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女子W杯に2選手輩出。次のステージ見据える藤枝順心はインハイで成長と勝利を

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藤枝順心高は16年以来2度目のインターハイ優勝を狙う

 夏の高校女子サッカー日本一を争う令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」女子サッカー競技が、7月26日から7月30日まで北海道帯広市と音更町で開催される。藤枝順心高(東海1、静岡)は昨年度の全日本高校女子サッカー選手権で史上最多となる6度目の優勝。次のステージでの活躍、なでしこジャパン世界一への土壌作りも見据えて強化する中、その成長を日本一に結びつけた。“冬の女王”は今回のインターハイ初戦で大阪学芸高(近畿1、大阪)と激突。一戦必勝で白星と成長を重ね、今夏も全国制覇を成し遂げる。

 今年の藤枝順心は、昨年のU-17女子ワールドカップに出場し、いずれもゴールを決めたMF久保田真生(3年)、FW高岡澪(3年)、FW辻澤亜唯(3年)の強力アタッカー陣に注目。爆発的なスピードを持つ久保田と前線でボールを収めて起点にもなる高岡、多彩な得点パターンを持つ辻澤とタイプの違う3人が得点源になっている。

 加えて、U-17日本代表候補歴を持つDF柘植沙羽(2年)、昨年1年間で最も成長したというMF下吉優衣(3年)、そしてFW 藤原凛音(2年)やMF佐藤ふう(2年)、DF松山のの美(2年)、地元・藤枝出身のMF鈴木由真(1年)と下級生も伸びてきている。その藤枝順心は今年、久保田と、怪我から復調したクレバーなCB大川和流(3年)の主将2人制を導入。80名を超える部員一人ひとりに目を向けながら、それぞれの力を認め合う関係性を築いている。

 大川は「2人だからこそ、周りを見て、細かいところまで気付けるというのもあるし、一人が困った時とかに助けられる。副キャプテンも多いからこそ、チームの団結力が高まるのかなと思います」。北は北海道、南は九州から挑戦心を持って集結した選手たちが日本一、プロ入り、そしてなでしこジャパンになることを目指して切磋琢磨。「なでしこジャパンがもう一度世界一を取れると僕は思っているので、その土壌を僕は高校サッカーから作りたい」と語る中村翔監督らコーチ陣も、高校サッカー、藤枝順心から将来のステージで輝く選手の育成を本気で目指している。

 成長し続ける力が“冬の女王”の歴史を築き、次のステージでの活躍に繋がっている。藤枝順心は昨年のインターハイで初戦敗退。開催地代表の鳴門渦潮高(徳島)にシュート数で11対2と大きく上回りながら決め切ることができず、0-0のPK戦で敗れた。前後半のクーリングブレイク・飲水タイムによって流れに乗り切れなかったことも敗因の一つに。ただし、中村監督は「(初戦敗退に終わったが、)やっていることは間違っていないな、続けていけば成果が出るなと感じていた」という。そして、「『このままやり続けよう』ということは選手には言い続けていました」。

 中村監督は高校男子サッカーの名門、盛岡商高(岩手)のCBとして06年度の全国高校選手権日本一。男子の強豪・藤枝明誠高(静岡)コーチ、藤枝順心のコーチを経て21年から指揮を執る指揮官は、勝ったとしても、負けたとしても、1試合1試合必ず成長するためのポイントがあるという。

「負けた試合でも成長した部分や良かった部分は必ずあるので、それを伸ばすことだったり、ここを改善したら勝っていたかもしれない、というところに1試合1試合目を向けること、それが長期的に最後成果として表れてくる。僕ら指導者が大事にしなければいけないことは、この3年間で彼女たちのサッカーが終わる訳では無いですし、人生が終わる訳じゃないので、いかに次のステージに送り出すためにプロセスを歩んでいけるか、歩ませてあげられるかというのは、僕らが凄く大事にしていることです」

 将来のために、3年間、高校生活最後の大会である女子選手権決勝の日まで成長を続けること。「ウチが選手権で多くの結果を残しているのは、そこじゃないかなと自負しています。チームとして、そのプロセスをしっかり歩み続けることで、選手権でより結果が出てくると。だからといって、夏を諦めている訳ではなくて、優勝を目指している」と中村監督は言う。

 高校サッカーのメリットの一つが、学校生活から指導者の目が行き届く環境の中で人間形成できるところ。中村監督は高校生がクラブとは異なる環境で選手としても、人間的にも成長できると考えている。

「僕が高校サッカーに魅力を感じているのは、サッカーだけじゃなくて、生活の中でも選手たちの成長に寄り添っていけるところ。なでしこジャパンがもう一度世界一を取れると僕は思っているので、その土壌を僕は高校サッカーから作りたい」。7月20日に開幕した女子ワールドカップになでしこジャパンが参戦中。登録23選手のうち、高体連出身選手は6人で藤枝順心はMF杉田妃和(ポートランド・ソーンズ)、FW千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)と高体連チームで唯一2選手を女子ワールドカップに送り出している。

 中村監督は「それが全てではないですけれども」と前置きした上で、大学、WEリーグ、なでしこジャパンに最も多くの選手を輩出すること、そのステージで評価される選手を育成することを掲げている。現状、なでしこジャパンの出身はクラブユースが主流。だが、22年ワールドカップに高校サッカー部から12名を送り出した男子のように、女子も高校サッカー部からより多くの才能を夢舞台に送り出せると考えている。

 藤枝順心は在校生も年代別日本代表候補が多数。競争の激しさは全国トップクラスだ。久保田は「全国から集まっているのもありますし、県内でやっている子も上手いので、その激しい争いの中で11人としてみんな出たいという気持ちが強いと思うので、その中での緊張感というか、練習の雰囲気とかが自分が中学生の時よりも全然違っていて、毎週メンバーの入れ替えとかある。そういうところもこっちに来て良かったと思っています」。また、辻澤は藤枝順心の選手たちの強みとしてサッカーIQの高さを挙げる。

「(藤枝順心の選手は)柔軟に対応できると思います。コーチが練習の時でも悪かったら一回止められて、何が悪かったか聞かれて何が必要か考えさせられる。(自分も)今までは何も考えずに。でも、考えるようになりました」という。上のステージで活躍するためには技術力、体力、メンタル面、戦術理解力も必要だ。コーチ陣はサッカーのトレンドに注視し、自分たちも学習。日本人が外国人との体格差を消す戦い方も意識し、いかに高い位置でボールを奪い、相手の攻撃の芽を摘むか、ポリシーを持って取り組んでいる。

 杉田、千葉のワールドカップ出場は後輩たちの刺激になっているようだ。「順心から卒業した2人がそこに出ている。そこを目指す、近づけるんだ、と知れた良い機会になるんじゃないかなと思います」と中村監督。大川は「自分の目標にすべき選手ですし、そういう選手をテレビで見てきたからこそ、自分も同じ道というか、目標を辿りたいという気持ちです」と語った。

 取材日は、女子サッカーもサポートするニューバランス社製スパイクの試し履き会が同校の人工芝グラウンドで実施されていた。多くの支えも力に、偉大な先輩たちも戦ったインターハイへ。杉田の小中高の後輩に当たる辻澤は「(藤枝順心へ進学した理由は)杉田妃和さんが行っていたのが大きいです。卒業後はプロ。最終的には日本代表になって、ワールドカップで優勝したいです」と語っていたが、夏の大舞台で勝ち、優勝することでより多くの経験を積み、より目線の高い状態で次へのスタートを切ることができる。

 大川は「自分たちは最後の夏なので、このチームでできるのもラストの夏なので、今までは“冬の女王・藤枝順心”と言われてきたんですけれども、それを覆して夏も」と語り、久保田は「目標は優勝です。選手権もまだあるので、選手権に向けてどれだけ成長できるかとか、インターハイの中でも勝ち方とか、失点しないのがもちろんですけれども、失点した後のメンタルとか、1回戦からの気持ちの作り方だったりを大事にして、一戦一戦勝ちにこだわっていきたい」。ライバルたちよりも多くの白星と成長を重ね、選手権、その先に繋がる夏にする。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2023

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