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[MOM3513]名古屋U-18MF加藤玄(3年)_慣れないCBの役割も“勉強”して完遂。決勝PKまで沈めてしまうチームの絶対的な幹

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名古屋グランパスU-18の絶対的な“幹”、MF加藤玄

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.3 プレミアリーグWEST第9節 京都U-18 2-3 名古屋U-18 東城陽G]

 “個性派集団”を束ねるキャプテンとして、果たすべき役割は誰よりもよく把握している。それはピッチのどこにいたとしても、自分の中で変わることはない。「僕たちのチームにはドリブルしたい選手もいますし、シュートを打つ選手もいますし、どんどん上がっていくサイドバックもいますし(笑)、そこは自由にやらせて、バランスを取りながら、周りの良さを生かせるような意識はしています」。名古屋グランパスU-18不動のキャプテン。MF加藤玄(3年=名古屋グランパスU-15出身)のリーダー感、常に圧倒的。

 実に2か月ぶりとなるプレミアリーグ再開を前に、名古屋U-18は新たなメンバー構成の必要性に迫られていた。中断前まで主力としてプレーしていた3年生が、トップチームのACL帯同や、負傷によって次々と離脱。フレッシュな選手の台頭が求められる中で、加藤も本来のボランチではなく、CBで起用されることに。昨年も少しこなしていたポジションだったが、改めて任された役割と真摯に向き合うあたりが、この男らしい。

「僕がCBをやっていた去年の頭は、温紀がサイドハーフをやっていて、シーズンの途中で僕がボランチに上がって、温紀がCBに入ったんですけど、その時も温紀を見て本当に“勉強”しましたし、今回も温紀がいなくなってCBを担当すると決まってからも、過去の試合を見て“勉強”したりしましたね」。今シーズンのCBを務めてきており、U-20日本代表候補にも選出されているDF吉田温紀(3年)のプレー映像をわざわざ見直して、自らに採り入れられる部分を探してきたというのだから、恐れ入る。

 京都サンガF.C.U-18(京都)と対峙した、この日の試合も最後方に位置しながら、機を見て前にボールを運んでいく姿勢の良さには、さながら吉田のような、あるいは往年のベッケンバウアーのような優雅さが。「ベッケンバウアー、ちょっとわからないです(笑)」とは当然の反応だが、「今回CBに入ったのは、守備というよりも後ろからボールの状況を変えて、上手く前進していくことが役割だったと思うので」と言い切った通り、配球でもチームにアクセントをもたらしていく。

 2-2で迎えた最終盤の後半40分。名古屋U-18に絶好の得点機が到来する。途中出場のMF西凜誓(2年)が素晴らしい仕掛けからPKを獲得。時間帯を考えても、勝敗を大きく左右する場面での重要なキッカーに、加藤は自ら名乗りでる。

「凜誓も蹴りたがっていたので、決めてくれるとは思っていましたし、蹴らせてあげたかったんですけど、自分の中で下級生が外しても責められないなと思いつつ、万が一にもアイツが外して落ち込む姿を見たくなかったので、『それなら自分が蹴って、責任を負おう』と思いました」。短い助走から、ワンフェイクを入れつつ、GKの動きを冷静に見極めて、左スミのゴールネットへきっちり突き刺す。

「キーパーのマサ(北橋将治)やピサノ(アレクサンドレ幸冬堀尾)から、『PKの練習をしたい』と申し出があって、毎回練習後に蹴っていたので、自信はありましたし、『これを決めたらゲームは終わりだろう』と強い想いで蹴りました」。ゴールを沈めると、そのままベンチへ一目散に向かい、チームメイトと抱擁を交わす。

「3年生も多く抜ける中で、『それでも勝たないと』という意識で、この2ヶ月は本当に積み上げてきましたし、公式戦がない中で、大学生に胸を借りてトレーニングを積んできたものが、まだまだ課題ばかりでしたけど、本当に最後に決める所とか、身体を張る所とか、この90分で見えたんじゃないかなと思います」。

 キャプテンの重責と、PKキッカーとしての重責と、慣れないCBの重責を見事に果たし切った加藤の、この勝ち点3獲得に果たした役割は、とにかく絶大なものがあったことは言うまでもない。

 クラブユース選手権、Jユースカップ、プレミアリーグWESTとタイトルを総なめにした2年前のチームを知る最後の世代として、自分たちが為すべき成果も、加藤は十分に理解している。

「もう“最強世代”を知っているのは僕たちの学年だけで、『頂点奪還』というスローガンを掲げてここまでやってきて、本当にそこは常にブラしていないですし、プレミアもここからセレッソ戦があって、夏のクラブユースも始まりますけど、本当に全部獲らないと満足できないですね。一昨年のキャプテンの牛澤(健)くんも言っていましたけど、『頂点を獲らなかったら意味がない』と思っていて、準優勝もビリと一緒ですし、頂点には本当にこだわっていきたいですし、今はいない選手がたくさんいますけど、アイツらが帰ってくるまでにもっと進化して、もっと大きなチームにできるようにやっていきたいと思います」。

 『頂点奪還』だけを見据える名古屋U-18。そのチームの中には、いつでも、どこにいても、必ず中心を貫いてくれる加藤という大きな幹が、力強くそびえ立っている。

(取材・文 土屋雅史)
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