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迷わず志願したナンバー10。浦和ユースMF木下翼はプレッシャーも自らの力に

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浦和レッズユースの新ナンバー10、木下翼

[2020シーズンへ向けて](※浦和レッズの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 小さい頃から注目され続けてきた男は、追い込まれた状況すらも楽しんでしまうような、鋼のメンタルを既に持ち合わせているようだ。「小学生の時から期待されて、プレッシャーというのは掛け続けられていたと思うんですけど、そこで自分はプレッシャーに勝つ方法を身に付けてきていて、今はもうそういう状況も楽しみでしかないですし、メンタルは自分の特徴だと考えているので、そこは曲げないでいきたいです」。爽やかな笑顔の裏に秘められた強烈な闘志。浦和レッズユースのナンバー10。木下翼(3年)はやはり只者ではない。

「練習が再開してから、最初の1、2週間は走り込みを結構やっていて、最近は徐々にポゼッションとかゲームに入ってきたので、やりたかったサッカーができるようになって嬉しいですけど、思った以上に体が動かなくてキツいです」。そう言って笑った表情に、改めて木下の“サッカー小僧”ぶりが透けて見える。

「自分のプレーを表現し過ぎて、求められているプレーができていなかった部分はあると思います。自分はボールを持ってからが特徴で、味方を生かすというよりは自分が個で打開してというイメージでプレーしていたんですけど、前期は速い判断の部分を求められていたと思うので、そこをもうちょっと修正できれば良かったんじゃないかなと」。2年生だった昨シーズンの前期は、なかなか高円宮杯プレミアリーグEASTでも思ったような出場機会が巡ってこなかった。

 同級生たちがプレミアの舞台で躍動する姿を見て、想う所がなかったと言えば嘘になるが、目の前の課題へ真摯に取り組んでいく。「少し悩んだりもしていたんですけど、自分はあまり周囲のことは気にしないタイプで、『淡々とやっていればチャンスは回ってくるんじゃないか』という考えがあったので、もちろん悔しい気持ちはありましたけど、『自分もやってやるんだ』という気持ちで練習に臨んでいました」。

 転機は本州最北端の地で訪れた。プレミア第13節の青森山田高戦。「ちょっと緊張していた部分もあったと思うんですけど、『コンディションが悪いな』と感じていたんです」という木下は、後半スタートからの出場を命じられる。緊張感をみなぎらせる中、ふと相手のベンチの光景が視界に入ってくる。

「たぶんですけど、相手の監督から自分のマッチアップする選手に指示が与えられていて、それを見て『警戒されているのかな』って(笑) そこで力み過ぎずに試合にスッと入れた感じはありました」。0-0で迎えた後半のアディショナルタイム。相手の連係ミスでこぼれたボールが、木下の目の前に転がってくる。夢中で蹴り込んだ球体は、ゴールネットを激しく揺らす。気付けば、叫びながらピッチを走り出していた。

「プレミアでの初ゴールだったので凄く嬉しかったですし、青森山田も他のチームとは一味違うような感覚の相手だったので、喜びが爆発したんじゃないかなと思います」。まだ試合中ではあったが、ベンチメンバーもグラウンドへ飛び出してくる。真っ先に抱き付いてきたのは、小学生時代から同じチームでプレーしてきた3年生GKの石塚悠汰。自らがゴールを決めた感覚はもちろん、周囲の歓喜を目の当たりにしたことで、ある考えが脳裏に浮かんできたという。

「それまではいつもドリブルすることを第一に考えていたんですけど、やっぱりゴールというのは特別なものだと感じましたし、あれからどんどんゴールへの意欲が増していったと思います。『自分が先頭を切ってやらなきゃいけないな』と考える中で、ゴールとアシストでチームに貢献することは、より意識するようになりました」。今まで以上に勝敗を決められる選手として、怖さを纏っていきたいという決意は固い。

 今年はレッズの10番を背負う。「迷わず志願しました。小学生から付けさせてもらってきたので、本当はジュニアユースでも付けたかったんですけど、実力が足りなくて(笑)」と笑わせながら、続けた言葉に今まで辿ってきたキャリアへの矜持が滲む。

「小学生の時から期待されて、プレッシャーというのは掛け続けられていたと思うんですけど、そこで自分はプレッシャーに勝つ方法を身に付けてきていて、今はもうそういう状況も楽しみでしかないですし、メンタルは自分の特徴だと考えているので、そこは曲げないでいきたいです」。小さい頃から注目され続けてきた男は、追い込まれた状況すらも楽しんでしまうような、鋼のメンタルを既に持ち合わせているようだ。

 小学生時代を過ごしたレジスタFCのチームメイトに対する思い入れも語ってくれた。「自粛期間に入る前にはレジスタのグラウンドに集まって、少しですけどみんなとサッカーをしましたし、結構コミュニケーションは取っていますね。特にキョウタ(常盤亨太=FC東京U-18)は体をぶつけてくるタイプで、自分が一番苦手な相手でもありますけど、今年はドリブルで抜きたいと思っています(笑)」。ピッチ上で再会する日が非常に楽しみだ。

 ここから半年の目標を尋ねると、すぐに力強い言葉が返ってくる。「去年は途中出場が多かったので、今年はちゃんと試合の最初からチームに貢献することは意識していて、得点とアシストを量産できるように頑張りたいと思いますし、“ドリブラー”の座も他の人に譲りたくないですね」。得点と、アシストと、もちろんこだわり続けてきたドリブルと。赤きファンタジスタは、今年も我々を存分に魅了してくれることだろう。

 表面を見ているだけでは、この男の本当の価値を見誤る。爽やかな笑顔の裏に秘められた強烈な闘志。浦和レッズユースのナンバー10。木下翼はやはり只者ではない。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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