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麻也には苦い教訓も…アジア杯初登場のVAR、これだけは知っておきたい5つの注意点

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2017年11月のブラジル戦ではDF吉田麻也のファウルがVARで認められ、相手にPKを与えてしまった

 UAEで開催中のアジアカップ2019では、準々決勝からビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の採用が決まっている。昨夏のロシアW杯では賛否入り混じる論争を巻き起こし、徐々に周知も広がりつつある新制度だが、ここであらためて注意点を整理しておきたい。

 VARは、主審、副審、第4審などのピッチ周辺に立つ審判員とは異なり、別室のモニタールームで仕事を行う審判員のこと。スタジアムの各所に設置したカメラから送られてくる映像を確認し、無線機器を通じて主審とコミュニケーションを取りながら、重大な誤審を犯した場合にのみ介入を行う。

 サッカーのルールを定める国際サッカー評議会(IFAB)は昨年1月、世界中で行ってきたVARテストの結果を発表し、ジャッジの精度が93%から98.9%に向上したというデータを示した。国際サッカー連盟(FIFA)はこの効果を前向きに受け止めており、W杯など様々な大会での導入を積極的に進めている。

 とはいえ、なおも過渡期にあるのが現状。「最小限の介入で最大限の効果を」という理念のとおり、全ての誤審が消えるわけではないし、最終的には人間が判断するという根幹は変わらない。すなわち、運用上の問題が生じる余地は残されており、それらに対する理解をしておく必要はあるだろう。

 この記事では、VARのルールにまつわる5つの注意点を紹介する。

【注意点1】VARは全ての判定には介入できない
 大前提として、VARが介入できるのは「明白かつ確実な誤審」と「重大な見逃し」のみだ。つまり、誤審があったのか分かりにくい場合、また映像で見ても判断が分かれそうな場合には、介入の対象にはならない。一つ一つのケースにいちいち介入していると、試合の流れを止めてしまうからだ。

 また、介入の対象となるのは①得点②PK③一発退場④人違いの4要素に関わる誤審だけ。注意しておきたいのは、2枚目のイエローカードや、フリーキックに関する判定は覆されることがないということだ。もっとも映像を確認し、新たにファウルが確認された場合には、結果としてイエローカードが提示されることもある。

【注意点2】VARは『チャレンジシステム』ではない
 VARの介入を決断することができるのは、主審のみだ。アメリカン・フットボールやテニスなどで導入されている『チャレンジシステム』とは大きく違う。もし、監督やチーム関係者が重大な誤審とみられる場面を目撃しても、VARの介入を促すことはできない。

 それどころか、VARを過度に要求する行為はルール上禁じられている。VARのレビューを受ける場合、主審は両手指で長方形のジェスチャーをすることになっているが、これをチーム関係者が過度に行った場合は警告の対象となる。ロシアW杯ではこのような行為が見られてもイエローカードが提示されることはなかったが、注意しておきたいところだ。

【注意点3】VARに見つかりやすい反則がある
 全ての誤審に目を光らせているVARだが、介入が行われやすい場面には一定の傾向が見られている。ロシアW杯では大会を通じて計21回の介入があったが、そのうち16回はPK判定に関するもの。混戦状態に至りやすく、主審が自らの目でジャッジすることが難しいためだ。

 またVARが見つめる画面にはスローカメラからの映像が含まれていることもこの傾向を加速させた。FIFAの審判委員長を務めるピエルルイジ・コッリーナ氏は「スロー映像で確認した場合、選手同士の接触を強調してしまう」と指摘し、接触の程度は通常スピードで確認するよう強調しているが、小さな接触でもファウルが取られやすいのが現状だ。

【注意点4】ピッチ脇モニターが使われないこともある
 VAR採用試合でよく見られる光景として、主審がピッチ脇モニターで確認する場面(『オン・フィールド・レビュー』と呼ばれる)がある。しかし、主審は必ずしもこの作業を行う必要はない。たとえば、オフサイドは映像上で一目瞭然のため、VARの助言のみによって判定を覆すことが許されている。

 一方、主審の解釈を要するものについては、オン・フィールド・レビューを行うのが通例だ。その際、ピッチ脇のモニターエリアには主審のみ入ることが許されている。もし選手が入ってしまった場合は警告、監督やチームスタッフが入った場合には退席の事由となることも合わせて確認しておきたい。

【注意点5】セルフジャッジは禁物
 VAR採用試合では、普段以上にセルフジャッジに注意を払う必要がある。なぜなら、誤ったジャッジを防ぐため審判員があえてジェスチャーを遅らせるケースがあり、それがルール上明示されているからだ。象徴的なのはオフサイドの場面。副審は微妙なオフサイド判定の場合、フラッグを上げるタイミングを遅らせる必要がある。

 これは誤った判定により、得点機会が失われるのを防ぐための措置だ。もし副審がすぐさま旗を上げ、オフサイドでプレーが止まってしまえば、VARの介入によりオフサイドが取り消されても直前のチャンスは戻ってこない。こうした点は大会開幕前に審判員から各チームにレクチャーがあり、注意喚起がなされているようだ。

▼なお、日本代表では…
 日本代表の国際AマッチでVARの介入があったのは過去1度だけ。2017年11月10日の国際親善試合のブラジル戦、DF吉田麻也がPA内でMFフェルナンジョーニョを倒し、VARの助言でブラジルにPKが与えられた場面だ。吉田は当時、「教訓になった」と語っていたが、この大会でも一定の注意が必要になるだろう。

 また今大会のグループリーグ第2節オマーン戦(◯1-0)では、日本に有利に働く2つの誤審疑惑があった。一つはMF原口元気がPA外と見られる場所で倒されながらも、先制点につながるPKを獲得した場面。もう一つは、PA内でシュートブロックを試みたDF長友佑都の腕にボールが当たったとみられる場面だ。

 今大会ではVARの採用が準々決勝以降のため、いずれも映像での確認を行わないまま当初の判定が保たれた。しかし、もしVARが介入していれば、一つ目では日本のPKが認められず、もう一つは相手にPKが与えられていた可能性もある。今後はワンプレーが大きく結果を左右するだけに、VAR制度を踏まえたプレー選択ができるかも重要な論点となりそうだ。

(取材・文 竹内達也)
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