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柔軟な戦術変更が奏功したなでしこJ、熊谷紗希が見出した“ストロング”を出すためのサッカー論

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チームを鼓舞し続けたMF熊谷紗希

[2.28 五輪アジア最終予選(女子)第2戦 日本 2-1 北朝鮮 国立]

 相手の良さを消すために、自分たちの戦い方を変えてみせた。日本女子代表(なでしこジャパン)は第1戦4-1-4-1の布陣から第2戦3-4-3の布陣に変更。MF熊谷紗希(ローマ)は「第1戦も自分がピッチに立っていた身だが、戦う相手にミスマッチが起こっていると感じていた」と修正した意味を明かした。

 池田太監督体制で3バックをメインに戦ってきた。だが、昨夏のワールドカップ後は4-1-4-1布陣の戦い方に変更。アンカーに熊谷を起用する策をひとつのオプションとして進めてきた。北朝鮮女子代表との大一番、第1戦でも同じ布陣で挑んだが、相手の5バックに苦戦。推進力を出すことができず、逆に後半は押し込まれる展開が続いた。24日の第1戦をスコアレスで終え、最終決戦となる28日の第2戦まで時間は少ない。池田監督と選手たちは急ピッチで修正を試みた。

「相手があの形(5バック)で来るなら3(バック)のほうがいいかなと1戦目で感じた。監督もそういった指示をみんなに出してくれて、その準備をしてきた」(熊谷)

 昨夏のW杯で8強まで勝ち進むことができた3バック布陣は、北朝鮮に効果を発揮する。「前半から守備の面でも攻撃の面でも、立ち位置の時点で有利なところに立てているところがあった」。前半26分にセットプレーからDF高橋はなが均衡を破ると、後半31分にはサイド攻撃からMF藤野あおばが追加点。同36分には1点を返されたが、熊谷は「最後に押し込まれるのも正直想定内。ちょっと苦しく押し込まれたが、それでも今日は勝つことがすべて」と点差を守り抜くことに徹した。

 2016年のリオ五輪は予選敗退。その瞬間を目の当たりにした身として、熊谷は選手たちに体験談を語り続けた。「リオ五輪予選で敗退した後、すごく長くやってきたチームが一瞬で解散になった。新しいチームが始まってなかなか勝てなくて。すごく苦しい時期を知っている身として、もう一度繰り返してはいけないという思いはすごく強かった」。当時を知らない選手たちと五輪切符の重みを共有し、12年ロンドン五輪以来となる予選突破からの五輪出場となった。

 第1戦、第2戦と2試合あったからこその修正が功を奏した。熊谷もレギュレーションの有難みを口にしつつ、「本大会では90分でピッチのなかで変えていけるようになっていくかがすごく重要になる」と先を見据える。結果的に得意とする3バックで相手を撃破した。だが、4バックで試した時間を無駄にするつもりもない。

「3-4-3がひとつ自分たちの形になるのかもしれない。だけど、そのなかで相手によって4-1-4-1だったり、4-2-3-1だったり、自分たちがピッチのなかで戦い方を変えながらできることがもう少しできれば。オリンピックも短期決戦。そういった意味で本当にチームの力になっていくのかなと」

 自分たちのサッカーで相手に勝ち切ることが理想だが、熊谷の考えはより柔軟だ。「自分たちが形を変えても自分たちの良さが出せるならば、確実にそのほうがいい。相手のストロングを消して、自分たちのストロングを出すことがすごく重要になる」と説明する。

「相手のストロングとこっちのストロングが同時にぶつかっても、たぶん私たちはうまくできるかわからない。(相手のストロングを)うまく消しながら、そのなかで自分たちのストロングを出していくことができるチームだと思っている。その線で行くことが、自分たちがこれからも生きていく術だと思う」

 五輪切符を獲得したが、新たな戦いまでの時間は少ない。「オリンピックは出場チームも少ない。そういったところも自分たちのアドバンテージにしながら戦っていければ、ポテンシャルは必ずある。まちがいなくみんなで金を目指してやっていきたい」。予選で見出した戦い方を磨き、本大会で最高の色を目指すつもりだ。

(取材・文 石川祐介)
石川祐介
Text by 石川祐介

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