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[MOM4559]青森山田FW津島巧(3年)_苦悩のストライカー、煌めく!今季プレミア1ゴールの9番が後半ATに日本一を手繰り寄せる劇的決勝弾!

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青森山田高FW津島巧(3年=青森市立南中出身)が日本一を決めるゴールを奪う!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.10 プレミアリーグファイナル 青森山田高 2-1 広島ユース 埼玉]

 望んだようなシーズンを過ごしてきたわけではない。結果の出ない日々に、サッカーが嫌になりかけたこともある。でも、すべてはこの瞬間に、このゴールを決めるために、あらゆる努力を重ねてきたのだ。この『1本中の1本』を外すという選択肢なんて、あるはずがない。

「自分のところにボールがこぼれてきて、『このトラップが決まれば絶対に入る』と思っていて、良いタッチができたので、あとは流し込むだけでした」。

 プレミアリーグでは18試合に出場してわずかに1ゴール。苦しみ続けてきた青森山田高(青森)の9番を背負ったストライカー。FW津島巧(3年=青森市立南中出身)へ同点で迎えたファイナルの後半アディショナルタイムに、絶好の決定機が巡ってくる――


 昨シーズンは悔しい終わり方だった。2年生ながらプレミアリーグでスタメン起用される試合もあった中で、1年の締めくくりとなる高校選手権では30人の登録メンバーにこそ入ったものの、準々決勝までの3試合はいずれもベンチ外。チームが敗退していく姿を、ピッチの外から眺めることしかできなかった。

「選手権に出たいという気持ちが一番強かったので、そこに出れなかった分、やっぱり自分の代になったらちゃんと全試合に絡んで、あの悔しい想いをぶつけたいなと思っています」。目指すのは1つ上の先輩の小湊絆(現・法政大)のように、「ゴールでチームを勝たせられるような、苦しい時に何でもできるような選手」。新チームで挑んだ1月の東北高校新人選手権ではゴールを量産し、優勝にもきっちり貢献。今年こそは、自分が主役に。強い気持ちを携えて、勝負のシーズンをスタートさせる。

 だが、プレミアリーグが始まると、少しケガを抱えていたこともあって、開幕3試合はいずれもベンチスタートとなり、その間にチームは10得点無失点で3連勝を達成。第3節では津島も途中出場でプレミア初ゴールを記録したものの、ようやくスタメンに指名された第4節のFC東京U-18戦では無得点に終わり、チームも負けると次節からは再びベンチに逆戻り。以降も大半のゲームは途中出場が主な役割になっていく。

「フォワードと言ったら9番なので、試合をベンチから見ていると、『自分は何をやっているんだろう?』と思う時もあるんですけど、正木さんもいつも言っているように、みんなの中でも常に『チーム』という言葉が飛び交っているので、自分のことを考えるのではなくて、常に『チームのために自分が何ができるか』ということを考えてきました」。ストライカーとしての葛藤を抑えて、チームのためにやるべきことをやり続ける。

 受難は続く。10月には左肩の鎖骨を骨折。「本当に痛くて、寝る時も起きている時もずっと痛かったです。1か月くらい経って、ちょっとずつ体を動かせるようになってからは復帰したくて、本当はいけないのに隠れてボールも蹴っていたんですけど、それでも動くと痛かったです」。ようやくリーグ戦にはラスト2節で復帰したものの、結局2点目のゴールは奪えないまま、レギュラーシーズンが終了した。


 サンフレッチェ広島ユース(広島)と対峙したプレミアリーグファイナル。青森山田は後半5分に失点。1点を追い掛ける展開を強いられた中で、正木昌宣監督は13分にMF福島健太(3年)に代えて、津島を埼玉スタジアム2002のピッチへ解き放つ。

 いつもより早めの起用には、理由があった。「昨日のトレーニングでのパフォーマンスが非常に良かったこともあって、『何か仕事をしてくれるんじゃないか』という期待を感じていました」(正木監督)。本人も「自分たちの練習はクロスとかカウンターが多いんですけど、そういう中でも昨日はほとんどゴールを決めていたので、調子は良かったです」と手応えを感じていた。

「正木さんには『前から守備したり、前で基点になることで、最終的には絶対オマエのところにボールが来るぞ』と言われました。いつもは負けている状態や引き分けている状態で、自分が出ることが多かったですけど、今回も相手に点を獲られて、追う展開の中で、自分がちょっと早い段階で交代することになったので、『オレがやるしかないな』と」。指揮官の期待を背中に、覚悟を決めてゲームに入る。

 後半終了間際の45分。青森山田は執念で追い付くと、さらなる見せ場は土壇場の土壇場でやってくる。45+4分。相手のフィードをDF小沼蒼珠(2年)がヘディングで跳ね返し、FW米谷壮史(3年)が懸命に前へ。最前線に上がってきていたDF小泉佳絃(3年)がスルーパスを繰り出すと、9番が相手DFラインの裏へ猛然と走り出す。

「もうラストプレーでしたし、『いいトラップをすれば絶対に決まる』と思っていたので、トラップに気持ちを込めたら上手く決まって、キーパーが出てきたのは見えていたので、『かわそうかな』とは思ったんですけど、敵も来ていたので、流し込みました」。完璧なトラップから抜群のコースを取った津島が右足で流し込んだボールは、ゆっくりとゴールネットへ吸い込まれていく。

 そのままアップエリアで待つチームメイトの元へ駆け寄り、爆発する歓喜の輪に飛び込んだかと思うと、すぐさま津島は踵を返して、バックスタンドの方へ走り出す。「ベンチのみんなが駆け寄ってくれたので、まずは喜びを分かち合って、あとは昨日の夜からバスで遠い中を来てくれたスタンドの仲間たちがいたので、そこに行って喜びました」。ゴールシーン同様に冷静な判断で、緑の仲間たちと最高の瞬間を共有した。


 プレミアリーグというコンペティションで考えれば、実に4月以来となる今季2点目。苦しんで、苦しんで、それでも諦めなかった9番のストライカーが、この大舞台の、この土壇場で、日本一を手繰り寄せるゴールを決めたのは、きっと偶然じゃない。

 3月。まだこれからやってくるシーズンに向けて、大きな希望に包まれていた津島が話していた言葉を思い出す。「やっぱり僕はフォワードなので、チームが苦しい時に自分が得点を獲って、チームを勝たせたいと思っていますし、プレミアの得点王も狙っています」。

 それから9か月後。大仕事をやり切った津島は、笑顔でこう言葉を紡いだ。「プレミアでも1年間を通して、自分がフォワードとしてチームに迷惑を掛けてきたので、やっと大きい舞台で決勝ゴールを決められたというのは、凄く嬉しかったです」。

 プレミアの得点王にはなれなかったかもしれない。でも、語ったもう1つの決意は、この頂上決戦のステージで、自らが成就させた。チームが苦しい時に得点を獲って、チームを勝たせた9番のストライカー。悩みながら、苦しみながら、それでも前を向き続けてきた津島がこのファイナルで決めたゴールは、やっぱり絶対に偶然じゃない。




(取材・文 土屋雅史)
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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