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[選手権]「今後の市船のために」自分たちが12年ぶりの日本一へ。名門・市立船橋が4-1で拓大紅陵の快進撃を止め、千葉決勝進出

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前半24分、市立船橋高は清水内定のU-18日本代表FW郡司璃来が右足ループシュートを決めて2-0

[11.5 選手権千葉県予選準決勝 市立船橋高 4-1 拓大紅陵高 柏の葉公園総合競技場]

 3年ぶりの選手権へ、12年ぶりの日本一へ、名門・市船が千葉決勝進出――。第102回全国高校サッカー選手権千葉県予選準決勝が5日に行われ、全国優勝5度の市立船橋高が4-1で拓大紅陵高に快勝。市立船橋は、3年ぶり24回目の全国大会出場を懸けて11日の決勝で日体大柏高と戦う。

 1985年度に初出場して以降、市立船橋が3年連続で選手権予選敗退したのは05~07年度の一度のみ。その市立船橋は一昨年度、昨年度と2年連続千葉決勝で敗れているが、今年は絶対に全国切符を勝ち取り、12年ぶりの日本一を勝ち取らなければならない。

 MF太田隼剛主将(3年)は、「自分たちで優勝したいというのもありますけれど、『今後の市船のため』に自分たちが結果を残していかないと今後の強い市船はないと思うので、今年、自分たちの代で結果を残して、今後の市船に繋げたいという気持ちはみんなが持っていると思います」。名門がまずは全国出場へ王手をかけた。

 対戦した拓大紅陵は、2回戦で前回大会3位の中央学院高、3回戦では今年の関東高校大会2位の八千代高をそれぞれ撃破。市立船橋OBで元磐田FWのカレン・ロバート氏が代表を務めるローヴァーズ木更津FCと提携し、部活とクラブの良い部分を掛け合わせたハイブリッド方式で活動するチームは、本格強化5年目で初の準決勝へ進んできた。

 前半、その拓大紅陵を市立船橋が飲み込む。7分、左サイドでFW久保原心優(2年)がFKを獲得すると、太田が相手の準備が整う前にクイックでボールを蹴り込む。これをCB宮川瑛光(3年)が頭で合わせて先制点。0-2から逆転勝ちしたプレミアリーグAEST・川崎F U-18戦(10月25日)と同様に、太田の好判断と精度の高い左足FKからゴールを破った。

 拓大紅陵は前半、FKを与える回数が増加。球際で強度高く戦っていたが、市立船橋の速さの前に遅れてしまうシーンも散見された。それでも、GK宮下陽希(3年)が相手MF須甲優理(3年)のシュートを好反応で防いだほか、DF陣のシュートブロックで食い下がる。

 だが、市立船橋は攻守の切り替えの速さを表現。またCB五来凌空(3年)、U-17日本代表候補左SB内川遼(3年)が際の強さを示す。そして奪い返したボールを太田やMF足立陽(3年)が正確に繋ぎ、右SB佐藤凛音(3年)が積極的に攻め上がるなど押し込む。すると、23分に追加点。MF佐々木裕涼(3年)のスルーパスから清水内定のU-18日本代表FW郡司璃来(3年)が右足ループシュートを決め、2-0と突き放した。

 拓大紅陵にとっては厳しい展開に。だが、拓大紅陵はU-22日本代表FW細谷真大(柏)を兄に持つ10番MF細谷怜大(3年)が落ち着いたボールコントロールと巧みなドリブル、パスで存在感を放つ。また、個々の技術力が高い拓大紅陵はボールを繋いで前進することにチャレンジ。この日は注目の2年生MF行者道玄を怪我で欠いていたものの、細谷やMF飯野聖士(2年)、最前線のFW佐藤海翔(3年)らがボールを収め、サイド攻撃やセットプレーからチャンスを作り返した。

 32分には左サイドを崩し、FW吉田遥輝(3年)がクロス。ファーサイドのMF飯田翔音(1年)がダイレクトで狙うも、市立船橋GKギマラエス・ニコラス・ロドリゲス(2年)がビッグセーブで阻む。市立船橋も太田のスルーパスなどからエースFW郡司や佐々木がスペースを狙うが、CB本間竜主将(3年)を中心とした拓大紅陵DF陣も対応。2点差を維持して前半を折り返した。

 だが、市立船橋は後半3分、太田が中央右寄りの位置から左足で直接FKを決めて3-0。大きな3点目を早い時間帯に獲得した。この後、市立船橋はゲームをコントロールしながら試合を進めるが、終盤に掛けて相手の攻撃を受けるシーンも増加。拓大紅陵は細谷がDFを剥がして前進したほか、個の力や連動性を活かした攻撃などでシュート、ラストパスまで持ち込んでいた。

 そして、33分、左CKから最後はゴール前のこぼれ球を飯野が右足で蹴り込み、1点を奪い返す。市船対策よりも自分たちのサッカーを貫いて準決勝を戦い、見事に奪った1点。嘉藤大樹監督は「やり続けてきたことをピッチで出し切って、あとは結果どうこうというところなので、選手が良くやってくれたと思います。選手はこの選手権でやりながら自信がついてきているんだなとゲームを見ていても凄く感じましたし、本当に成長したのかなと見ていて思いました」と頷いた。

 市立船橋は3点目を奪った後、攻撃のラストの部分がやや淡白に。決定機を逸していたが、40+3分、右サイドでボールを奪った郡司が柔らかいクロスを上げる。これを交代出場FW岡部タリクカナイ颯斗(2年)がダイナミックな動きから右足で合わせて4点目。拓大紅陵の快進撃を止め、快勝で決勝進出を決めた。

 今年の市立船橋は下級生時から主軸として公式戦を経験している選手が多く、今年はインターハイ、プレミアリーグ、選手権の3冠を目標にスタート。だが、インターハイはプレミアリーグ勢に連勝しながらも準々決勝で日大藤沢高(神奈川)に0-1で競り負けた。プレミアリーグEASTも5位につけているものの、優勝争いから後退している。

 波多秀吾監督は「本来は3冠を目指してやっていたので、インターハイとプレミアがなし得なかったので、(選手たちの)選手権に懸ける思いはより濃密なものになった」と分析する。選手たちは悔しい経験もしながら進化。より継続して守備ができるようになったほか、選手たちが自立できていることを指揮官は実感している。

「選手たちが、自分たちで色々なことができるようになったということは大きなことですかね。試合の準備、相手の分析もそうですし、どう戦うか、ゲームの中での判断も選手たちで自立して戦えるようになってきた。今日も失点した後にちゃんと集まって修正して戦えるようになってきたのは、凄く大きなことかなと思います」

 まだ想定外のことが起きた際の修正力など不足している部分があることも確か。だが、シーズンを通して堅守・市船を構築し、球際・切り替え・運動量の三原則の表現、ボールを保持しながらの多彩な攻撃、セットプレーの強さ、スーパーエースFW郡司の存在なども含めて日本一を争える力はある。

 彼ら自身の選手権への思いの強さも決勝のエネルギーになるはずだ。太田は「自分が在学している間に一回も取っていないので、内容よりも結果が求められるのが選手権だと思うので、市船として誇りとかプライドとか色々ある中で重圧を跳ね返して、王座奪還へ向けて一戦に集中して、今週一週間準備して臨みたい」。決勝の対戦相手は、宿敵・流通経済大柏高を破った日体大柏高。前回大会決勝で敗れている相手に雪辱し、目標の日本一へ前進する。

(取材・文 吉田太郎)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
吉田太郎
Text by 吉田太郎

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