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悔しさを力に変えてきた群馬育ちのキャプテン。桐生一DF石原翼は謙虚な野心を携えて高校最後の1年へ

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桐生一高の“2人制キャプテン”の1人、DF石原翼

 悔しい想いをしたことも、一度や二度ではない。思い出すたびに頭を抱えたくなるような事態に、見舞われたことだってある。そんな経験のすべてを結集させて挑むだけの価値が、この最後の1年にはあると、今は信じている。

「今年は高校最後の1年ということもあって、後悔は絶対にしたくないですし、プレミアという素晴らしい舞台で毎週試合ができるので、全力で悔いなく、足が攣ってもそこからさらにやる気を出すくらいで、1試合1試合勝っていきたいです」。

 2022年の桐生一高(群馬)が採用する“2人制キャプテン”の一角、DF石原翼(2年=前橋SCジュニアユース出身)は、自身とチームの成長だけを見据えて、日々のトレーニングと向き合っていく。

「まだ戦える状況ではないかなと。去年と比べてしまうと、雰囲気の部分も全然足りないと感じています。今年は1人1人の個人能力がそこまでないので、全員で声を掛けたり、走ったりして戦うことで、良いところまで行けるんじゃないかなと思います」。FW諏訪晃大(2年)と2人でキャプテンを務める石原は、まだ立ち上がったばかりの新チームを冷静に客観視する。

 諏訪の存在が、石原にとって心強いことは間違いない。「キャプテンがもう1人いるのは心強いですし、やりやすいなと感じています。どちらかの出来があまり良くなくても、もう1人がチームを盛り上げられますし、そこからキャプテンだけではなくて、みんながそういうところを意識してやっていければいいかなと思います」。

 その想いは諏訪にとっても同様だ。「1人だと心細い部分もあるんですけど、2人いることによって目が届かないところも共有できますし、いろいろな観点から物事を見られて、意見が交換できるというのも良いところかなと思います。石原は人間性が面白いですよ(笑)」。今年の桐生一は2人のリーダーが、自分たちの信じる方向へと仲間を導いていくことになる。

 昨年のインターハイ県予選決勝では、忘れられない経験を味わった。永遠のライバル、前橋育英高(群馬)と対峙した一戦。0-0で迎えた延長前半に、最後の交代カードとしてピッチに送り込まれた石原は、その直後に体調不良を訴えてプレー続行が不可能に。10人になった桐生一は奮戦したものの、最後はPK戦の末に敗退。全国切符を逃してしまう。

「何もできなかったですし、チームに迷惑を掛けたなという感じです。頭が真っ白になりました。そのあとに3年生に頭を下げに行った時に、正直悔しいでしょうけど別に責めることもなく、『次があるぞ』みたいに言ってもらえたので、メチャメチャ救われましたね。今年は自分もそういう責任を負っているので、やっぱり自分が頑張って下の子たちにも元気を与えたいなと思います」。優しい先輩たちへの感謝は尽きない。

 その経験も踏まえた上で、群馬出身の石原にとっても、桐生一というチームにとっても、前橋育英が絶対に負けられない相手であることは、あえて言うまでもない。「結果から見れば育英の方が強いとみんな思うはずですけど、試合結果はいつも接戦で、内容も五分五分くらいでこっちも良いサッカーはしていたので、もうちょっとかなと思います。トーナメント以外のリーグ戦でライバルとできるということで、勝てばその後の大きなモチベーションになると思うので、プレミアでしっかり勝ってトーナメントの県予選に繋げていきたいと思います」。今シーズンも両者の好勝負が、何度も繰り広げられることだろう。

 今年から石原は右サイドバックにトライしている。「去年は右サイドハーフをやっていましたけど、右サイドバックも楽しいです。たまに上がってクロスを上げたり、本当にたまにシュートを打ったり(笑)、そういう形で攻撃に関われるのは楽しいですし、守備が得意なので、『カウンターでも何でも来い』みたいな感じでやっています」。参考にしているのは1つ年上の先輩だ。

「梅さん(梅崎拓弥)はビルドアップも上手くて、声もよく出していましたし、自分も去年は右サイドで組んでいて『メチャメチャやりやすいな』と思っていたので、そういう選手になれればサイドの選手も楽になるかなと思います」。プレミア昇格を勝ち獲った伝説のメンバーの1人を仰ぎ見つつ、“最高の日常”が待つ舞台へと歩みを進めていく。

 石原には自分の活躍で示したいこともある。「自分は小学生や中学生の頃から決して目立つような選手ではなかったので、将来プロになることができたら、『そういう選手でもここまで来れるんたぞ』と子供たちに示せる選手になりたいです」。

 目の前のことへ謙虚に取り組む姿勢と、大きな夢を抱く秘かな野心と。石原のサッカーキャリアにとって、今シーズンが掴むべきものを手繰り寄せるための大事な1年になることに、疑いの余地はない。

(取材・文 土屋雅史)

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