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開志学園JSCは常に”今年仕様”。2021年バージョンで難敵の帝京長岡を倒して決勝へ

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開志学園JSC高はDF長谷川基尊(左端5番)のゴールでウノゼロ勝利!

[6.5 インターハイ新潟県準決勝 帝京長岡高 0-1 開志学園JSC高]

 歓喜の笑顔を見せる選手たちの傍らで、宮本文博監督は教え子たちの心情を推し量りながらも、穏やかな表情で彼らの奮闘を称える。「もしかしたら本当は彼らの中で、やりたいことは違ったかもしれないですけど、帝京長岡さんもあれだけのチームなので、勝負に徹しようと。彼らが一番嫌なことを、ウチが最大限にできるかが勝負だと思ったので、良く頑張ってくれました」。5日、インターハイ新潟県準決勝、帝京長岡高開志学園JSC高が激突した好カードは、後半21分に先制した開志学園JSCが力強く帝京長岡を押し切り、1-0で勝利を収めて決勝へと駒を進めている。。

 開志学園JSCは徹底していた。両サイドの高い位置で獲得したスローインはすべてロングスロー。「自分たちは身長もあって、ジャンプもできて、ヘディングもできるので、相手の弱点を突くというか、そこから決めてやろうというのが共通認識でした」と語るFW澤田優一朗(3年)が幾度となく、鋭いボールを投げ入れていく。

 前半7分には澤田の“投球”に、DF竹内皐樹(2年)が競り勝ち、飛び込んだFW須崎健太(3年)はわずかに届かなかったものの、惜しいシーンを。9分にもMF荒井圭介(3年)が左へ流し、澤田のシュートは帝京長岡のGK佐藤安悟(2年)がファインセーブで防いだが、開志学園JSCが勢いよく立ち上がる。

 一方の帝京長岡は、佐藤からDF松本大地(3年)とDF桑原航太(2年)にボールを付けつつ、3バック中央のDF三宅凌太郎(3年)が少し高い位置を取る変則的なビルドアップを敢行。13分にはゴールまで約25メートルの位置から、MF金壽男(2年)が直接狙ったFKは、開志学園JSCのGK中島巧翔(3年)にキャッチされると、前半のシュートはこの1本のみ。流れの中からチャンスを作り切れない。

 28分は開志学園JSC。ここも澤田の左ロングスローから、竹内のヘディングはゴール右へ。30分も開志学園JSC。MF松田健吾(3年)、須崎と繋ぎ、澤田のシュートは佐藤がキャッチ。「前半はあれだけ押し込んだので、点が入ればもっと優位に進められたかなと思うんですけど、さすが帝京さんにも粘られましたね」と宮本監督も話した開志学園JSCのペースで、最初の35分間は推移した。

 後半もいきなりのチャンスは開志学園JSC。1分に左サイドを運んだ須崎のシュートは、佐藤がファインセーブで切り抜け、右からの展開で再び須崎が枠へ収めたシュートは、またも佐藤が阻止したものの、勢いは継続。

 7分に輝いたのは黄緑のレフティ。中央でボールを受けたMF廣井蘭人(2年)は、ディフェンスラインの裏へ絶妙のラストパス。走ったFW川村千太(3年)のシュートは、中島が素早い飛び出しで回避したものの、9分にも廣井が右サイドへ振り分け、FW堀颯汰(1年)のクロスに川村が合わせたフィニッシュは、開志学園JSCのキャプテンマークを巻くDF東界杜(3年)が体でブロック。U-17日本代表候補の廣井が、技巧派揃いの帝京長岡の中でも違いを見せる。

 やり合う両雄。11分は開志学園JSC。中島のゴールキックを相手DFが逸らしたボールに、抜け目なく反応したDF長谷川基尊(3年)はGKをかわすも、シュートは枠の左へ。16分は帝京長岡。ここも廣井が左へパスを通し、運んだ堀のシュートは中島が気合のファインセーブ。21分は帝京長岡にFKのチャンス。金のキックにフリーで走り込んだ川村のヘディングは、しかしゴール左へ逸れ、得点には至らない。

 22分。とうとうスコアが動く。右サイドの混戦から、途中出場のMFモーリス・ケンヤ(3年)はいったんボールを失い掛けながら、粘って粘って腰をひねったクロス。ここに飛び込んだのは「モーリスがあそこでクロスを上げると思って入っていきましたし、練習でもやっていたので、予想通りに来たという感じです」と振り返る長谷川。40メートル近くをスプリントしてきたウイングバックのヘディングが、ゴールネットへ吸い込まれる。

 ややコンディションが整っておらず、時間限定の起用だったモーリスのチャンスメイクに、「彼は本当に一番アップダウンができる子なんです」と指揮官も明かした左ウイングバックの長谷川が大仕事。開志学園JSCが1点のリードを手にした。

 このままでは終われない帝京長岡も、次々と交代カードを切りながら、最終ラインにいた三宅と桑原を前線に上げて、スクランブルでゴールを狙いに行くものの、東とDF村松氷優(3年)を中心に開志学園JSCは堅陣を築き続けると、GKの佐藤も上がってきた35+4分の帝京長岡のCKも凌ぎ切り、聞いたタイムアップのホイッスル。「自分たちがチャンピオンになるという気持ちを持ってやっていますし、『普通に勝って当たり前だ』という気持ちでやっていたので、本当に勝てて良かったです」(長谷川)。2年連続で高校選手権の全国4強を経験している難敵を撃破し、開志学園JSCが決勝への切符を掴み取った。

 試合中にもシステムや配置を変えながら、攻守に粘り強く戦って、14年以来の新潟戴冠に王手を懸けた開志学園JSC。「ウチは正直一線級の選手がいる訳ではないので、走るとか、戦うとか、声を出すとか、全体でまとまっていくとか、そういうことをベースに、もちろん個々の特徴を生かしながら、いろいろな相手に対応できるようなサッカーをしていこうと。逆に言うとウチには『これだ』というスタイルはないかもしれないですけど、そういう部分で育成のベースを作りながら、地道にというスタンスでやっています」と宮本監督。攻撃時も守備時も“良い声”がピッチ上を飛び交っていたのも印象的だ。

 さらに、今年のチームは初めてキャプテンも寮長も3人制を導入。「それもみんなで広く関わって、1人だけではなくて、いろいろなアイデアや個性を組み合わせながらやろうと。今年はそういうスタンスでやっています」という指揮官を含めたスタッフの取り組みは、「今年の3年生は24人いて、本当に仲が良いので、そういう中でキャプテン3人というのは、『全員でやっていこう』という感じを作り出していると思います」と長谷川も歓迎。ピッチ内でも、ピッチ外でも、その時の選手たちに応じて、柔軟にやり方を変えていけるのも、このチームの大きな強みになっている。

 そこには宮本監督が持ち続けている、1つの信念がある。「彼らがサッカーを通して新潟に来て、一人で親御さんの元を離れて、サッカーで自立して、サッカーを通していろいろなことを学んで、大人になっていく過程の中の1つが、開志でのサッカー人生なのかなと。だから、サッカーとサッカー以外の所のバランスをうまく組み合わせながら、毎年いろいろな学生が入ってくる中で、『今年はこうかな』と試行錯誤しながら、サッカーを通して人間的に成長させるという所は、我々もどこかに持ってやっています」。

 結果は、過程をより強く肯定する。「まだ準決勝に勝っただけなので、決勝で勝たないと意味がないですし、次も絶対に勝ってやろうと思います」と澤田は力強く言い切った。彼らは常に“今年仕様”。2021年バージョンとも言うべき開志学園JSCの、福井へと続いている扉をこじ開ける準備は、既に整っている。

(取材・文 土屋雅史)
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