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予想外のベンチスタートに「当然悔しい気持ちはあった」久保建英が意地の2アシスト

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日本代表MF久保建英(ソシエダ)

[9.9 国際親善試合 日本 4-1 ドイツ ボルフスブルク]

 ラ・リーガ開幕からの4試合で3ゴール1アシストと圧巻のパフォーマンスを見せていた日本代表MF久保建英(ソシエダ)だったが、ドイツ代表とのリターンマッチのスターティングリストにその名前はなかった。それでも試合終盤、途中出場した背番号20は数少ないチャンスから2アシストを記録。世界最高峰の舞台でプレーする立場に相応しい価値をあらためて見せつけた。

 出番が訪れたのは2-1で迎えた後半30分、3-4-2-1の右シャドーでピッチに立った。ドイツ代表が一方的にボールを保持する中、逃げ切りも視野に入った時間帯での出場。少なからず葛藤はあったが、難しいミッションに燃える思いもあった。

「さすがに使われないことはないだろうとは思って準備していたけど、こういう試合展開って一番難しいじゃないですか。2-1で勝っている時の前目の選手は。だから守備に徹するしかないなとは思ったけど、あわよくば前に行って結果を残してやろうと。ここでやっぱり15分で何もできずに、“採点なし”みたいな感じで終わるのも嫌だったし、せっかく調子いいので、どこかのタイミングで狙えればなと個人的には思っていた」

 立ち上がりは守備でプレスバックに奔走する場面が目立った久保。それでも輝きを放つ場面は後半45分に訪れた。相手が活路を見出すべく最終ラインでボールを動かし、左SBのロビン・ゴセンスにボールが渡るやいなや、猛烈なプレッシングをスタート。相手は焦ってバックパスを選択したが、弱々しく蹴り出されたボールを一気にかっさらった。

「時間帯的に引いて守るのがセオリーだと思っていたけど、僕の特長として5m〜10mがすごい速いと思っているので、そういったところで相手のコントロールが大きくなったりとか、ドイツのビルドアップには不安がありそうなのはベンチで見てわかっていたので、なんとかスキがあれば1、2回かっさらえたら良いなと思っていたら、ちょっとズレそうだなと思ったので、パスが出た瞬間にちょっとギアを上げた。あとは狙いどおりでしたね」

 相手DFが追うのを諦めるほどの速さで独走に持ち込むと、GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンと1対1に。そして最後は余裕を持って周囲の状況を見渡し、完全なフリーで走り込んできていたFW浅野拓磨への“プレゼントパス”を選択した。

「決めてコーナーのところに走ってこうやって(手を広げて膝スライディングのジェスチャー)やろうと思ったけど(笑)、後ろを確認した時に相手の選手が走っていなかったのと、拓磨くんがこっちを見ながら走っていたので、ここはお膳立てかなと」

 浅野が余裕を持って無人のゴールに蹴り込み、日本にとっては勝利を決定づける3点目に。久保は「悩みましたけど、チームのためにしっかり勝利に徹することができて良かったと思います」とサラリと語り、決めた浅野も「9.5割はタケのゴールだったのでさまさまです」と感謝していた。

 さらに久保は後半アディショナルタイム2分、今度は右サイドをドリブルで持ち上がると、左足のクロスでMF田中碧のダメ押しゴールもアシスト。華麗に巻いて落とすキックの精度に加え、試合展開も踏まえた状況判断が光った。

「本当は縦にちぎってクロスしようと思ったけど、3-1だったので若干時間を作ろうかなと思った時、中で1枚余っているのが見えたので。フリーだったのでもしかしたらトラップするかなと思いましたけど、そのままヘディングで、ピッチも濡れていたのもあって良いところに行って良かったなと思います」

 ゴールを目の前に“お膳立て”に回れる余裕も、状況を見ながら得点につなげられる状況判断も、これまで積み重ねてきた自信の賜物だ。

「(自信は)ありますよ。自信があるからあのプレーもあそこで余裕があってアシストしたし、自信があるから少ない時間でも積極的に前に仕掛けようと思っていたし、チャンスはあの2回くらいしかなかったと思うので、それを2回とも結果につなげられたのは良かったですね。これで自信になるというよりは、当たり前だと思っているのであれくらいは。むしろこれで久保が先発で出ていたらもっと楽な試合展開になっていたんじゃないかとみんなに思ってもらえていたら僕としては満足ですね」

 そうした自信は時に過信にもつながりかねないが、この日の久保は自身の心情もコントロールしながら試合に臨んでいた。試合前日の取材対応では現在の状態を「僕史上最高」と言い切っていただけに、ベンチスタートという立場に落胆はあった。それでもその悔しさをピッチでのパフォーマンスに昇華することだけを考えていた。

「100%僕は(先発で)出ると思っていたので、正直がっかりしたけど、それだけ競争が高いというふうにポジティブに捉えようと自分に言い聞かせてなんとか頑張ってきたので、結果が出たことが良かったと思います」

「スタートで出られなかったことにがっかりしていたので、その意味で当然悔しいという気持ちはあったし、日本代表がすごく良い試合をしていたので、ここに僕がいたらもっといい試合ができたと思っていた。それは僕以外の誰しも思っていることだと思うので、そういった意味で出た時に結果で示すしかないなと思っていた。結果で示せて良かったなと思います」

 立場はどうあれ、その姿勢は変わらない。「僕はやれることをやるだけなので。さっきも言ったけど僕は今回の試合は出ると思っていたので、そこにはがっかりしたけど、今回もしっかり結果を出して、次も結果を出して、僕の自信が正しいというか過信じゃなくて実力があるんだよということを結果で示していけば良いのかなと。競争もあってすごく大変だなと思いますけど、このまま行けば特に問題ないのかなと思います」。日々積み重ねてきた自信を胸に、結果を出し続けることで自身の価値を証明し続けていく構えだ。

(取材・文 竹内達也)
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竹内達也
Text by 竹内達也

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