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「選手が考えるサッカー」綾羽が選手権予選に続き、新人戦も滋賀制覇

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[1.26 滋賀県高校新人戦決勝 綾羽1-0彦根東 ビッグレイク]

 2013(平成25)年度滋賀県高校サッカー新人大会(U-17強化練習会)決勝が26日に行われ、今冬に全国高校選手権初出場を果たした綾羽がMF岩井健主将(2年)の決勝ゴールによって彦根東に1-0で勝利。2年ぶり2回目の優勝を果たした。

 ともにこの日の午前中に準決勝を行ったばかり。特に彦根東は準決勝の試合終了からわずか1時間10分後に決勝を迎えていた。連戦に加えて冷たい雨と強風。その中で序盤から綾羽が主導権を握って攻めていく。FW田中寛之や左FW小野山翔(ともに2年)が積極的にシュート。ただ、前線からのプレスで2列目、前線へのパスをカットする彦根東は逆に12分にビッグチャンスを迎える。
 
 敵陣右中間でFKを獲得すると、MF寺本大智(2年)がクイックリスタート。DF間のギャップを射抜くスルーパスに反応したFW左崎敦也(2年)が決定的な右足シュートを放った。ただこれは綾羽GK山川将仁(2年)が何とか触り、ゴール方向へ飛んだボールはCB前田想士(2年)がゴールライン手前でかき出した。ピンチもあったが、相手の攻撃を上手く遮断していた彦根東は選手同士で「前から行けてる!!」と声が飛ぶ。綾羽は26分に岩井のアイディアあるループパスから田中が決定的なヘディングシュートを放ち、30分にもFW北尾弘汰(2年)の右クロスから小野山が決定的な右足シュートを撃ち込んだが、前半はスコアレスで折り返した。

 攻めながらもCB野村政彰(2年)中心に守る彦根東から先制点を奪うことができなかった綾羽だが、それでも後半4分、左サイドから個人で仕掛けた岩井が狙いすました右足コントロールショットをゴール右上隅へ突き刺してリードを奪う。これをピッチに倒れこむように悔しがった彦根東もMF野坂駿介(2年)投入から巻き返しを図る。そして綾羽の10番、MF奥村南斗(2年)が次々と放ってくる強烈なシュートをGK郡田和明(2年)の好守などで阻んだ彦根東は交代出場のFW大久保佳徳(1年)がシュートへ持ち込む場面もつくったが、前田やCB近持聖也、MF池田彰太(ともに2年)ら中央の堅い相手を切り崩すことができず。綾羽がタイトルを勝ち取った。

 試合後、綾羽の岸本幸二監督は「優勝した時に喜びのなさがハンパじゃなかった。あれも悶々としている感じだと思います。そこから何が出てくるのか楽しみ」と語った。綾羽は昨年度導入した選手主導のボトムアップ育成が個々の自主性を高め、それがチームの成長につながり初優勝。新チームは今大会、試行錯誤しながら「選手が考えるサッカー」を実践し、まず1冠を獲得した。それでも優勝のホイッスルが鳴った瞬間、選手たちに満足した様子は全く見られなかった。

「ウチはボトムアップがいいと思ってやっている。でも絶対に正解というやり方はありません」。岸本監督はボトムアップがすべてを解決する方法だとは考えていない。それでも選手の成長の早さに驚いている。今回の新人戦は新チームのスタートだからこそ、より選手に任せる方法をとった。指揮官は「これまでは練習もアドバイスを入れていた部分があったんですけど、今回(の新人戦)はほぼ選手たちに任せています。自分たちがやり始めた時なんで。やらしてあげて、実際どうなのか。彼らの中でやれた部分、やれなかった部分をもうちょっと整理していって、『これどうなるんやろ』と考えてくれればいい。こう(上手く行かなく)なることは分かっていたけれど、あえて放っておくということをしました」。選手たちがなぜうまく行かなかったのか考え、優勝後に首を傾げていたのはある意味、狙い通りだった。

 選手たちは自分たちで練習方法から、試合でのメンバー、テーマ、戦術まで話し合って決める。ただ今回はテーマに具体性がなく、選手それぞれ解釈が少しずつずれて上手く行かなかった。それでも、自分たちで考えて、失敗することも前進につながる。指揮官は「自分たちの課題が浮き彫りになった。本人たちが気づいたら、それに本気になって取り組む姿勢が出てくる」という。奥村が「監督に言ってもらうんじゃなくて、自分が思うことを言って、監督にアドバイスをもらっている」という選手たちが、納得のいかなかった優勝からどう自分たちで改善し、成長するか注目だ。

 岩井は「結果も内容も良くなかった。いつもテーマを決めて、それをできたかどうか、どうすれば改善できるかを話し合っているんですけど、それよりもきょうは一人ひとりの詰めの甘さ、『勝てるんちゃうか』という気持ちが出てしまった。こういう気持ちが染み付いてしまうと、相手が全国レベルやったらパスミス一つでやられてしまう。メンタルも強くして行こうという話をしました」。昨年、3年生がいる中でもリーダーシップを発揮していた選手もいれば、3年生の陰に隠れていた選手もいる。まだ個々の自主性にも差があるのが現状。それぞれが意識を高く持ち、リーダーとなって、今年は「全国で勝つため」自分たちのサッカーをつくりあげていく。

(取材・文 吉田太郎)

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