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ブラインドサッカー日本代表エース川村怜の新年の誓い。「アジアチャンピオンになる」

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正GK佐藤大介(手前)からゴールを奪う川村怜

2020年の東京五輪パラリンピックまであと1年8か月あまり。初めてパラリンピックに出場するブラインドサッカーでメダル獲得を期待される日本代表の川村怜主将が新春インタビューに応じた。川村は昨年5月のベルギーの国際大会で8ゴールをあげて得点王に輝き、同11月には過去1点も奪えなかったアルゼンチン代表から歴史的ゴールをあげるなど、国際舞台で確実に結果を残してきた。成長途上にあるエースは「世界一になりたい」と公言しながら、2019年の目標を「アジア制覇」にした。その真意は……。

――あけましておめでとうございます。昨年は充実した年になりましたね。
実は昨年の今頃、心が折れていたんです。約1か月前のアジア選手権でアジア選手権(マレーシア)に5位に終わって、2006年から3大会連続で出ていた世界選手権(スペイン)に出られないことが決まっていましたから。チームのために貢献したいと思ってやっているのに、どうしてこんなに報われないんだろう、という……。周囲は結果に対してしか判断しません。自分に対する怒りのような感情です。

――どうやって立ち直ったのですが?
メンタルトレーナーの後藤(史)さんと話す機会があって、そこで変わるきっかけを得られました。それまで「やらなきゃ、やらなきゃ」という思いが強く、すべてイメージ通りいかないと満足できなかった。その自分の中にある「OKライン」を下げたんです。今まで当たり前にできたことを「よし、できるじゃん」ととらえ方を少し変えました。「トラップできた」「インサイドパスできた」「シュートが枠にとんだ」。初心に帰ることができて、少しずつ気持ちが楽になったんですよ。

――すぐに結果に表れたのですか?
 3月に「ワールドグランプリ」が迫っていたので、1月の代表合宿でチームと個人の目標を設定して、僕個人の目標として「突破」を掲げました。それまでは、パスして智さん(黒田智成)に頼ったりとか、消極的になっていた部分もありました。そこで自分が前を向くことで相手にとっては脅威になるし、自分で勝負してシュートまで持ち込むことにこだわりました。3月の「ワールドグランプリ」本番では、突破することまではできるようになりましたが、ゴールは1点だけでした。その後も「突破」の目標は変えずに体の使い方、メンタル、技術のトレーニングを続けた結果、5月のトルコの国際大会で8得点をあげてリオデジャネイロ・パラリンピック銀メダルのイランから点を奪って初めて勝つことができた(日本は世界ランク9位)。今まで取り組んできたことが成果として表れた1年だったと思います。

国歌斉唱する川村(左から3人目)

――今年はどんなところに課題を置いているのですか?
 突破した後のフィニッシュの精度です。シュートのバリエーションを増やす練習をしています。あとは最後、決めきる。技術的にも、メンタル的にも、フィジカル的にも、まだ伸びしろがあると思います。

――お正月は例年どう過ごしますか?
毎年、年明けにすぐ日本代表合宿があるので、年末年始も、正月も体を動かしていましたが、今年は年末27日あたりから休みました。ブラインドサッカーはすごく脳を使うんですよ。だから1回リセットして、体がサッカーしたくてウズウズするまで待とうと。今まで休むことすら怖くてオフを作れなかったので、「休もう」と思えること自体、成長しているかなと思います。

――正月はスポーツの特番も多いですね
去年、メジャーで活躍した大谷(翔平)選手の特番も印象に残っています。冷静に自分を分析していますよね。ぶれない芯を持ちながら、日本のプロに行っても、その後メジャーに行っても、その環境の中で柔軟に対応している。注目しているのは、競技に取り組む姿勢、考え方の部分です。同世代の人の活躍は刺激になります。自分もいずれ、こんな番組で取り上げられるような選手になりたいです。

――同世代のアスリートで会ったことある人いますか?
同じ年齢の乾貴士選手にはラジオの番組で共演させてもらったことがあります。今年は会えないですね。あれだけワールドカップで売れちゃったんで(笑)。その時、彼の学生時代の話が出たんですが、やっぱり練習、練習だったそうです。授業をさぼってまで練習していたそうです。

サッカー関係者以外の取材も増えてきた

――初詣は?
初詣も大事なんですが、それ以上に「1年間、ありがとうございました」という意味をこめて、毎年末に必ず地元・大阪の決まった神社に、御礼参りをしています。

――デフサッカーの日本代表FW林滉大選手が今春、ドイツに挑戦します。川村選手にも海外挑戦の願望はありますか?
仮に僕一人のレベルがあがっても、チームにフィットしなければ、代表にチームの本当の力になれないと思います。ブラインドサッカーという競技は(目が)見えないので
同じ時間を少しでも長くチームメートと過ごして、お互いの理解を深めて、そこから生まれる「あうんの呼吸」みたいなことが大事になってきます。ですから、僕個人のことだけを考えることが許されるなら「ブラジルのチームに入ってやってみたい」みたいなおぼろげな願望はあります。でも、現実的には優先順位は低いです。今年は代表合宿の回数も増えそうですし、一緒に練習する中で世界一を見据えて、世界一を基準にして、選手同士が要求しあえる関係性を作りたいです。

――今年の意気込みを聞かせてください。
3月の「ワールドグランプリ」は、目の前の試合に勝利する。そして試合内容にこだわりたいです。最初から優勝やメダルにこだわると、目の前のこえなければいけない「壁」への意識が薄れる可能性もあります。「壁」をひとつひとつ超えたいんです。「結果」より「成長」を求めていく中で優勝できれば最高です。そのかわり、2年に1度のアジア選手権はチャンピオンになりたい。最新の世界ランク9位の日本は、アジアの中では世界ランク3位の中国、同5位のイランに次いで3番目です。試合は準備してきたものしか発揮できません。ですから、これからも普段の準備で成長を求め続けたいです。

(取材・文 林健太郎)

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