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2度のターニングポイントがもたらした諦めない自信。劇的勝利のプレミア王者が貫いたのは「2023年の青森山田」

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青森山田高は3度目のプレミア制覇を達成!

[12.10 プレミアリーグファイナル 青森山田高 2-1 広島ユース 埼玉]

「あの負けというのは我々にとって本当にターニングポイントになったと思います」。

 青森山田高(青森)を率いる正木昌宣監督が口にした『あの負け』というのは、今年のインターハイ3回戦のこと。結果的に日本一まで駆け上がる明秀日立高(茨城)に敗れた一戦だ。

 0-0で迎えた後半終了間際の35+3分(35分ハーフ)に先制ゴールを許すと、その1点はそのまま決勝点に。シーズン前から明確に掲げてきた“全国三冠”の野望は、一冠目を狙った夏の旭川で早くも砕け散った。

 大会前に「三冠のうちの最初のタイトルで、そこを落としたら目標の見つけ方も難しくなると思うので、このインターハイの一冠を大事にしていきたいと思います」と語っていたDF小泉佳絃(3年)は試合後に号泣。前半戦のプレミアリーグEASTでもわずか1敗で首位を快走していただけに、これがチームを根幹から揺らがしかねない敗退だったことは間違いない。ただ、すぐに彼らは新たな目標を定めて、前を向く。

「インターハイが終わった時に、自分たちの中では“二冠”という目標を作って、まずはプレミアEASTで優勝して、ファイナルで勝って、一冠目を獲ろうと決めました」と話すのはキャプテンのDF山本虎(3年)。「あの負けというのは選手たちにかなりのダメージもありましたけれども、『負けから強くなろう』ということで、この夏は体力的にもキツい中で本当に頑張っていました」と指揮官も認めたように、苦しい夏のトレーニングをみんなで乗り越え、改めて2つのタイトル獲得へと歩み出す。

 選手たちが揃ってプレミアリーグのターニングポイントに挙げるのが、第15節の流通経済大柏高戦。インターハイ後のリーグ戦は2連勝を飾ったものの、柏レイソルをホームに迎えた第14節は5失点を喫して敗戦。シーズン2敗目を突き付けられた直後のゲームだ。

 2点をリードされた青森山田は、後半29分に前線へ上がっていた小泉のヘディングで1点を返すと、35分にはDF小沼蒼珠(2年)のロングスローが相手GKのオウンゴールを誘い、2-2の同点に。さらに、アディショナルタイムに入った45+6分には、MF芝田玲(3年)のFKに小沼が合わせたボールがゴールネットを揺らす。ファイナルスコアは3-2。連敗の危機を覆す鮮やかな逆転勝利で、アウェイから勝ち点3を持ち帰る。

 勝てばプレミアEAST優勝が決まる第21節の昌平高戦も、後半終盤の38分と42分に連続失点を許し、2点のビハインドを背負う展開に。だが、このゲームも45分にFW米谷壮史(3年)のクロスから、途中出場のMF後藤礼智(3年)のゴールで1点差に迫ると、2分後にはDF菅澤凱(3年)の優しいラストパスを小沼がゴールへ蹴り込み、結果は2-2のドロー。正木監督は「今日も山田っぽかったのはラスト3分ぐらいでしたね」と話し、選手たちは一様に悔しげな表情を浮かべていたが、粘り強くもぎ取った勝ち点1には青森山田らしさが凝縮されていた。


 サンフレッチェ広島ユース(広島)と対峙したプレミアリーグファイナルも、後半4分に先制点を奪われ、そこからは圧力を掛け続けるものの、1点が遠い。ようやく追い付いたのは試合も終わり掛けていた45分。またも小沼のロングスローが相手GKのオウンゴールに繋がり、スコアを振り出しに引き戻すと、45+4分には最前線に配置転換されていた小泉のスルーパスから、今季のプレミアでは1ゴールと苦しんできたFW津島巧(3年)が劇的な逆転ゴールを叩き出す。

 試合後。山本が紡いだ言葉が印象深い。「正直、これで負けたら普通に“負け試合”だったので、最後まで諦めないで勝てたことは良かったです。たぶん流経戦の前までだったら、今日も絶対に諦めていたと思うんですけど、流経戦のあの逆転があってからは、昌平戦の経験もありますし、『最後まで諦めなかったら絶対に勝てる』と信じていたので、やっぱり流経戦の経験が大きかったかなと思います」。

 “2つの試合”は逆転への流れも、実に似通っている。小沼のロングスローが生きたのも、試合中にセンターバックからフォワードへとスライドした小泉が得点に絡んだのも、この日のファイナルと“流経戦”はまったく一緒。「このような戦い方は1年間を通して何回も実践してきました」と話した正木監督は、選手たちの努力と奮闘をこういう言葉で称えた。

「かなり苦しいゲームでしたけれども、我慢していればいいことがあるということで、失点した後も決して諦めることなく頑張ってくれた選手たちの逞しさと諦めない気持ちには私自身も本当に感謝していますし、その結果が優勝ということで、本当に良かったと思います」。

 悔しい経験を糧に、自分たちにできることを突き詰め、諦めかけてしまうような苦境にもブレることなく、最後の1秒まで『2023年の青森山田』を貫いた先には、みんなで求め続けた日本一の景色が広がっていた。



(取材・文 土屋雅史)
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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