beacon

FC東京と鳥栖を知る男。田川亨介が挑む恩師との古巣対決

このエントリーをはてなブックマークに追加

恩師との古巣対決に臨むFC東京のFW田川亨介

 4月24日。J1リーグ第11節。FC東京サガン鳥栖が味の素スタジアムで激突する一戦に、誰よりも強い想いを持って臨もうとしている男がいる。鳥栖のアカデミーで育ち、今ではFC東京のユニフォームに袖を通している22歳。FW田川亨介は数えきれない感謝を胸に、この90分間のキックオフを待っている。

 中学生まで地元の長崎県でボールを追い掛けていた田川少年は、高校進学に当たって隣県のサガン鳥栖U-18へ単身で乗り込むことを決意する。「九州だったらそこそこの強さって感じでした。大分トリニータには勝てないけれど、アビスパ福岡とはどっこいどっこいみたいな。そんなにずば抜けて強かったイメージはないですね」。1年時こそプリンスリーグ九州2部に在籍していたものの、翌年の2部制廃止に伴い、チームは県リーグへと降格。全国レベルでも目立った成績を残した訳ではない。

 田川がキャリアを振り返る上で、最も大きかったと認める出会いは3年生の時にやってくる。この年にU-18の指揮官に就任した人こそ、現在はトップチームの監督を務める金明輝である。「間違いなくプロになるためには絶対欠かせなかった人ですし、ミョンヒさんが監督じゃなかったらどうなっていたんだろうと思っているので、尊敬する人です」と、恩師への思いを語る。

「一番はメンタル的に強くさせてもらったというか、サッカー以前に人としての部分をミョンヒさんには一番教えてもらったと思います」。普段は厳しいトレーニングを課されるが、ピッチを離れれば本物の人格者。個別に呼ばれ、励ましの言葉を掛けられたこともあった。

 鳥栖のU-18は田川がトップチームへ昇格した2017年から3年続けてプリンスリーグ九州を制し、現在は高校年代最高峰の高円宮杯プレミアリーグに参戦。昨年度は日本クラブユース選手権(U-18)でも悲願の全国制覇を勝ち獲った。また、U-15も昨年度の高円宮杯全日本U-15選手権で優勝を果たし、日本クラブユース選手権(U-15)も含めれば、この4年間で4度の日本一に輝いている。国内のJクラブアカデミーで近年最もコンスタントに結果を出していると言っても過言ではない。

「正直ビックリしているというか、僕らが卒業したあとに一気に強くなって『どうしたの?』という感じです。凄いなと思いますし、やっぱり嬉しいですよね」。“先輩”田川も驚くような成績を残している“後輩たち”だが、近年はこの鳥栖のアカデミーとFC東京のアカデミーにかなりの因縁が交差している。

 2017年。鳥栖U-15が初めての日本一を獲得した高円宮杯で準優勝だったのがFC東京U-15深川。2019年。鳥栖U-15が2度目の優勝に輝いた日本クラブユース選手権でも、準決勝で倒した相手がFC東京U-15むさしだった。さらに鳥栖U-18も、初優勝を飾った昨年度の日本クラブユース選手権のファイナルでFC東京U-18に競り勝っている。鳥栖のアカデミーが結果を出す大会では、ことごとくFC東京のアカデミーに勝利を収めている感すらある。

 両チームのアカデミー出身者を知る田川は、その事実をこう分析する。「FC東京のアカデミーから昇格してきた選手は、九州の人とはちょっと違っておとなしめというか、“ガツガツ”よりは“上手い”みたいな感じの雰囲気はありますね。上手いのは間違いないですけれど、メンタルは九州の地方で育ってきた選手の方が絶対に強いと思うので、そこは鳥栖が負けていない部分かなと」。

 移籍直後の味スタには、苦い思い出がある。2019年のJ1第3節。FC東京に加入してから初めて鳥栖と対戦したゲーム。ベンチスタートだった田川はFW永井謙佑の負傷もあって前半16分から途中出場したものの、後半20分にジャエルとの交代を命じられた。「初めての鳥栖との対戦だったから、『何とかしてやろう』という気持ちは強かったです。だから、なおさら“インアウト”は響きました」。チームはその後に2点を取って勝利したが、個人としては悔しい想いだけが残った。

 それ以降も何度かの“古巣対決”を経験してきたが、依然としてこのカードではノーゴール。そういう意味でも今回の一戦に懸ける想いは強い。「やっぱりこの試合への思い入れは他の試合より強いです。言葉で表すのは難しいですけど、相手の監督もミョンヒさんですし、ユースの後輩たちも強い気持ちで来ると思うので、自分が鳥栖とFC東京で培ってきた“魂”を、ミョンヒさんやユース出身の子たちに見せられたらいいですよね」。

 加えて意識せざるを得ない“ライバル”の存在も見落とせない。田川より1つ年上のストライカー、鳥栖のFW林大地は既に今シーズンのJ1で4ゴール。先日のU-24日本代表でも共にプレーしており、東京五輪を見据える上で競い合っていかなくてはいけない選手だ。

「彼も凄いですからね。ビーストなので(笑)。先日初めて代表で一緒にやって仲良くなったので、対戦するのはとても楽しみですし、なおさら負けたくないですね。自分はやっぱり点を取ることでしか評価されないですし、ファン・サポーターの人たちもそれを見たいはずですよね。鳥栖はみんな泥臭い感じの印象がありますけど、僕はそれに負けないくらいの泥臭さでゴールをしたいですし、そういう部分でチームにも良い影響を与えられたらいいかなと思います」

 鳥栖を知り、FC東京を知る男の晴れ舞台。4月24日。その成長した姿を、もしかしたら“恩師”でもある相手チームの指揮官も含めて、彼に関わってきたすべての人たちが期待している。

(取材・文 土屋雅史)

★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!
●2021シーズンJリーグ特集ページ
●“初月無料”DAZNならJ1、J2、J3全試合をライブ配信!!

TOP