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「サッカーをやっていて良かった」W杯“得点女王”の宮澤ひなた、自ら掴んだ自信を胸に「憧れの存在」へ

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日本女子サッカーの未来を見据える

 スペイン女子代表の初優勝で幕を閉じたFIFA女子ワールドカップ。世界一奪還を目指した日本女子代表(なでしこジャパン)はベスト8で敗退したが、大会5ゴールを挙げたMF宮澤ひなたが“得点女王”に輝いた。日本人のゴールデンブーツ獲得は、2011年大会の澤穂希さん以来2人目の偉業。ゲキサカでは今回、なでしこジャパンの攻撃を牽引したスピードスターにインタビューを行い、キャリア初となったW杯での戦いを振り返ってもらった。

―W杯お疲れさまでした。大会を振り返ってください。
「個人としてはすごく楽しくて、あっという間の1か月だったかなというのはありますけど、やはり結果としてはすごく悔しいですし、すごく良いチームだったからこそ最後まで戦いたかったという思いは強いです」

―得点王を獲得し、今どういう心境ですか。
「すごく嬉しいですし、光栄な事だと思います。ただ、まさかここまで点が取れるとは思っていなかったですし、やはり現地(の授賞式)でその瞬間を味わえていないので、実感がないというか、よく分かっていない状態です」

―ここまでの活躍は大会前に想像していましたか。また、どういう意気込みで大会に臨んだかを教えてください。
「まったくです。初めてのワールドカップだったんですけど、まずはその舞台を楽しもうという思いだけでした。どういうプレーができるかという想像よりは、まず試合に出ることが目標でしたし、出たら楽しもうという思いのほうが強かったです」


―5ゴールを挙げることができた理由は何でしょうか。
「チームのみんながいてくれたからこそ、取れた点だと思いますし、自分一人ではあのシーンで決め切れていたかなというのはすごくあるので、やはり仲間もそうですし、応援してくださる方々がいたからというのは強いかなと思います」

―W杯でゴールを決めた瞬間というのは、どのような感情が湧き上がってくるのでしょうか。
「よく分からないんです。鳥肌が立つというか。相手ゴールキーパーの状態を見て冷静に打てたシーンと、何も考えずに無心で打って、ネットが揺れて会場が沸いたときに『あ、入ったんだ』と思う瞬間と、色々なシーンがありました。あのワンプレーでたくさんのお客さんが立ち上がって、会場の雰囲気が一気に盛り上がる瞬間というのは、ゾクゾクするというか、サッカーをやっていて良かったなと思える瞬間でした」

―それでも、チームは準々決勝で敗退。宮澤選手が考える敗因、感じた世界との差を教えてください。
「大会を通じて難しいなと思うときもありましたし、勝ち進むにつれてより難しくなってくるというのは覚悟していましたけど、やはり押し込まれる時間帯でもっと個人で何かできることはなかったのかなと。得点シーンではスピードを活かして抜けることができましたが、押し込まれて、なかなか攻撃のチャンスがない時間帯に何か一つチームを勢いづけるプレーや、相手が嫌がるプレーを増やすことでチームとして『いけるぞ!』という雰囲気にすることができたら、もっと試合の流れというのはよくなっていたのかなと思います。後半みたいなサッカーを最初からできないと勝っていけないというところでは、細かく言ったらキリがないので、何かが足りないというよりも、本当にもう一つすべてが成長する必要があるんだなというのは実感しました」

―ピッチ上で宮澤選手自身が世界に通用したと感じたことやプレーはありましたか。
「スピードは自信を持っていますし、そこで負けたくないという思いはありました。単純によーいドンで走ったら勝てないのは分かっていて、でも、やはり自分の特長がスピードだからこそ、そのスピードの種類というか、一瞬のスピードだったり、相手が目線を切ったタイミングで裏に走ったり、ポジショニングとかそういう少しのことを工夫するだけで相手の前に入れたり、相手より先にボールに触れたりというのは、ワールドカップを通じて実際に得点シーンにも繋がったので、そういうところは自信にはなりました」


―サポーターは、スピードで海外の選手をぶっちぎる宮澤選手の姿に興奮しました。海外でプレーしたいという思いもありますか(編集部注:インタビュー後に海外挑戦することが所属クラブから発表された)。
「ありますね。昔から世界で活躍したい、海外でやってみたいという気持ちはありましたけど、今大会を経験して、やはりワールドカップで優勝したいという思いも強くなりました。だからこそ、もっと高いレベルでやりたい、色々な選手の中でもまれたいという思いです」

―次のW杯までの4年間をどういう時間にしたいですか。
「ワールドカップもそうですけど、直近にはオリンピックがあります。今回、やはり選手として、結果がすべてだなというのは改めて思ったので、まずは直近のオリンピックに出場すること、そこで最後はみんなで笑って終わりたいなという思いがあります。長いようであっという間だと思うので、まず自分自身がもう一回り大きくなれるよう、成長できるように向き合っていきたいです。その結果、ワールドカップやオリンピックで優勝できたら嬉しいですし、再びなでしこジャパンのメンバーとして、あの舞台に戻れるようにレベルアップしていきたいです」

―4年前は今回のW杯を意識していましたか。
「アンダー世代でのワールドカップの経験はありましたし、当時も代表活動に呼んでもらえていたので、ここまで来たらなでしこジャパンとしてワールドカップに出たいなという思いはありました。ちょうど4年前はトレーニングパートナーという形で、実際に現地に行けなくて、オリンピックもメンバーから外れてしまい、だからこそ今大会への思いは強くなっていました」

―ここからはスパイクの話を聞かせてください。アディダスの『エックス』で気に入っているポイントはどこですか。
「アディダスには色々な種類のスパイクがありますけど、前に履いていたスパイクに形が似ていたということもあり、今は『エックス』を履いています。軽さというのも一番大事にしているところです」


―レースレスタイプを着用されていますが、レースレスを好む一番の理由はなんですか。
「昔は紐があるスパイクで、ギュッと結ぶタイプだったんですけど、この紐無しのスパイクと出会って、足の甲の固定感がないのが好きになったというか、ここがキュッとなるのが嫌になってしまいました(笑)。スパイクの中で足が窮屈じゃないというか、ゆとりがあるリラックスした状態が楽だなと思うようになりましたね」

―今大会のゴールシーンを振り返ると、ダイレクトシュートや、トラップが上手く決まってシュートまで持ち込めたという印象を受けます。そこはレースレスの良い点でしょうか。
「そうですね。足の感覚がすごく分かりますし、ボールを蹴る瞬間やトラップとか、ボールの感覚が足に直に伝わって、結果としてゴールシーンのようなタッチに繋がったのかなと思います」

―『エックス』シリーズはどんなタイプのプレイヤーにオススメでしょうか。
「他のスパイクと比べても圧倒的に軽いので、足が速い選手だったり、クイックネスな選手にはすごく履きやすいと思います。自分自身も瞬間的にステップを踏むことが多いので、そういうクイックネスで足が速い選手に向いていると思います。ボールの感覚がすごく伝わるので、テクニック系の選手にもオススメです」

―最後の質問になります。今回のワールドカップを見て、プロサッカー選手、なでしこジャパンを目指そうと思った子どもたちもいると思います。彼女たちにメッセージをお願いします。
「素直にサッカーを楽しんでほしいなと思います。自分自身も純粋にサッカーが大好きで、ボールを蹴るのが好きでここまでやって来れたというのはあるので、やはりサッカーができるのは当たり前じゃないですし、家族や仲間など応援してくれる人がいるからこそ頑張れると思うので、感謝の気持ちを忘れずに楽しんでほしいです。だからこそ、自分自身は小さい子どもたちの憧れの存在になりたいですし、実際に私も2011年の先輩方の姿を見て『なでしこジャパンとしてこの舞台で活躍したい』という思いが強くなったので、次は自分がそういう影響を与えられるような選手になって、今後もサッカーの楽しさを伝えていきたいです」



(取材・文 成田敏彬)

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成田敏彬
Text by 成田敏彬

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