beacon

新ポジションで再飛躍を狙う苔口&黒部の得点で、富山が初の開幕戦勝利

このエントリーをはてなブックマークに追加

[3.6 J2第1節 横浜FC1-2富山 ニッパ球]

 カターレ富山が2009年のJ2昇格後、初の開幕戦白星をつかんだ。昨季は18位と低迷した中、同6位で今季はJ1昇格候補の一つと見られている横浜FCに2-1逆転勝ち。立役者はFW苔口卓也とFW黒部光昭の元C大阪&日の丸コンビだ。

「ヨウヘイ君が頑張ってくれて、自分のところにこぼれてくると思っていた。そのままシュートに行った。打ったあと、ポストに当たるかなと思ったんで、それを自分で決めようと思った。結果が大事だと思っていたんで、良かったです」

 まずは苔口が魅せた。0-1の前半32分、右サイドでMF大西容平がプレスをかけて奪ったボールに反応。持ち味の快足を活かしてゴール前に抜け出し、右足でGK関憲太郎の上を抜いてシュートを放った。これは左ポストに弾かれたが、再び自ら押し込んで同点とした。

 そして再び苔口が仕事をした。1-1の後半24分、PA内左への縦パスに快足を活かして突進すると、GK関に倒されてPKをゲット。同25分の黒部の逆転PK弾を導いた。苔口のスピードが生きた形だが、きっちりと決めた黒部もさすがだった。1-1の同点という状況やこの日は33歳の誕生日で自ら花を添えたいという思いがあり、何としても決めたい気持ちが強かった中、“カズの圧力”を跳ね除けて逆転ゴールを決めた。

 実は蹴る前、サッカー界の大先輩であり、京都時代のチームメイトでもあった横浜FCのFW三浦知良がPA内に入って、黒部のほうを見つめてきた。言葉をかけられたわけではないが、「(無言の)プレッシャーを感じましたね。カズさを見ないようにしていました」と黒部が明かしたとおり重圧を感じたが、見事に左に決めた。これにはカズも「黒部の集中をそごうとした? そうですね。でも、集中して、良いボールを蹴っていましたね」と称えるしかなかった。

 “新境地”で再起をかける2人が結果を残した。元U-22代表で、2005年のワールドユース出場経験もある苔口。代表での同世代はオランダに渡ったカレン・ロバートや今や日本代表の中心選手となった本田圭佑らだ。当時は快足が自慢のサイドアタッカーだったが、この試合で3-3-3-1の1トップで先発したように、いわゆるセンターフォワードへの変貌を遂げた。裏への飛び出しだけでなく、ポストプレーなども鍛えている。

 昨季途中から就任した安間貴義監督の指導の下、サイドからの“転職”に成功した。指揮官は「最初に会った時には真ん中でぽつんとしていて、足が速いか遅いかわからない状態だった。今の彼は本当に真摯に練習をしていて、何度も何度も1枚で相手の4枚を相手にしてくれている。彼の意識が変わりました」と目を細める。苔口の努力と安間監督の「彼を一つのサイドに限定するのはもったいないと思った。半分のエリアにしないで、360度動けるようにしたほうが良さが出ると思った」という発想がかみ合い、新しい役割を習得。それがこの日のゴールにつながった。

 元日本代表FWの黒部も新ポジションで完全復活にかけている。もともとは強さ&高さが売りのセンタフォワードだったが、安間監督の就任後にトップ下に転向。ポストプレーや体の強さを直接のゴールではなく、中盤で周りの選手を活かすことに使っている。黒部は「やりがいがありますね。足下でボールを受けて周りを使ったり、ヘディングで競り勝って落としたり。僕が相手のボランチのところで競り勝てば、つながってチャンスになる。前は前線でヘディングで競り勝っても、GKにこぼれたりしてた。とにかく今はタメを作ったり、周りの選手をうまく使って上げられるようにしたい」とトップ下に生き甲斐を見出している。

 トップ下は、強さだけでなく、運動量やパスワークなど上手さが必要のうえ、頭を使ったチャンスメイクなどセンタフォワードの役割とは大きく異なるが、安間監督は「黒部は動けないとか言われていたけど、きちんと要求して納得すれば動く。要求して、ちゃんと納得すれば人間は動くんです」と、元日本代表ストライカーの才能の新しい活かし方を説明した。

 いわば、苔口と黒部の違った才能を安間監督が見出し、引き出した形。信頼があるからこそ、2人も新ポジションの習得に気合十分だ。「これまでのサッカー人生で、2トップか1トップ、3トップの真ん中しかやってないけど、サッカーの幅が広がってきていると感じる。信用してもらって使ってもらってるんで、期待に応えたいです」と黒部が言えば、苔口も「監督が今年は13位以上が目標と言っているんで、それ以上は行きたい」と指揮官の期待に応えることを誓う。2人が中心となって“恩人”安間監督を男にする意気込みだが、最高のスタートを切った。

[写真]PKを決めた黒部にチームメイトが駆け寄る

(取材・文 近藤安弘)

TOP