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キーワードは「自発的」。4年間で3度の予選決勝敗退を突き付けられた大成が見据える選手権での“4度目の正直”

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“4度目の正直”達成へ。大成高のキーワードは「自発的」

[8.21 高円宮杯東京1部リーグ第9節 大成高 2-3 FC東京U-18(B) 東京ガス武蔵野苑多目的G]

 決して思うような結果が付いてきていないことは、自分たちが一番よくわかっている。周囲から見られるハードルも確実に上がりつつある中で、目指すのは2年続けて決勝で負けている選手権予選の東京王者。そのために、苦しい夏のトレーニングもみんなで頑張ってきた。

「選手権でも負けたら、『結局今年のチームはダメだったね』と言われてしまうので、最終的には『大成強いね』と言われるように、選手権は今年こそしっかり東京の決勝でも勝って、全国に出ないといけないなと思います」(多和田鳳月)

 悲願とも言うべき冬の全国出場に向けて、“4度目の正直”を手繰り寄せるべく、大成高(東京)は最後のアクセルを踏み込む準備を、着々と整えつつある。

「もったいなかったですね」とチームを率いる豊島裕介監督は、終わったばかりの試合の感想をこう口にする。1か月ぶりの公式戦となったT1(東京都1部)リーグ。FC東京U-18(B)を相手にMF中村浩太(3年)のゴールで先制するも、逆転を許すと3失点目も献上。終盤に意地の1点は返したものの、2-3で敗戦。リーグ戦8試合を終えた時点で2勝1分け5敗と、現状は黒星が先行している。

 試合を決定付けた3失点目は、チームの絶対的なエースでもある中村のボールロストから。カウンターに出ようとしたタイミングで、逆にカウンターを食らい、それが失点まで繋がったが、指揮官は試合後に目にした“気になること”をチーム全体に共有したという。

「中村が『あの時、後ろから声が欲しかったよ』とボソッと言ったんですけど、それをチームに向かって言ってほしいと。『悪い。オレが後ろにいたから声を出してやれば良かった』とか、そういうやり取りになれば次に改善できると思うので、そこを今このチームにもうひとスパイス加えられる部分として、要求しています。今年は『自発的に』というのがテーマで、どうしても『豊島さんどうしますか?』みたいな感じがあって、自分たちでこうしたいという想いをこの1,2か月で出してくれたら、もっと良い結果も付いてくると思うので、そこを今呼びかけている所です。凄く良い子たちで、それが良い部分でもあるんですけどね」。

 当の中村は、その『自発的』という部分をこう感じている。「去年だったら(バーンズ・)アントンくんがいて、個性もメチャメチャ強かったので、全員が『自分が自分が』という感じだったんですけど、今年は少し声を出す選手も限られている気はします。自分もそうですし、他の選手も自分から声を出すとか、意見を言うことが大事だと思います」。

 チーム全体の副キャプテンで、Aチームの取りまとめを任されているDF多和田鳳月(3年)も、似たような感想を抱いているようだ。「少し受け身というか、『自分たちからこうしていこう』というところが少ないかなと。あとは試合に出ている選手でも、声を出している選手とそうではない選手に少し差が出ていて、試合に出る限りはそういうことをやっていかないと、『アイツ、試合に出てるのに』という声も周囲から出てくると思うので、選手権の予選が始まるまであと1か月ちょっとですけど、そういうところを直していきたいとは凄く感じています」。

チームをまとめるDF多和田鳳月(3年)


 いわゆる“良いヤツ”らが集まっているチームに、指揮官は小さくない期待を寄せている。「今年は『自発的に』ができたら、上まで行けると思うんですよ。そこはこの夏で口酸っぱく言ってきていて、あとは彼ら自身が何を考えて、どうやっていくかは考えてくれていると思うので、もうちょっとやんちゃしてもいいよと思うぐらい良い子たちですけど(笑)、ちょっとずつ良くはなっていて、あえて僕が関与しないでということもやらせてはいるので、何とかしっかり導いてあげられたらなとは思っています」。兆しはある。あとは、やり切れるかどうか。そこに今後の成長へのポイントは絞られつつあるようだ。

 関東大会予選は準々決勝で成立学園高に1-4で大敗。インターハイ予選では2次トーナメント初戦で、東海大高輪台高相手に延長戦の末に2-3で敗退。ここ数年で大成が残してきたものと比べれば、ここまでの結果に選手たちも納得が行っているはずはない。

「本当に情けないとしか思えないですし、もっと上で活躍して、注目されたかったですし、そういう部分に関しては本当に悔しかったです。でも、その大会はもう終わってしまったので、次の選手権に向けて自分もチームもレベルアップしていきたいと思います」と話すのは、昨年からチームのディフェンスリーダーを務めてきたDF渡辺誠史(3年)。視線を向けている選手権予選に、渡辺は並々ならぬ決意を燃やしている。

 一昨年度は1年生ながら決勝のピッチにスタメンで立ったものの、全国まであと一歩というところで1点差の惜敗。中心選手として臨んだ昨年度は、初戦の開始数秒で相手のチャージを受けて負傷退場。やはり決勝で敗れ去るチームをピッチの外から眺めることしかできなかった。

「1年の時にあの舞台に立ったことは嬉しかったですし、『あと2年で必ず全国に行かないとな』と思っていた中で、去年はケガでチームに迷惑をかけてしまったので、今年は絶対に予選で負けていられないですし、全国に出てもそれで満足しないで、もっと上を目指せるように頑張りたいです」。既にTリーグでも5得点をマークするなど、攻撃面でも得意の空中戦の威力を発揮。ゲームキャプテンも任されている都内屈指のセンターバックが放つ、攻守における存在感には大いに注目したい。

1年時に選手権予選決勝も経験しているDF渡辺誠史(3年)


 10番を背負う中村は、旧友の活躍に刺激を受けている。東京ヴェルディジュニアユース時代のチームメイト、帝京高のMF押川優希とFW伊藤聡太がインターハイで決勝まで進出。全国準優勝という成果を勝ち獲った姿を、この夏に見せ付けられた。

「去年は選手権で倒した相手なのに、今年はあの2人がインターハイの決勝まで行ったので、『凄いな』という想いもあるんですけど、悔しさの方がメチャメチャ大きかったですね。選手権でも対戦することがあると思いますし、アイツらに勝つためには練習するしかないと思うので、やるしかないですね」。

 昨年度の選手権予選決勝では実力を出し切れず、終盤にはGKの退場を受けて交代でピッチを去ることに。想いをピッチに残したまま、悔しい敗戦を突き付けられた。「2年連続で決勝で負けていて、結果だけ見たら惜しいかもしれないですけど、やっている自分の感覚としては去年も勝つのは難しかったなと思っていて、今年はまだまだ去年のチームのようにはなれていないので、雰囲気も上げていかないといけないと思います」。この日の先制点が、実は今季の公式戦ではまだ2点目。中村のゴールに関わる今以上の働きが、チームを前へと進めるための絶対条件であることは言うまでもない。

10番を託されたエース、MF中村浩太(3年)


 この4年間で3度の決勝敗退。すぐそこまで迫っている選手権での全国出場へ向けて、豊島監督の中には決めていることがある。

「過去の3回の時は一喜一憂していて、1つ1つのプレーに『よっしゃー!』みたいな感じでやっていたんですけど、もし今年も勝ち上がれるチャンスがあるならば、『楽しんで来い』とリラックスさせた状態で行かせてあげたいなと。今年の3年生はコロナ禍でモロに大打撃を受けた子たちなので、最後に笑って送り出してやりたいという想いが凄くあるんです。僕は勝負の神様はいると思っていて、去年の決勝で負けたのは関東一さんに神様が付いていたからだと考えているので、その神様にこっちに付いてもらえるように、僕はおとなしく見守りたいです(笑)。だからこそ、自発的に彼らがやってくれたらなと思っています」。

「一戦一戦、初戦でもそれが決勝だと思ってやっていくことが今のチームにとって一番大事かなと思います」と多和田が話したように、選手権はある意味ですべてが決勝戦。“4度目の正直”へ。キーワードは『自発的』。良いヤツの揃った2022年の大成がもう一皮剝けるためには、そして宿願を実現させるためには、それぞれの積極的なチームへの関わり方が、大きなカギを握っている。



(取材・文 土屋雅史)

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