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右サイドを駆け上がり続けるエイトマン。横浜FCユースDF田畑麟はラスト1分までチームのために走り切る

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横浜FCユースの新キャプテン、田畑麟

[2020シーズンへ向けて](※横浜FCの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 目立つのは嫌いじゃない。背番号8の右サイドバックなんて、他に誰もいないからカッコいいなって秘かに思っている。でも、一番大事なのはチームの勝利。そのためにだったら、走り続けることだって少しも厭わない。「自分は迫力のあるプレーが武器だと思っていますし、体力に自信があるので、みんなが本当に動けなくなっている時に、ラスト1分でも自分がオーバーラップを掛けることで、チームを引っ張っていきたいです」。横浜FCユースの新キャプテン。田畑麟(3年)はラスト1分までチームのために身を捧げる覚悟で、右サイドを走り切る。

 2019年はチャレンジの年だった。「ずっと前目のポジションだったんです。インサイドハーフだったり、トップ下だったり、ボランチだったりをやっていて、右サイドバックは去年から始めたんですよね」。なかなか試合の出場機会を得られていなかったことから、コンバートを受け入れたが、この決断が吉と出る。

「実際にやってみて、自分の能力が凄く生かせるのがサイドバックなのかなと感じました。身体能力だったり、対人の強さ、チームの足が止まっている時に走れたりとか、そういう所が僕の武器だと思っていて、そういう面に関してはボランチより特徴を生かせるのかなと」。“360度”の視界が“180度”に変わったことにも違和感はなかったという。「逆に楽でしたね。首を振る回数が減ったこともありますし、余裕を持ってプレーできるようになりました」。

 映像をチェックする選手も少しずつ変わってきている。「今まで好きだった選手はアンドレア・ピルロです(笑) でも、自粛期間にコーチから『こういう選手から学べるんじゃないか』と教えてもらって、チェルシーのアスピリクエタや酒井宏樹選手を見るようになりました」。マインドもサイドバックのそれになりつつあるのは間違いなさそうだ。

 昨シーズンは自身も新たなポジションにフィットしていく中で、特に後半戦はチームの雰囲気の良さを実感することが多くなっていった。「プレミアに昇格できるなんて最初は誰も考えていなかったと思うんですけど、自分的には凄くやっていて楽しくて、プレーオフが見え始めた頃からはみんなの勢いが止まらなくて、負けなしでやれて、本当に良い雰囲気でしたね」。

 勢いそのままに挑んだ高円宮杯プレミアリーグプレーオフ。初戦で岡山学芸館高を4-0で下した横浜FCユースは、昇格を懸けて富山一高と対峙する。「自分的には緊張もなくて、負ける気はあまりしなかったですし、凄く冷静に戦えていたんじゃないかなと思います」。延長までもつれ込む激戦を2-1で制し、歓喜に沸くハマブルーの選手たち。ところが、その瞬間のピッチに田畑の姿はなかった。

「自分は“モモカン”を食らって、延長に入る前にケガで替わったので、もどかしさが凄くありましたし、最後まであのピッチに立っていられなかったことは凄く悔しくて、『もうこういう想いをしたくないな』と思いました」。勝利を喜ぶ気持ちと、自身の交代を悔やむ気持ちと。相反する感情が交錯したあの日は、自分の中でも忘れたくない1日として心に刻んでいる。

 今シーズンはチームのキャプテンを担う。望んで立候補した大役。イメージは“先輩たち”の中にある。「去年のプリンスで試合に出させてもらっていた時に、先輩の背中が大きく見えたんです。ツバサくん(佐々木翔・仙台大)やヒナタ(小倉陽太・早稲田大)は凄く自分の中でも頼りになる存在だったので、そういう存在になりたいなと思いました」。

 とはいえ、自粛期間を余儀なくされた時期を経て、チームをまとめる難しさにも直面したという。「自粛明けにやっと1年生が参加してきたんですけど、自粛前までは受験とかであまり練習にも来ていなかったので、温度差みたいなものを感じたんです。オンラインミーティングやオンライントレーニングで顔を合わせてちょっと話すぐらいだったので、LINEで『こういう状況だから頑張ろう』と言ったりはしましたけど、結構難しさはありました」。

 考えることは増えたが、辿り着いた結論はシンプル。自分にできることを、最大限に。「1日1日を大事に過ごしていきたいとは思っていて、やっぱり自分から一番前を走ることで、キャプテンとしてチームを引っ張っていきたいです」。それが何よりチームを牽引することに繋がると信じ、ピッチ面でも、そしてメンタル面でも、田畑は一番前を走ることを決めた。

 ジュニアユース時代も付けていた背番号。8番は気に入っている。「何となく自分の中で『8番がいいな』というのはあります。ずっと背負ってきた番号なので、縁起がいいかなと。逆にサイドバックで8番も目立つのかなと思います。目立つのは嫌いじゃないですね(笑)」。

 トップチームの8番を託されている佐藤謙介もキャプテンマークを巻きながら、自身初挑戦となるJ1の舞台で確かな存在感を発揮している。受け継がれていくハマブルーの8番とキャプテンの重みを誰よりも感じつつ、アカデミーラストイヤーとして残された時間での役割は明確だ。一番大事なのはチームの勝利。そのためにだったら、走り続けることだって少しも厭わない。

「自分は迫力のあるプレーが武器だと思っていますし、体力に自信があるので、みんなが本当に動けなくなっている時に、ラスト1分でも自分がオーバーラップを掛けることで、チームを引っ張っていきたいです」。横浜FCユースの新キャプテン。その足が動き続ける限り、前へ、前へ。田畑麟はラスト1分までチームのために身を捧げる覚悟で、右サイドを走り切る。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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