beacon

名門復活を目指して”新生・赤い彗星”が始動! “伝統と革新”。東福岡初のOB監督が目指すのは日本一

このエントリーをはてなブックマークに追加

 3度目の選手権制覇から9年。名門復活を目指し、東福岡高が平岡道浩新監督の下でリスタートを切っている。

 昨年12月に森重潤也前監督からバトンを受け取り、指揮官となった平岡監督は同校の卒業生。現役時代は快速ウインガーとして元日本代表のFW山下芳輝氏(元福岡ほか)やFW小島宏美氏(元G大阪ほか)らと攻撃の核を担い、1995年の選手権で3位となり、自身も大会優秀選手に選出された経歴を持つ。Jクラブからも興味を示されるほどの逸材だったが、卒業後は鹿屋体育大に進学。教員としてサッカーの指導に携わりたい一心で努力を重ね、2000年4月に新人の保健体育教諭として母校に戻ってきた。

 最初の3年間は高等部のコーチを担いつつ、創設されたばかりの東福岡自彊館中学校でも指導。当時は森重前監督が高等部のコーチを務めながら中学の監督も担っていたため、不在時は監督代行として指揮を執る試合も珍しくなかった。性格は熱血感で情熱家。選手と一緒にボールを蹴り、常に本気のプレーで最高のお手本となった。

 以降は高校の指導者としてU-16チームやBチームなどを担当。2013年にはプリンスリーグ九州2部に参戦していたセカンドチームの指揮を任され、当時2年生だったMF増山朝陽(現・長崎)らを鍛え上げた。9勝9敗の7位ながら6位以上が残留できるレギュレーションだったため、チームは県リーグ1部に降格。「いろんなことを学ばせてもらった1年。残留が掛かっていた最終節でFC KAGOSHIMAU-18さんに0-2で負けてしまったり、勝負の厳しさを教わった」というシーズンだったが、翌年は増山らがトップチームのレギュラーとして活躍。次世代の東福岡を担う選手たちの礎を作り、夏のインターハイ制覇を陰から支えた。

 またトップチームが夏の日本一を果たした年は、国体でU-16福岡県選抜の監督を担当。才気溢れる選手たちをまとめ、予選を突破して本大会に出場に導いた。当時1年生だったMF高江麗央(現・山形)、MF藤川虎太朗(現・磐田)、FW佐藤凌我、DF小田逸稀(現・ともに福岡)といった東福岡の面々に加え、福岡U-18に所属していたDF冨安健洋(現・アーセナル)も指導。「賢い選手で、こちらが言う前に理解をして率先してやってくれていた」と日本を代表するCBの凄さを目の当たりにし、世界に飛び出していく選手の基準を知る機会にもなった。

 近年はトップチームのヘッドコーチとして奮戦。森重前監督から指揮を託され、自身がテクニカルエリアで指示を出す形でチームに関わってきた。

 そうした様々な経験を経て、満を持して指揮官となった平岡新監督。名門復活に向け、想いは誰よりも強い。

「OB、学校、関わっていただいている方のサポートを受けながらしっかり戦っていきたい一方で、重圧はかなり感じています。全ての責任は自分。覚悟は持たないといけない」

 いかにして平岡新監督は東福岡を鍛え上げ、在るべき姿を取り戻していくのか。平岡新監督は言う。

「東福岡の伝統は勝つこと。そして、(元監督で現コミュニケーターの)志波(芳則)先生から受け継いだモノはシンプルイズザベストの考え方。それがサッカーの基本にあるので、継承していくつもり」

 ベースは恩師から教わったこと。その一方で独自のカラーも出していく考えを持っている。
 
「結果を出すために取り組んでいく中で、アクセントを入れていきたい。ドリブラーの育成なども含めて。そこの面白さはあるので、ちょっと取り入れながら鍛えていきたい」

 そのアクセントのひとつが、東福岡伝統のシステムに固執せずに戦おうとしている点だ。恩師である志波コミュニケーターや森重前監督は伝統の“4-1-4-1”をベースに戦ってきた。近年は守備を重視し、4-2-3-1のシステムで戦うケースもあったが、このサイドアタックを生かすための布陣は“赤い彗星”の代名詞とも呼べるモノだった。しかし、平岡新監督はテコ入れを決断し、最適解を探しながら様々なシステムを試している。

「戦術は選手の個性次第。常に伝統通りにできればいいけど、そうはいかないときも多いので」

 就任してからは様々な布陣にトライ。4-1-4-1や4-2-3-1だけではなく、4-4-2や3バックなどにもチャレンジするなど、選手の特長を見極めながら答えを探してきた。その狙いについてこう話す。

「相手のフォーメーションを見た上でポジションのギャップができるところに人を配置したい。サイドで数的不利な状況が続いているのにそこで勝負し続けるのは違う。であれば、中の人数を増やしてそこで戦った方が優位に進められる。大学に行けば、いろんなフォーメーションに触れると思うので、大学に行ってから選手も楽になるはず。そっちの方がサッカーをやっていてもっと面白いと思えるはず」

 また、積年の課題とされてきた守備面の構築にも着手しており、プレスの掛け方やブロックの作り方は徹底的に落とし込んできたという。

「守備のところは徹底してやってきた。組織的な守備や攻守の切り替えや対応力。あとは粘り強さと球際。そういう部分はかなりやり込んでいる。粘り強さを持った選手を育成できれば、彼らはきっと大学やプロに行っても粘り強いプレーや強靭なメンタルで生き残っていけるようになるはず」

 目先のことだけではなく、選手のキャリアを考えた上でディフェンスの強化に力を入れているのは新たな取り組みのひとつ。しかし、そうした選手の育成には人間力の向上も欠かせない。平岡新監督は礼節を今まで以上に重んじ、挨拶の徹底はもちろん、学校でもサッカー部の自覚を持って過ごすことを選手に伝えている。4月以降は道徳面でも新たな取り組みを導入する考えを持っており、改革を進めていくつもりだという。

 メンタル面や人間力の向上を求めていきつつ、トレーニングのアップデートにも余念がない。オフシーズンには挨拶回りに全国の大学を回った際にヒントを得て、新たな練習サイクルを導入。練習からGPSを取り入れた上で、火曜と水曜に1度強度を上げる。そして木曜日で落とし、金曜と土曜にもう1回負荷を掛けて日曜に公式戦に臨む。週に2回高強度のトレーニングをすることで、選手の成長スピードを加速させていく取り組みにチャレンジしている。

 新たな体制でスタートを切ったチームだが、1月の県新人戦は準決勝で福岡大若葉高に0-0からPK負け。「フィニッシュの精度が低調で、チーム作りをメインに置き過ぎてしまった。守備のところも攻撃のコンビネーションのところも上げられなかったので、課題が多く出た。特にボールを握れたけど、前を目指す楔のパスや、そこからの関わり。そういうところが準決勝の敗因だった」と指揮官が振り返ったチームは2019年度以来の九州新人戦出場を逃し、3月中旬のサニックス杯国際ユースサッカー大会の出場権を逃す結果となった。

 迎えた3月29日から31日に掛けて行われた船橋招待U-18大会も苦戦し、1勝2分3敗で16チーム中13位。今季初めて全国のトップチームと対戦する機会だったが、3ヶ月間で積み上げたモノはなかなか発揮できなかった。「難しかった。声がなく、発信力が足りていない。攻撃ではクロスに対して中に入る人数が少なかった」と平岡新監督が振り返った通り、試合全体を通じて戦えた部分もあったが、攻守において細かい課題を残した。だが、このタイミングで自分たちの現在地を知れたのは収穫だろう。

 4月7日に開幕するU-18高円宮杯プレミアリーグWESTの初戦・静岡学園高戦までに修正を図れるか。

 インテンシティーなどは去年と比べれば見劣りするが、個性的な揃っているのは今年の強みだ。高さで勝負ができる185cmの大型CB大坪聖央(新3年)や190cmのGK後藤洸太(新3年)は素材感があり、新10番の児玉愁都(新3年)は遊び心を持ったドリブラー。そうした選手を鍛え上げ、東福岡は覇権奪回を目指す。

「サッカー面も人間面でもまずは基礎作り。どんなことを起きても崩れないような基盤を構築しないといけない。そこが出来上がったら、あとは積み上げていく。合わせて、勝利を掴み続ける伝統を軽症して、しっかり全国で羽ばたいていきたい」

 近年は飯塚高の台頭で苦戦を強いられ、直近2年は選手権出場を逃している。そうした悔しさをバネに新指揮官は“赤い彗星”を復活させるべく、情熱を持って新たな東福岡を作り上げていく。

(取材・文 松尾祐希)
松尾祐希
Text by 松尾祐希

TOP