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[フットサルW杯2012]3度目のW杯に挑むFP木暮「1秒目から良い入りができるように」

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 練習前、普段は率先してセンターサークルでのボール回しに加わる男が、いつになく神妙な表情だった。木暮賢一郎(名古屋オーシャンズ)は、重たい空気を醸し出していた。W杯を戦う日本代表メンバーが発表されて、最初の練習。フットサル界のキングと呼ばれる男は、FP滝田学(ペスカドーラ町田)とFP仁部屋和弘(バサジィ大分)の落選に心を痛めていた。

「彼らに対する思い入れもありましたし、日の丸を付けて戦うことに対して、厳しく言ってきたこともありました。一緒に長い時間を過ごしてきたので。もちろん監督が一番つらい日だったと思いますが、少なからず、そういう思いはありました」

 10年以上、フットサル代表でプレーを続けている木暮にとっては、3度目のW杯だ。フットサルを、もっと多くの人に知ってもらいたい。そう願いプレーを続けてきた木暮は、今回のW杯を最大のチャンスだと捉えている。「昔からW杯に出て、結果を出せば、何か変わるんじゃないかと思ってきました。フットサルというスポーツが、あまり理解されていない時代から僕はやってきているので。そういう意味でも最大のチャンスだと思っていますし、この先も同じシチュエーションがくるかなんて誰も保証できない。僕らはこのチャンスをつかむしかない」。

 今回、三浦知良(横浜FC)の参戦で、大きな注目を集めているフットサル日本代表だが、これまでも元サッカー日本代表のMF木村和司氏が監督を務めた時代や、ラモス瑠偉氏が、プレーしていた時期もあった。「10代の頃は『オレの方がフットサルやっているから』という思いや『見返してやりたい』とか、そういう気持ちがありました」と木暮も認めるように、元Jリーガーとフットサルを専門でプレーする選手たちの関係が、常に良好だったわけではない。だが、同時に彼らから得たものもあったという。

「サッカー界のプロ選手と交流して、一緒に合宿で過ごすことで、僕らが学ばないといけないことはたくさんあるなというのは感じました。それは必ずしもフットサルが上手いとか、フットサルを長くやっているということだけでなく、ピッチ外での過ごし方、取り組む姿勢、そういうものはプロスポーツ選手として学ぶことはたくさんある。そういう出会いがあったから、僕はここまで続けて来れたと思います」

 だからこそ、今回カズが代表に選ばれたことについても、複雑な気持ちは全くないという。「(カズ選手の代表入りに)ネガティブなことは一切ないと思いますし、フットサルが日本国内でメジャースポーツになって、プロ・フットサル選手がもっと高い所にいくためには、プラスのことだと思う。ポジティブなことしかないんじゃないかなと思います」と、断言した。

 カズがフットサル代表に入ることについて、昔からフットサルを見続けているファンの中には、快く思っていない者もいる。だが、「自分の果たす役割を果たせば、昔から応援してくれるファンや選手も、絶対に理解してくれる」と、木暮は言う。チームが結果を残せば、誰もカズが入ったことについて、異論を唱えることはなくなるだろう。

 過去2度のW杯でグループステージ敗退という辛酸をなめてきた木暮は、大会の入り方が大事だと強調した。「一番大事なのは初戦。初戦でどういう試合の入り方ができるかが一番大切。前回もブラジル代表と初戦を戦って、早い時間に失点をしてしまった記憶が残っていますし、初戦、本当に1秒目から良い入りを出来るようにしたいと思います」。

 グループステージ突破を「ノルマ」と言い切る木暮は、さらに先を見据えている。「ブラジル、ポルトガルのいるグループに入って予選を突破できれば、より高い位置まで行けることは間違いない。そういう強い気持ちを持って行きたいなと思います」。自身にとって、三度目の正直となる大会にするために、そして、より多くの人にフットサルを知ってもらうために、木暮は3度目のW杯に挑む。

(取材・文 河合拓)

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