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W杯守護神がJ2で戦う意義…アップデートに取り組む清水GK権田修一「日本サッカーの未来はもっと面白くなりそうだなと」

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清水エスパルスGK権田修一

[7.16 J2第26節 清水 2-2 千葉 国立]

 清水エスパルスは今月16日、J2第26節でジェフユナイテッド千葉とのホームゲームを国立競技場で開催し、J2リーグが1999年に発足して以来歴代最多となる47,628人の大観衆を集めた。

 清水にとって国立でのホームゲーム開催は、昨年7月2日の横浜F・マリノス戦(●3-5)に続く2年連続でのビッグイベント。J2にカテゴリを落としての開催とあり、公式入場者数は昨季の56,131人に及ばなかったが、2003年の最終節に新潟スタジアムで記録したJ2最多観客記録(新潟vs大宮、42,223人)を20年ぶりに塗り替える大盛況となった。またスタンドの大部分は清水のチームカラーであるオレンジに染まり、サッカー王国の支持基盤の厚さも示した。

 試合後には、昨年の横浜FM戦後に「全国にエスパルスを発信できる環境を増やすのはクラブにとってありがたい機会。僕は年1でやってほしい」と熱望し、その言葉どおりに2年連続で聖地のピッチに立ったGK権田修一に“国立ホーム開催”の意義を聞いた。

 J2というカテゴリでこの舞台を迎えることは決して望みどおりではなかったはずだが、同時にJ2リーグ戦が国立で開催されたことの価値も感じていたようだ。

「ここは日本のナショナルスタジアムで、基本的には天皇杯やルヴァンの決勝戦をやるという聖地であって、僕自身もここでナビスコ杯も天皇杯も優勝してトロフィーを掲げたことがある。日本の大会のファイナルをやれるところ、日本代表が試合で使うようなところで、4万7千人というお客さんが入った中で試合ができるのはいいことですよね。うちは平均年齢も高いし、僕とかはこういう環境で試合をしたことがあるけど、とくにジェフの選手たちはまだ若い。(途中出場した)新明(龍太)くんは1年目ですよね。GKの鈴木(椋大)くんもまだ20代の選手。J2はカテゴリでは一番上じゃないけど、若くていい選手が多くて、これから日本サッカーを担っていく選手がたくさんいるリーグだと思うので、そういう選手たちがこれだけのお客さんの中で試合ができるのはいいことだと思います」

 千葉では2004年生まれで19歳の新明の他にも、2000年生まれのDF佐々木翔悟、MF田中和樹、FW小森飛絢、MF椿直起が国立のピッチに立った。「これから彼らが代表戦で6万人近く入った中でビビらずできるか、海外のチームに行ってたくさんのお客さんの中でプレーするときに物おじせずに自信を持ってできるかという点で『この1試合があったから』『国立でのあの雰囲気の中でできたのは大きかったな』という経験になっていったらいいなと思います」。権田はたとえ相手チームであっても、将来のある選手が国立のピッチを経験したことを前向きに捉えていた。

 また権田自身はこの日、ファミリーシートへの招待企画をクラブとともに実施し、集客にも一役買った。普段はなかなか清水まで足を運べないサポーターが主に来場していたそうだが、その目線の先には「エスパルスが5年後にJ1で優勝していくということを考えたら、J1で優勝するチームはカップ戦でも上にいると思うので、今日メンバー外だった若い選手たちがここで勝ち慣れるようになるといいなと思います」という経験面での財産に加えて、静岡市とともに検討が進む新スタジアム計画のことも見据えていた。

「僕らが国立で試合をする意味というのは、結果はもちろん大事ですけど、エスパルスがいまから新スタジアムを作ろうとなった時、いまはアイスタで2万人くらいだけど、これから『アイスタじゃ手狭だよね』『東京からもお客さんが来るから交通の便がいいところにもっと大きなスタジアムを作らないといけない』という状況にしないといけない。そのためにも新規のお客さんを取り込むのが大切ですよね。それはエスパルスに限らず、Jリーグ全体としてもそう。(同じ国立開催だった)先週の町田対ヴェルディもたくさんお客さんが入っていた(38,402人)し。今日も正直、これほどたくさんの人が来てくれるとは思っていなかったけど、それはクラブの人が頑張ってくれたおかげ。僕自身サッカー選手として、お客さんがたくさん入っている中でプレーするのが一番嬉しいことなので、すごく喜びがあったし、こういう試みは日本サッカーとしてもいいことだと思う。エスパルスの未来を考えても、今日来た方がエスパルスの試合を清水に観に行こうと思ってくれればいいし、来月(8月6日)はヴェルディ戦もあるので味スタに初めて行ってみようと思う人もいると思う。サッカーファミリーとしても良い機会になったと思います」

▼選手としてJ2で戦うことの意義
 権田はJ2リーグで戦うことを決断した今季、そうしたクラブの基盤作りに取り組む姿勢をたびたび強調してはいるものの、肝心の個人パフォーマンスでも高い水準を保つ取り組みを継続している。昨年末のカタールW杯全4試合で日本代表のゴールマウスを任された使命感も胸に、J2の各スタジアムを巡りながら新たなモチベーションを持って試合を重ねているようだ。

「本当はもっと自分がボールを持ってプレーするようなポジションで乾(貴士)みたいな次元の違いを見せられればいいんですけど、どうしても受け身のポジションで、自分からアクションするのは難しいし、何を見せられればいいのかって正直思うところもあるんですが、まずは僕自身がここでプレーしているところを楽しんでもらえるといいなと思います。J2はJ1ではなかなか行かない街にも行くじゃないですか。乾はまさにそうだし、ヤットさん(ジュビロ磐田の遠藤保仁)も、(町田の)ミッチェル・デュークもそうだと思うけど、僕も含めてW杯に出た選手が来るからと楽しみに観に来る人もいると思う。そこで僕らが違いを見せなきゃいけないなという責任感は常に持ちながらやっています。」

 J2で戦っているからこそ、得られるものもあるという。

「逆に変な話、J2のほうがサッカーにいろんなレパートリーがあるんですよね。いわき、秋田、町田みたいなサッカーもあれば、藤枝みたいにうちから何点取られてもマイボールからアグレッシブに攻めてくるチームもある。僕は今年J2でプレーしていて、すごく日本サッカーの未来はもっと面白くなりそうだなと感じられている1年でもある。僕自身、その中で乗り遅れないようにしないといけないなと思っています」

 取り組んでいるのは自身のプレースタイルのアップデートだ。4月に秋葉忠宏監督が就任して以降、指揮官が求めるペナルティエリア外での広範囲のカバーリングを重点的にトライ中。また千葉戦では前半2分すぎ、ゴールキックを利き足ではない左足で蹴ることで、右サイドのタッチライン際にアウトスイングで蹴り込むという過去にはほとんど観られなかったようなプレーも繰り出していた。

「秋葉さんになってからですが、僕があんなにペナルティエリア外でプレーするのは今まで観たことないんじゃないですか。でもあれを求められているので『俺は今までやってきてないからできません』ではなく、この環境で何かしらアップデートできるようなチャレンジはしているつもりです。今日も最初のほうに見せた、左でゴールキックを蹴るのも、今までやったことがなかった。まだ3〜4回目であまり上手くはいかなかったけど、どっちも蹴れるとなったら幅が広がる。『J2だから権田は成長していないよね』とは言われたくないし、J2でも新しいプレーをチャレンジして『成長しているよね』と言われるような姿を見せたい。自分の中では2024年にエスパルスがJ1に上がって『権田は2022年にJ2に落ちた時からこの1年ですごく成長したよね』ってところを見せられたらいいなと思ってやっています」

 そうしたモチベーションの源泉には、未来のサッカー界を背負っていこうとしている全国各地の育成年代のGKであったり、あるいは各クラブで日々トレーニングを積んでいるライバルクラブのGKの存在もあるという。

「ゴールキーパーはちょっと特殊なので、いろんな街に行ってGKをやっている人が試合を見てくれるというのも裾野が広がるいい活動なのかなと思います。また今日は(千葉の)鈴木くんも相当止めていたし、今まであまり試合に出ていなかったけど、ああいうプレーができるGKはJ2にもたくさんいる。秋田の囲(謙太朗)はFC東京で一緒にやっていたけどすごくいい選手だし、町田のポープ(・ウィリアム)も、山形の後藤(雅明)くんもすごくいいGK。J1ではなくても、自信を持ってやればJ1でもできるんじゃないかってレベルのGKがJ2にもたくさんいるなと感じられている。そういう選手からも僕自身、モチベーションをもらっているし、そういう選手に負けないようにもっと頑張らなきゃなと思っています」

▼J1昇格という至上命題
 そうしたJ2での成長を証明するためには、やはりチームとして1年でのJ1復帰が求められる。清水は降格1年目の今季、序盤こそ大きく出遅れたものの、秋葉監督の就任以降は調子が上向き、16試合を残した現在は自動昇格圏の2位磐田と勝ち点5差の6位。プレーオフ圏内にいるというだけでなく、自動昇格圏も十分逆転可能なポジションにつけている。

 2-2で引き分けた千葉戦後にはサポーターからブーイングが降り注ぐなど、チームに求められている結果の水準は高い。しかし、権田は結果だけでなく内容とも向き合い、過度に惑わされず冷静に戦っていく構えだ。

「僕らはそこに囚われすぎずに、ちゃんと自分たちがいま何が問題なのかを大事にしないといけない。勝ったからオールOKではないし、引き分けたから、負けたから全てがダメというわけじゃない。たとえば(第14節の)いわき戦では9点を取ったけど、1点を取られたことにどれだけこだわりを持てるか。当然、目の前の結果は大事だけど、逆に結果が出なかったとしても、その敗戦で3試合先、4試合先に強くなることもある。僕が来る前も来てからもエスパルスは勝ち慣れていないチームで、もしかしたら全てのクラブで一番勝率が低いくらいかもしれない。そこから今年1年で何となく上がって『何となく来年またJ1でやります』というだけじゃなく、しっかり潰すところを潰して、チームとして確固たる自信を持って上に行くことが大事だと思う。引いてカウンターという能力だけのサッカーでJ1に上がるのもいいかもしれないけど、J1でもこのサッカーで上を目指せるようにということで苦しんでいるところでもある。少なくとも選手間ではそれを常に伝えているし、そこの部分を見失わないようにしたい。ブーイングされたからといって今日ダメだったなとか、サポーターが喜んでいるからオールOKじゃないよってところはしっかりと軸をぶらさずにやらなきゃいけないなと思います」

 この夏にはU-22日本代表のMF鈴木唯人がフランス・ストラスブール、元日本代表のDF原輝綺がスイス・グラスホッパーへの期限付き移籍から復帰。すでに21日付の移籍ウインドー開始とともに選手登録も完了し、シーズン終盤に向けて大きな戦力アップが期待されている。しかし、権田はそうした楽観ムードをも排除した。

「彼らはチームを引っ張っていかないといけないくらいのポテンシャルを持つ選手。でも厳しいことを言うようだけど、去年の終盤はなかなか試合に出られていなかった。僕は正直、あの2人には帰ってきてほしくなかったし、彼らはそのまま上に行ってほしかった。僕自身もポルトガルに行って戻ってきた身だけど、若い選手が戻ってきてしまったということで、彼らも覚悟を持ってやらないといけないと思う。彼らは代表経験もあるし、もしかしたらサポーターも『2人は試合に出るでしょ』って思っているかもしれないけど、本気で覚悟を持って、本気で競争しないといけない。彼らがもし名前で試合に出られるようなチームなら、J1には上がれなくなってしまう。彼らも『ホントやります!』って話をしているけど、逆にいま出ているメンバーも、彼らが来週すぐスタメンですって話になると悔しいし、プライドもあると思う。彼ら2人が試合に出られないかもしれないくらいの競争になるとチーム力が上がるのかなと思います」

 一方で権田は「彼らはめちゃくちゃいい選手。間違いなくチームのプラスになる」とも強調した。それでも自身の経験を踏まえ、2人にさらなる奮起を促していくつもりだ。

「僕自身もそうだけど、彼らは何かが足りなくてヨーロッパでもう一つ上には行けなかった。僕自身もその何かをエスパルスで模索しているし、彼らもそこを模索して、もう一回海外に行くんだというくらいの気持ちを持たないといけない。エスパルスでみんな知っている人とサッカーができて、日本語が通じていいねって話になると先がなくなってしまう」

 すべてはJ1復帰のため、そして来季以降のJ1定着のため。権田は「僕も含めてチームみんなで成長しないといけないし、そういう空気感を作っていきたいなと思います」と誓った。

(取材・文 竹内達也)
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