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攻撃陣爆発の青森山田、選手権県決勝で9-0完勝V「いろんな崩しができた」新体制でも堂々の27連覇

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県27連覇の青森山田高

[11.5 選手権青森県予選決勝 青森山田高 9-0 八戸学院野辺地西高 カクスタ]

 第102回全国高校サッカー選手権青森県予選は5日、青森市のカクヒログループアスレチックスタジアムで決勝戦を行い、過去7年で3度の全国制覇を誇る青森山田高が27年連続29回目の優勝を果たした。長年チームを率いた黒田剛前監督が昨季限りで退任したが、19年間ヘッドコーチを務めていた正木昌宣新監督が常勝の歴史を継承。近年は接戦になりがちだった八戸学院野辺地西高に9-0で完勝し、堂々と全国行きの切符を手にした。

 青森県決勝は7年連続の同カード対決。26連覇中の青森山田に対し、全国初出場を狙う八学野辺地西が挑むという構図が今年度も続いた。近年は拮抗した試合になることが多く、一昨年度は結果的に5-1の大差がつくも、八学野辺地西が初めて先制に成功。昨年度は1-1で延長戦にもつれ込んだ末、最後の最後で青森山田が決勝点を奪っており、緊迫ムードも予想される中での決戦となった。

 試合は前半4分、八学野辺地西が先にビッグチャンスを迎えた。5-3-2の布陣でテンポ良く前線にボールを当て、素早くサイドに展開すると、右ウイングバックのDF池田汐凪(3年)が縦突破を見せ、鋭いクロスにFW成田涼雅(2年)が反応。決定的なヘディングシュートが青森山田のゴールマウスを襲った。

 ところがこれをGK鈴木将永(3年)がスーパーセーブ。「入りの部分が勝負になると思っていたので、最初はちょっとヘディングシュートをやられたシーンがあったけど、ああいうのを防げるGKがいるのもうちの強みでもある。あのワンプレーが大きかった」(正木監督)。結果的にはこのセーブが試合の流れを決定づける形となった。

 青森山田は過去2シーズンの経験も踏まえ、序盤の失点のピンチにも揺るがなかった。その後は相手の背後へのロングフィードを使い、勢いよく押し込むと、両サイドハーフのMF川原良介(3年)とMF杉本英誉(3年)の打開力を活かし、セットプレーを次々と獲得。すると前半12分、杉本の右CKからDF山本虎(3年)がヘディングシュートを叩き込み、早々に先制点を奪った。

 新体制でチームを引っ張ってきた主将による値千金の先制弾。先にゴールを割られた一昨季の反省も活かしたファーストゴールとなった。また指揮官が「県大会で相手チームが守備に重点を置いてくるのはずっとそう。であれば流れで点が取れなくても、セットプレーでしっかり取って、ゲームを楽に進めたいというのはミーティングで共有していた」と振り返ったように、得意のセットプレーで取れたことも大きかった。

 さらにこの日の青森山田は、2年前だけでなく、1年前の教訓からも学んでいた。昨年の決勝では2年前の教訓を活かして先制点を早い時間帯に奪ったが、そこから追いつかれて苦しんだ。だからこそ、今年のチームは先制しても1点で満足することなく、追加点を積極的に奪いに行った。

 すると先制からわずか2分後の前半14分、ダイナミックなクロス攻勢から相手をペナルティエリア内に押し込むと、二次攻撃からDF菅澤凱(3年)が強烈なミドルシュート。GKに対応されそうな甘いコースに飛んだが、軌道上に立っていた10番のMF芝田玲(3年)が巧みにフリックし、そのボールがゴールマウスに吸い込まれた。

 なおも青森山田は止まらない。前半23分、FW後藤礼智(3年)のボールキープによるこぼれ球をエースのFW米谷壮史(3年)が決め、一気に3-0とすると、同26分には川原の折り返しを後藤が冷静に沈めて早くも4点目。同28分には、後藤の浮き球パスにオフサイドギリギリで反応した米谷が左足で沈め、開始30分足らずで5点リードを奪った。

 さらに前半31分、DF小泉佳絃(3年)のロングフィードに後藤が右サイドで反応し、相手に倒されそうになりながらも我慢してドリブル突破を仕掛けると、折り返しのパスを川原がダイレクトで突き刺して6-0。続く同38分、後藤のクロスを川原がヘディングで折り返すと、米谷がワントラップからボレーで突き刺し、ハットトリックを記録した。

 チームとしては前半だけで7-0とする衝撃的なゴールラッシュ。ハーフタイム明けにはようやく八学野辺地西が気持ちを立て直し、一時拮抗した攻防を繰り広げるも、後半13分に個人技で右サイドを切り裂いたFW長谷川陽大(3年)のシュートが左ポストに嫌われると、最後は再び青森山田が畳み掛けた。

 後半19分、左サイドをドリブルで駆け上がった途中出場のMF齊藤和祈(3年)のクロスに対し、ファーサイドに飛び込んだ杉本がダイビングヘッドを突き刺して追加点。さらに同39分、途中出場MF別府育真(2年)のクロスから、芝田がスライディングシュートで仕上げの一発を沈めた。終わってみれば9-0の圧勝。県連覇記録を「27」に伸ばし、県内での連勝記録も「399」に達した。

 今季、黒田前監督からバトンを受け継いだ正木監督は試合後、県制覇にほっとした表情を浮かべ、「県大会というのは本当に独特な雰囲気があって、(高円宮杯)プレミアリーグとは違うところがある」と述べた一方、「ただ今日はアップ中のスタンド、選手たちを見ていてもどちらも集中していたし、プレッシャーをあまり感じない形で入れていたと思う」と冷静に振り返った。

 選手権に向けては2年生で主力のMF谷川勇獅(2年)が左足を負傷するアクシデントも発生したが、「今年は3年生を中心にまとまりがあったし、誰かが出られなくてもその選手をカバーするという意味でサブにも自信がある。一人がいなくなって崩れるチーム作りはしていなかったので、そのぶんまで頑張ろうというパワーも働いてやってくれたんじゃないかと思う」と正木監督。主力不在の危機もたくましい心構えで乗り越えてきたようだ。

 そうした揺るがぬメンタリティーは、試合の中からも感じられた。結果的には9-0の圧勝となったが、シュート21本を着実に決めた形。持ち味のセットプレーで奪った先制点に加え、その後はゴール前を複数の選手が絡んで崩した得点ばかりで、練習で培ってきたアイデアと、それを具現化するボールスキルが際立っていた。

 またそうした技術を決勝の舞台でも普段どおりに発揮できるメンタリティーも、決勝の大勝劇につながった。正木監督は「今年の子たちは技術的に高い選手がいるので、スペースがなくてもこじ開けられるところがある。我々の土俵でサッカーができるように、スキルの勝負というのは彼らにも言っていた。いろんな崩しができて、得点を重ねられたのが良かったと思う。プレミアリーグが中断してからはそこ(フィニッシュ)のところは強調して練習してきたし、それがハマってくれた。やりきった選手のおかげだと思う」と選手たちを称えた。

 そんな青森山田だが、夏のインターハイでは優勝校の明秀日立に3回戦で敗戦。プレミアリーグで好調が続いていただけにショッキングな結果となった。しかし、その悔しい経験も糧にしながら精神的な強さを身につけ、冬の選手権に挑もうとしている。

「インターハイに負けた時は選手たちにも動揺はかなりあったし、去年の秋からずっと負けなしで、負け慣れていなかった。特にベストメンバーで負けたのはその試合が初めてだったので、いろいろ思うところはあったかもしれない。ただ、負けから学ぶという点では彼らがこの夏に乗り越えて、たくましくなったところだと思う」(正木監督)

 ならば、そうした成長を今度は結果につなげていく構えだ。

 青森山田は現在、高円宮杯プレミアリーグEASTで首位に立っており、まずはリーグ戦で日本一を目指して戦った上で、地力もつけながら選手権に臨むのが前体制から築いてきたルーティーン。指揮官は「プレミアが終わった後、もう一度トーナメントのスイッチが入ると思うので、今は新人戦とプレミアリーグで結果が出せるようにまた違う形でやっていきたい」と目の前の大会にフォーカスすることも忘れず、「選手たちは日本一という目標を掲げているので、日本一を取れるように日常からしっかりとやって、全国優勝目指して頑張りたい」と全国大会への意気込みを語った。

(取材・文 竹内達也)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
竹内達也
Text by 竹内達也

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