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与えられた役割はすべてが成長への大きな糧に。トップチームのキャンプも経験した名古屋U-18DF森壮一朗が手にしつつある目標までの距離感

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さらなる成長を期す名古屋グランパスU-18DF森壮一朗(1年=JFAアカデミー福島U-15出身)

 どんな役割でも、どんなポジションでも、与えられたものは何でもこなしてやる。できることは1つでも多い方が絶対にいい。だからこそ、今トライできることに全力を傾けることで、思い描いた未来を手繰り寄せてみせる。

「もう2年生でもトップチームも視野に入れておかないといけないと考えています。世界を見たらそういう選手はザラにいますし、自分もできるだけ早くトップに行きたいという想いはあるので、1回1回の練習参加でも覚悟を持ってやりたいですし、与えられた状況で最高のパフォーマンスを出していきたいなと思います」。

 年代別代表もトップチームの練習参加も経験している名古屋グランパスU-18(愛知)期待の注目株。DF森壮一朗(1年=JFAアカデミー福島U-15出身)は到達すべき目標までの距離感を、ハッキリと把握し始めている。


 そのポジションは意外なものだった。前橋育英高(群馬)と対戦した『アスレカップ群馬2024』2日目の一戦。名古屋を率いる三木隆司新監督は昨シーズンまで4バックの右サイドバックが主戦場だった森を、3バックの左センターバックで起用する。

「アイツはトップのキャンプに行って、左サイドをやっていたんです。見られる視野が1つだけだと、上に行ってもどこに行っても通用しないでしょうし、『左側の絵のサッカー』もできないといけないだろうなとも思うので」とその理由を明かす指揮官の意図は、本人も十分に理解しているようだ。

「トップのキャンプでやったポジションをそのままやらせてくださっているのかなと。これまでは左足もあまり使わずにプレーしてきたので(笑)、慣れない部分もあって、最初に言われた時は『おっ』と思ったんですけど、そこで自分も左足を意識的に使うようにして、量も重ねていったので、今はやりにくさは感じないですし、左だからこそ右足で運んで中央を覗ける強みもあるので、そこはポジティブに捉えています」。

 トップチームのキャンプには、1次キャンプの終盤から参加すると、2次キャンプはフル帯同。今まで練習参加もなかったこともあって、最初こそ緊張は否めなかったものの、少しずつ慣れていくうちに自分の持ち味を出せる回数も増えていく。「守備範囲の広さやスピードは自分の武器なので、1対1の部分での対応だったり、足を生かしたカバーリングで広いエリアを守るというのはトップでも通用すると思いました」。

 ただ、もちろん大きな差を感じる部分もあった。とりわけ印象に残っているのは猛者が揃うフォワード陣のハイレベルな“駆け引き”だ。「プロのフォワードの人はユースと全然違う関係性ができているので、『そこ、突く?』ということもありましたね。永井(謙佑)選手や(キャスパー・)ユンカー選手は足も速いですし、自分がちょっと前に出たら背後を取られたこともあって、『本当に上手いな』と感じました」。一瞬の隙も見逃さないプロの基準は、しっかりと自分の中に残っている。

「本当に良い経験をしたなとは思います。ただ、それを生かさないと行った意味がないですし、そこでどれだけ生かせるかはこれからの意識次第で変わってくると思います」。この日の試合でトライしていたのは、苦手だったという縦方向へのワンタッチパス。「課題を自分のストロングにしようと意識を変えていますね」と積極的なチャレンジを繰り返している。



 1年生だった昨シーズンは5月にスタメンでプレミアリーグデビューを果たすと、最終的にはリーグ戦12試合に出場。右サイドバックを中心にアグレッシブなプレーを披露しつつ、ゴールが入った時には全速力でスコアラーへと駆け寄る姿も。「やっぱりゴールは嬉しいので、そこでは喜びを表現したいですし、『点が入ったら真っ先にそこに喜びに行くな』とはよく言われますね」と自ら笑うなど、ピッチ上で放つエネルギッシュなパワーも魅力的だ。

 頼れる先輩たちの背中から学んだものも小さくない。「去年の2年生や3年生にはキャプテンシーを発揮している選手が多くいて、その中でも大田湊真選手みたいな存在を目指さなくてはいけないなと感じています。もう自分が中心選手だと思ってやっていれば、学年なんて関係ないですし、自分が後ろの絶対的存在になるという強い覚悟と高い意識を持って今年は臨んでいますね」。

 前橋育英戦でもチームメイトへ頻繁に指示を飛ばしながら、守備時のセットプレーでは周囲を鼓舞する声も。その姿には本人も口にした『強い覚悟』と『高い意識』が滲む。2年生だからとか、『左側の絵のサッカー』を身に着けている最中だとか、キャプテンじゃないからとか、そんなことは関係ない。自分にできることを全力でこなすことがチームのためになると信じて、目の前のやるべきプレーへ真摯に向き合うだけだ。

 もともと出身は石川県。中学時代はJFAアカデミー福島U-15でプレーしており、オファーを受けてグランパスへとやってきた森だが、実は不思議な縁を感じているという。「自分は小学校の頃に1回愛知に来て、グランパスと戦っているんですよ。実は一番最初に戦ったJクラブがグランパスだったので、そこも何かの縁かなって」。

 ゆえにこの愛着のあるチームで、確たる成果を成し遂げたい。「ユースではプレミア優勝は一番の大前提に置いておいて、その中で自分が出て優勝というのが一番良い形だと思うので、まずは全試合にスタメンで出て、しっかりチームの勝利に貢献したいという気持ちはあります」。

 まだクラブに加わって1年も経たない16歳が、トップチームのキャンプへ招集されていること自体に、寄せられている大きな期待が窺える。その立つ位置が右でも、左でも、サイドバックでも、センターバックでも、与えられたエリアが自分の輝くべき場所。多くの刺激を取り込んでいる森壮一朗が、さらに遂げていくであろう2024年のバージョンアップから、目が離せない。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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