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佐久長聖とは何者か? 創部7年で北信越高校女子制覇、OGが世界進出する型破り

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女子の佐久長聖高は創部7年で北信越制覇を果たした

 サッカーが盛んとは言い難い地域に、世界を目指すなでしこたちがいる。人口約10万人の長野県佐久市を本拠とする、佐久長聖高女子サッカー部だ。創部7年目にして、全日本高校女子サッカー選手権長野県予選で4連覇。先月には長野県勢初となる北信越制覇も果たした。これまで輩出した37人の卒業生のうち、実に11人が海外へと羽ばたいている。“全国席巻”と“世界進出”の二兎を追う彼女たちは、一体何者なのだろうか。

『世界の佐久長聖へ』と教育方針を掲げる同校において、2017年に創部。指揮を任されたのは、神奈川県出身で現在33歳の大島駿監督だ。法政二高でプレーしたのち、流通経済大で“学生トレーナー”として指導を始め、元日本代表の山村和也(現川崎F)らと共闘する。その後はAC長野パルセイロU-18の初代コーチに就任。同クラブの女子チームを指揮していた本田美登里監督(現ウズベキスタン女子代表監督)から推薦を受け、新設された佐久長聖高女子サッカー部に加わった。

 県内外から海外志向を持った選手が集い、2年目にはアメリカ遠征を実施。コロナ禍で思うように改革が進まなかったものの、昨夏に2度目の海外へ。アトレティコ・マドリーが主催する『MAD CUP』に参加し、レアル・マドリーなど世界の名門クラブと手を合わせた。卒業生は主に、そのアメリカとスペインの2カ国へと渡っている。

 国内では主にトレーニングで研鑽を積む。インターハイと全日本高校女子サッカー選手権には出場するものの、リーグ戦と皇后杯には参加しない。年間の公式戦は多くとも10試合ほどである。部員数は23名と少数精鋭で、スタッフも4名と少ない。リーグ戦に参加したとしても、全選手に出場機会を与えられず、運営にも人員を割かれてしまう。それを踏まえ、「もっと他の強化の仕方はある」と大島監督は口にする。

 日程に縛られない分、トレーニングに十分な時間を割けるメリットがある。対外試合を組む相手も、女子の同年代だけでなく、男子の中学生まで幅広い。川渕碧空(3年=クマガヤSCライラック)は「男子と戦えるのはすごくいい。あのスピードに対応できれば、女子との試合で優位に立てる」と好感触を示す。

 リーグ戦に参加しないことによって、公式戦の緊張感を味わえないデメリットもある。とは言え、その影響を感じさせることはない。昨季は地元開催の全日本高校女子サッカー選手権北信越大会で準優勝。18年連続全国出場を遂げていた福井工大福井高(福井)を準決勝で下し、初の全国出場を決めた。

 そして迎えた今季、同大会で初優勝。準決勝で開志学園JSC高(新潟)、決勝で福井工大福井をいずれも1-0と僅差で破った。「自分たちは一人ではなくチーム。そこで上回って戦えた」。そうキャプテンの鈴木こなつ(2年=横浜ミラオーネFC)が言えば、自らのゴールで優勝に導いた西尾碧海(1年=F.C.CORMO LADIES AZALEA)も「出ている人も出ていない人も、全員が自分の役割を果たしていた。みんなで同じ方向を向いてプレーできた」と話す。築き上げたチーム力で、長野県勢初となる快挙を成し遂げた。

 ここで名を挙げた鈴木と西尾は、どちらも下級生だ。前者は2年生ながらキャプテンを任され、後者も1年生にして主力を張る。決勝のスタメンを見ても、1年生が2人、2年生が7人、3年生が2人。そもそも3年生は5人しかいない。その一人である道繁煌(FCバイエルンツネイシレディース)は「3年生はみんな自由。どちらかと言えば2年生が率先してやってくれる」と吐露する。先輩らしからぬ発言だが、それも学年の隔たりがないことを表している。

「1年生の選手たちは16歳で戦うわけだけど、海外ではそれが普通。学年で分けて考えるのは、ある種日本のいい文化なのかもしれないけど、その文化が世界で通用するかといえばそうではない」と指揮官。卒業後にスペイン行きを予定している道繁をはじめ、世界進出を目論む選手は少なくない。OGの中には、アメリカの大学でキャプテンを担う選手もいる。世界でリーダーを目指す彼女たちにとって、学年とは単なる数字でしかないのだ。

 その過程に全国での飛躍がある。2度目の出場となる全日本高校女子サッカー選手権に向けて、シーズン当初からベスト4という目標を立てている。初出場となった昨季は、初戦で鎮西学院高(長崎)を相手に0-0と粘るも、PK戦の末に敗退。内容では勝っていただけに、余計に悔しさが募った。

 まずは初戦を突破できるかが肝心要だ。それでも大島監督は「初戦に合わせることも必要だけど、もう一回サッカーを上手くならないといけない」と見つめ直す。キャプテンの鈴木も「自分たちの弱さを少しでもなくして、強さに変えたい。細部を突き詰めていきたい」と力説するように、トレーニングを重視する姿勢は変わらない。

 プロでも難解なメニューをこなす彼女たちは、問題解決能力に長けている。それをプレッシャーがのしかかる全国舞台でも発揮し、佐久長聖の名を轟かせられるか。その先に世界が待っている。

キャプテンの鈴木こなつ(2年=横浜ミラオーネFC)

大島駿監督

(取材・文 田中紘夢)

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