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県立校の安芸南が初の広島準決勝でV候補から2点先取。「魔の9分間」の悔しさを力に

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前半14分、安芸南高FW西垣内伊吹が先制点

[6.10 インターハイ広島県予選準決勝 瀬戸内高 4-2 安芸南高 Balcom BMW 広島総合グランド]

 歴史を塗り替えた。次の扉にも手をかけたが、惜しくも開けることはできなかった。

 令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技広島県予選準決勝が10日に行われ、安芸南高瀬戸内高と対戦。2-4で敗れ、初の全国行きはならなかった。

 地元で『アキナン』の愛称で知られる安芸南は、2008年度の高校選手権で広島皆実高を日本一に導いた藤井潔監督が、2019年度に赴任。1986年の創部以来、高校選手権も含めて全国大会の予選での過去最高はベスト8だったが、少しずつ力をつけて今回、初のベスト4進出を果たした。

 瀬戸内は2月の新人戦で優勝し、インターハイは3大会連続9回目の出場を目指す優勝候補筆頭。立ち上がりからボールを支配されて攻め込まれたものの、キャプテンのMF田中一久(3年)が「予選を戦いながら、試合ごとにベストのパフォーマンスを更新していました。自分たちのサッカーをやれば勝てる、自信を持ってやろうと話し合って試合に入った」と語った意気込みで、パスを回されても粘り強く対応し、決定機を作らせない。

 そうするうちに前半14分(40分ハーフ)、藤井監督が「相手の3バックの両脇を狙っていた」と明かした狙いどおり、カウンターから左サイドを突破する。一度はセンタリングをはね返されたが、こぼれ球を拾ったFW田原順生(3年)がファーサイドにセンタリングを送ると、「ああいうボールから自分が決める形を何度も練習していました。練習どおりのボールが来た」というFW西垣内伊吹(3年)が、相手DFの背後に入って右足で合わせ、先制点を奪った。

 その後、22分に瀬戸内のDF藤田凱斗(2年)が右足で狙ったミドルシュートがクロスバーに当たり、28分にはFW新井悠河(3年)に至近距離からシュートを打たれるなど、ピンチもありながらしのぐと、前半の終盤には攻め込む時間帯を作る。37分、左サイドを突破した田原のセンタリングがゴールに向かって飛んだが、右ポストに当たって決まらず。38分にはロングスローのこぼれ球をDF山本裕夢(3年)が左足で狙ったものの、相手守備陣にブロックされた。

 追加点は奪えなかったが、1-0とリードして前半を終了。安芸南は藤井監督が「選手たちが思いのほか、すごく冷静だった」と振り返るハーフタイムを経て、後半も素晴らしいスタートを切る。5分、またも左サイドを破ると、田原のパスがファーサイドに流れたところを西垣内が押し込み、リードを2点に広げた。

 コーナーフラッグへと走る西垣内にピッチ内の選手や控えメンバー、藤井監督はじめスタッフも駆け寄り、大きな喜びの輪ができた。これで完全に安芸南ペースになるかと思いきや、すぐに流れが一変することになる。

 再開のキックオフ直後の6分、ロングパスで左サイドを破られると、瀬戸内FW美藤慶音(3年)に決められて1-2。息を吹き返した瀬戸内の攻撃が勢いづき、10分にはエリア内左サイドで複数の選手がドリブルでかわされ、FW武田直大(2年)に決められて追い付かれてしまう

 安芸南は2失点目の直後に選手全員が集まり、田中は「下を向かずに自分たちのサッカーをしようと声を掛けた」という。しかし、相手に傾いた流れを引き戻すことはできなかった。14分、CKから藤田に決められて3失点目。2-0としてから、わずか9分間で逆転されてしまった。

 その後は、すっかり重圧から解き放たれてパスワークがスムーズになった瀬戸内の攻めに防戦一方。セットプレーからゴール前にボールを送る場面もあったが、28分にはMF大田巧(3年)にミドルシュートで4点目を決められ、万事休す。後半のシュートは2点目となった1本のみで、終わってみれば力の差を見せつけられた格好になった。

 天国から地獄へ突き落とされたような後半の『魔の9分間』を、藤井監督は「2-0になったとき、舞い上がっていたわけではないけれど、ふわふわしてしまった。皆さんが思っている以上に個々の能力には差があり、その状況で2-1になったとき、精神的な圧迫感があったと思う」と分析。さらに「1-0のままだったら、もっとうまく試合を運べていたかも、という思いもありますが、それも含めて経験」と続けた。

 それでも、県立校の「トレセンに選ばれたこともない、本当に普通の選手たち」(藤井監督)が躍動し、優勝候補を追い詰めた。プリンスリーグ中国で首位に立つ瀬戸内に対し、安芸南は今年度に県2部リーグに昇格したばかり。カテゴリーは2つ下だが、一発勝負のトーナメントで勝利に迫り、藤井監督は「悔しさよりも手応えの方が大きい」と納得の表情も見せた。

 選手たちも、終了直後に涙を見せる者はいたが、すぐに気持ちを切り替えた。田中は「先輩方が作ってくれたものを受け継ぎながら、歴史を塗り替えることができました。選手権予選ではベスト4の壁を越えられるように頑張っていきたい」と力強く語り、西垣内も「選手権予選では必ず決勝の舞台に立ち、全国に行きたい」ときっぱり。『魔の9分間』の悔しさを力に変えて次こそ決勝進出を果たし、全国への扉も開いて、再び『アキナン』の歴史を塗り替えてみせる。

安芸南高の部員、スタッフ、マネジャーも含めて写真撮影

(取材・文 石倉利英)
●【特設】高校総体2023

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