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狙って獲った「最強のチャレンジャー」の戴冠。川崎F U-18はプレミア初昇格初優勝の偉業を達成!

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川崎フロンターレU-18はプレミア初昇格初優勝の偉業を達成!

[11.20 高円宮杯プレミアリーグEAST第20節 川崎F U-18 1-0 FC東京U-18 神奈川県立保土ヶ谷公園サッカー場]

「自分たちはチャレンジャー」。指揮官も選手たちも、常に口を揃えてその言葉を並べてきた。だが、それを額面通りに受け取っては、彼らの真意を取り違える。チャレンジャーではあるけれども、勝つつもりがないなんてことは、一度も言ったことはない。自分たちはできると、自分たちなら勝てると、そう強く信じて、この年代最高峰のリーグで成長し続けてきたのだ。

「2連敗して苦しい時期もありましたし、そこで自分も気持ちが落ち込んだりすることもあったんですけど、長橋監督からも『オレらはチャレンジャーなんだ』という話はしてもらったので、そういった監督の言葉もあって、自分たちはチャレンジャー精神を忘れずに、今年1年できたことが優勝に繋がったのかなと思います」(川崎フロンターレU-18・大関友翔)。

最強のチャレンジャーが、明確に狙って獲った初昇格初優勝。20日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第20節、首位の川崎フロンターレU-18(神奈川)と4位のFC東京U-18(東京)が激突した『多摩川クラシコ』は、アウェイのFC東京U-18がやや押し気味にゲームを進めたものの、後半39分にFW五木田季晋(3年)が執念の先制ゴールを奪った川崎F U-18がそのまま1-0で勝利。昇格初年度でのプレミアリーグEAST制覇を力強く達成した。

 勝てば優勝というシチュエーションでこの日の試合を迎えた川崎F U-18だったが、主力選手の欠場者が相次いでいた。U-19日本代表のスペイン遠征でDF高井幸大(3年)が、U-17日本代表のクロアチア遠征でGK濱崎知康(2年)とMF由井航太(2年)が不在。センターラインを欠いたメンバー構成を余儀なくされる。

 だが、「今年はレギュラーで出ている選手がいない時でも、代わりに入った選手が本当に活躍してくれていますし、人が代わってもほとんど差がないサッカーができるところも、今年の強みかなと思っています」と長橋康弘監督が口にした通り、メンバー表に並んだのはリーグ戦では見慣れた顔ぶれ。GKだけは今季初出場の菊池悠斗(2年)がゴールマウスに解き放たれる。

 前半3分はFC東京U-18。MF佐藤龍之介(1年)が蹴った左CKから、この日はCB起用となったMF永野修都(1年)が放ったボレーはクロスバーにヒットするも、1年生コンビであわやというシーンを創出。10分には川崎F U-18もMF大関友翔(3年)のパスから、FW岡崎寅太郎(2年)が巧みにターン。シュートは大きく外れるも、帰ってきた20番がゴールへの意欲を打ち出す。

 以降は目の前での優勝を阻止したいアウェイチームのエネルギーが上回る。13分には左サイドをFW今野光希(3年)とのワンツーで抜け出したMF田邊幸大(2年)がシュートを放つも、ここは菊池が丁寧にキャッチ。40分にも左サイドで粘ったDF松本愛己(3年)がクロスを上げ切り、永野とFW山口太陽(1年)の連続シュートは得点には至らないものの、アグレッシブさは十分。「球際や切り替えでは負けていたと思います」と口にしたのは川崎F U-18の守備を束ねるCB松長根悠仁(3年)。それでも最初の45分間はスコアレスで推移する。

 ハーフタイムを挟んでも、大きな流れは変わらない。後半7分はFC東京U-18。松本の右CKにFW田口輝一(3年)が合わせたヘディングはゴールネットを揺らすも、その前にオフェンスファウルを取られてノーゴール。15分にも佐藤、田邊と繋いだボールを、投入されたばかりのトップ昇格内定MF俵積田晃太(3年)が枠へ収めるも、菊池がファインセーブで凌ぐ。

 20分もFC東京U-18の決定機。DF宮崎奏琉(3年)を起点に、俵積田がグラウンダーで送ったクロスに、フリーで走り込んだ今野がフィニッシュ。完璧な流れだったが、軌道はクロスバーの上へ。「FC東京さんの時間がかなり多くて、私たちがやりたいサッカーをさせていただけなかったです」とは長橋監督。それでも、0-0の均衡は崩れない。

「苦しい展開がずっと続いていましたけど、こういう試合になることはみんなわかっていましたし、そこでも『絶対にチャンスは来る』ということは監督ともみんなとも話し合っていたので、想定通りと言えば想定通りだったのかなと思います」(松長根)。川崎F U-18は冷静だった。ここまで重ねたプレミアでの19試合。すべてが思うような試合だったわけではない。「勝ち切れるか、負けるか、というゲームを勝ち切ってきたんです」とは大関。プレミアの舞台で積み上げてきた勝者のメンタリティは、気付けばいつの間にか彼らに備わっていた。

 39分。大関が大きく左へ振り分け、走ったDF柴田翔太郎(1年)は後方へ。DF土屋櫂大(1年)が右足で蹴り入れたクロスへ、9番が突っ込んでくる。「『あそこに来るだろうな』と思って走り込んだら良いところに来て、あとは気持ちで押し込みました」。混戦の中でわずかに五木田が触ったボールは、ゆっくりとゴールネットへ転がり込む。「シーズンの始めに9番をもらった時から、『自分が点を獲ってチームを勝たせたい』という気持ちがあった」というストライカーの先制弾。水色の歓喜がゴール裏で爆発した。



 アディショナルタイムは3分。「凄く時間が長く感じたんですけど、もう気持ちで何とか勝ち切るということだけ考えてやっていました」(五木田)。相手の猛攻を凌ぎ切ると、タイムアップのホイッスルが雨の降りしきる保土ヶ谷の上空にこだまする。

「『ああ、良かったな』って。今日決められた安心感というか、泣いちゃったのであまり覚えていないですけど、とにかく嬉しかったです」(DF信澤孝亮)「もう嬉しかったですし、ホッとしました。試合前に優勝が懸かっていることはわかっていて、少し緊張したんですけど、そこからやっと解放された感じでした」(MF大瀧螢)「もうシーズンの苦しさから解き放たれた感じで、涙が出てしまいました。みんな泣いていましたよ」(松長根)。笑顔と涙の戴冠。川崎F U-18が1-0で逞しく競り勝ち、“優勝フロ桶”をサポーターの前で掲げる結果となった。

 それはシーズンが始まる前。まだ寒風の吹く2月の富士通スタジアム川崎だった。初めて挑むプレミアへの抱負を聞いた選手たちから、ことごとく同じ目標が発せられる。「トップチームが強くて、ユースは弱いというのではダメですし、勝つということにこだわらないといけないクラブにいると思っているので、プレミアで優勝して、フロンターレの歴史に新たなものを加えていきたい想いはあります」(五木田)「最終学年なので、プレミアも含めて優勝できる大会は全部優勝して、良い形で卒団したいなと思っています」(松長根)「ヤスさんもずっと口にしているんですけど、残留ではなくて優勝することをチームとして目標としています。そのための準備はできていると思うので、質の高い練習をしつつ、優勝を掲げてやっていきたいと思います」(大関)。

「ヤスさんもずっと口にしているんですけど」と大関は言った。その“ヤスさん”も「今年は選手たちと『チャレンジ』というスローガンを掲げておりますので、チャレンジする気持ちを忘れずにやっていきたいと思っております」といつも通りの丁寧な言葉に続けて、「選手たちとも『やるからには優勝を目指そう』ということで、初めての挑戦になりますけれども、優勝を目指してやっていきたいと思います」とハッキリ言っている。彼らは最初からプレミアの頂上を、虎視眈々と狙っていたのだ。

 長橋監督はとにかく謙虚だ。その物腰は常に柔らかく、決して大言壮語の類を口にするタイプではない。そんなこの人から話を伺う時、いつも決まって感じるのは日常を積み重ねることで得た、チームに対する絶対的な自信と、選手とスタッフに対する絶対的な信頼だ。

 1-1で引き分け、連勝が8で止まった7月の大宮アルディージャU18戦の試合後。先制しながら追加点が奪えず、ワンチャンスを沈められた展開について問われた長橋監督の言葉が強く記憶に残っている。「日頃からトレーニングを見ていて、選手たちは本当にこだわってやってくれています。なので、『こういうふうに決めるところを決めないと難しいゲームになるよ』とは、頑張っている姿を見ている私には言えないです」。いつになく強い口調に、選手へのリスペクトが色濃く滲んだ。

 実は率先して“はしゃぐ人”でもある。勝利した後の恒例になっているハイタッチは、長橋監督の音頭で始まることがほとんどだ。この日だって、少し遠慮がちではあったものの、みんなに促され、意外とノリノリで“優勝フロ桶”を掲げている。選手たちに話を聞くと、いつだって誰もが「ヤスさんが」「長橋監督が」「監督が」と、その指導について少し嬉しそうに言及していく。強い絆で結ばれた“ヤスさん”とみんなで、狙って獲ったプレミア初昇格初優勝。次は日本一を懸けて挑む国立決戦が、『最強のチャレンジャー』を待っている。



(取材・文 土屋雅史)
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