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北大津高と北大津高等養護学校の合同チームが滋賀県予選で奮闘。部員数減少の危機、苦しい試合展開を乗り越えて成長

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北大津高と北大津高等養護学校の合同チームがサッカーを通して成長

 26日に行なわれた全国高校サッカー選手権滋賀県予選の2回戦で目に留まったチームがあった。北大津高と北大津高等養護学校の合同チームだ。北大津高は全国大会への出場経験こそないが、過去には1級審判員の村井良輔氏やAC長野パルセイロやFC琉球でプレーしたDF浦島貴大(現、FCマルヤス岡崎)などが所属した高校。だが、現在は少子化の影響で生徒数が減少し、今大会の登録メンバーは12人しかいない。

 在籍する選手は多種多様だ。高校からサッカーを始めた選手や外国籍の選手、生まれつき右腕のない選手がいる。ウォーミングアップには男子選手と同じユニフォームでボールを蹴るDF飯田彩音(3年)の姿もあった。

 中学時代は公立中学のサッカー部で男子に混ざってプレーしながら、掛け持ちで女子のクラブチームにも所属していた。進学のタイミングで、女子チームへの加入も検討したが、「男子とプレーする方が自分のレベルが高くなると思った」と過去にも女子選手が在籍していた北大津高への入学を決めた。高体連の規定でインターハイと選手権はピッチに立てず、女子の合同チームでプレーするが、昨年まで参加したリーグ戦では男子選手とともに出場していたという。

 10番を背負うDF白井柊登(3年)は、北大津高の敷地内に併設された北大津高等養護学校に在籍する選手。2年前に軽度の知的障害を持つ生徒のための学校として開校したタイミングで入学してきた。元々、公立中学でプレーしており、高校でもサッカーを続けるため、唯一プレーできる環境があった北大津高等養護学校を選んだという。彼が北大津高の選手とプレーするために合同チームで活動している。

 サッカー部に在籍する高等養護学校の生徒は白井のみ。「最初はみんなとコミュニケーションをとって、仲良くできるか不安だった」が、チームメイトはすんなり受け入れたため、心配は無用で終わる。何より、「大人になってもサッカーを続けられるようにサッカーを好きになって卒業しようね、というのが僕のスタンス。同じピッチに立つ以上、特別扱いはしない」と話す吉原翔監督の存在も大きかった。

 温かいチーム関係者の存在によって高校でもサッカーを続けることになった2人だが、今年のチームが立ち上がった頃は部員数が7人まで減少。5月に行なわれたインターハイ予選は同じく選手数が揃わない安曇川高との3校合同チームという形で挑んだ。

 大会後は2人の3年生が引退し、部員は5人となった。それでもサッカーを続ける選手たちに心を動かされた吉原監督は動く。「辞めずに練習に来てくれていたので、僕らも預かる以上は責任を持たなければいけない。一番大事な選手権には、単独チームで活動できるように目指した」。

 吉原監督が新入生の中から、サッカー経験者を見つけて声をかければ、選手たちも新入部員の勧誘に勤しんだ。夏休み前に加入したFW飯田翔詠(1年)は、飯田彩音の弟。「大会に出るなら単独チームの方が良い。弟は中学でサッカーをしていなかったけど、人数が少ないからどう?と言ってみたら、入ってくれました」と姉は振り返る。

 12人のメンバーが揃い、“オール北大津”として挑んだ今大会。1回戦の長浜農高戦は4-0で勝利したが、2回戦の守山高戦は序盤から苦戦を強いられ、前半だけで5ゴールを許した。ハーフタイムに吉原監督がかけた「前半にベストを尽くせた選手は手を挙げてみろ」という言葉に反応した選手は1人のみだったが、エンドが変わった後半は状況が一変する。前半とは打って変わって、思い切りよく相手ゴールに迫る選手が増加。守備でも身体を張った守りで簡単には失点を許さない。最終スコアは0-7で終わったが、爪痕を残すには十分な内容だった。

「力があると分かっていたから、5失点した前半が悔しい」。そう口にする吉原監督は選手にこんな言葉をかけたという。「苦しい状況を変えてみよう、と伝えたら実際に変えられた。苦しいことも自分たち次第で変えられるという経験を卒業後、就職先や進学先で生かして欲しい」。

 卒業後の白井はサッカーを続けるかは決めていないが、スポーツには関わり続けたいため、スポーツインストラクターを目指すという。「高校サッカーは絶対に経験できないと思っていた。高校3年間は自分にとって大きい」。そう口にする白井は卒業後もサッカーを続け、滋賀県選抜の一員として全国障害者スポーツ大会への出場を目指していく。様々な人生を歩んできた子どもたちがサッカーを通じて出会い、人として成長していく。北大津高の活動も、また高校サッカーの存在意義と言えるだろう。

(取材・文 森田将義)
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森田将義
Text by 森田将義

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