち獲った男の表情には、最高の笑顔が広がっていた。

『学芸館のカンテ』?『学芸館のチアゴ』?いや、どっちも違う。夢にまで見た国立競技場の舞台で2点を叩き出し、この日の決勝のピッチの上で誰よりも眩く輝いたのは、まぎれもなく『学芸館の木村匡吾』だった。

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(取材・文 土屋雅史)

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