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機転が生んだF東京・田邉のJ1初ゴール

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 0-1で迎えた後半24分、FC東京ランコ・ポポヴィッチ監督がピッチに送り出したのは、田邉草民だった。登録ポジションはMFだが、この日起用されたのは、左サイドバック。今季就任した指揮官は、低い位置から正確に攻撃をビルドアップできる卓越した技術を評価し、キャンプからコンバートされていた。

「出場したときに監督からは特別な指示はありませんでした。自分では前掛かりになったときに、ボールを取られないように意識していました。遠藤(康)選手が起点になっていたので、下がり過ぎるといいプレーをされてしまうので、なるべく前から行こうと思い、モリゲ(森重真人)にも『スペースあるけど前から行くよ』と伝えていました」と話す。リードした鹿島が引いていたこともあり、田邉は高い位置でパス回しに絡むこともできた。

 大きなチャンスが訪れたのは、後半39分だった。左サイドから中央にドリブルした田邉が、相手を引き付けてヒールでパスを出す。反応したMF米本拓司がボールを受けて縦に仕掛け、ゴール前のルーカスにパス。そのルーカスが右に走り込んだMF石川直宏にパスを出すと、このボールをDF新井場徹がカット。ボールは浮き球になり、鹿島ゴールに飛んだため、GK曽ヶ端準はキャッチした。これを吉田寿光主審がバックパスと判定し、PA内でF東京に間接FKが与えられた。

 最初にFKが与えられた際、F東京の選手たちはゴールライン上に立っていた。両チーム合わせて17人がゴールエリア内にいる異様な光景だった。石川が触れたボールをルーカスがシュートしたが、ボールは鹿島の選手にブロックされる。しかし、この際に鹿島の選手が飛び出していたとして、MF小笠原満男にイエローカードが出され、再びF東京にゴール前での間接FKが与えられた。

 ここでF東京の選手たちは、ゴールライン上に立つのをやめていた。「最初は壁に入っていたんですけど『当たるかな』『邪魔かな』と思って、2回目はどいたんです」と田邉は言う。再び石川が触れたボールをルーカスがシュート、DFがブロックしたボールを再びルーカスが狙ったが、これもDFに弾かれた。そのこぼれ球の先に、27番がいた。

「良い所にこぼれてきた。咄嗟だったけど、ボレーで打てた。よく反応できたなと思います。どこに入ったのかもわからなくて、一瞬喜んだのですが、まだ同点だと思って気持ちを切り替えました」

 逆転を目指して攻めたが、ロスタイムに再びゴールを許してしまい、F東京は1-2で敗れて今季2敗目を喫した。「1点取れたことで、僕を含めて前掛かりになり過ぎた。もちろん逆転できれば最高だったのですが、勝ち点1でもよかったかなと思います。その戦い方は修正したい」と唇を噛む。それでも引いた相手を崩してチャンスをつくり、J1初ゴールも記録した。途中出場から攻撃に厚みを加えられる22歳は、今後も相手が引いてくることが予想されるチームにとって、貴重な武器になるはずだ。

(取材・文 河合 拓)

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