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今季初の3失点を喫した鳥栖・水沼「残念な試合」

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[5.20 J1第12節 F東京3-2鳥栖 味スタ]

 敗れはしたが、サガン鳥栖の戦いぶりは見事だった。敵将のランコ・ポポヴィッチ監督も「相手は高いディシプリンと責任感を持ったチームで、守備のクオリティも高い」と称える。それだけに後半14分にFW豊田陽平のゴールで、2-0とリードしてからの試合運びが悔やまれる。

「残念な試合でした。思いどおりの形で、良い時間帯にゴールが奪えました。自分たちのペースで試合が運べていて、途中までは良かったですね」と先制点を挙げ、2点目をアシストしたMF水沼宏太は唇を噛む。

 中盤でバランスを取ったボランチの岡本知剛も同調する。「2点目を奪うまでは思いどおりの展開でした。きっちり守備をして、カウンターからゴールを狙うウチの形がハマりました。少ないチャンスをモノにしてくれる攻撃陣は頼もしく感じます。点を取るだけでなく、守備もしっかりやってくれますしね」と話し、リードを守れなかったことを悔やんだ。

 実際に、前半の15分間は、完全に鳥栖が主導権を握っていた。前線からのプレスがはまり、高い位置でボールを奪ってからは、最短距離でF東京ゴールに迫った。

「中央へのパスコースに相手が寄せてきているのが分かったので、クロスを合わせるのではなく、ゴールを狙いました」と前半42分の先制点を振り返る水沼は、さらに2点目のアシストの場面についても「相手がいたので抜ききらずに、合わせることを考えました」と振り返る。ボールを奪ってから、どのようにゴールに結びつけるか。攻撃に関わる人数は少なくとも、同じ絵を共有できているからこそ、最少人数でのカウンターを得点に結びつけることができていた。

 今季、11試合を戦って失点はリーグ最少の6。攻撃陣が2点を奪えば、セーフティーリードのはずだった。しかし、後半75分からのわずか13分の間で、FW渡邉千真に今季ここまでの総失点の半分にあたる、3ゴールを許してしまった。

「後半途中から5バックになりましたが、ハーフタイムにしっかり確認をしていたので、問題はなかったと思います。5バックになって、相手のスペースを消せていたのに、失点してしまったのは自分たちのせい。システムの問題ではありません。(藤田直之と岡本の)ボランチが2枚とも代わることはなかったので、そこから崩れた部分もあるかもしれませんが、それで崩れているようでは甘い」という、DF小林久晃の言葉に、問題は集約されている。

 高い組織力を誇る鳥栖だが、ベンチに座る選手まで、その戦い方は浸透していない。特に今シーズン、全試合にフル出場していた藤田を下げてからは、ほころびが目立った。象徴的な場面が、決勝点が生まれる直前にあった。中盤でパスを受けたMF犬塚友輔の判断が遅れ、ボールを失い、速攻を受けた。この時、ベンチの尹晶煥監督は大きなジェスチャーで不満を示した。そこからF東京の渡邉にドリブルを仕掛けられ、ファウルで小林が止めてしまった。結局、このFKから決勝点を決められている。

 ドイス・ボランチを揃って交代させた意図を、尹晶煥監督は「彼ら2人は今まで大変なゲームをこなしてきたので、そのポジションで、より動ける選手を選択しました」と語り、「ずっとゲームに出てきた選手に比べ、周りとの連係という点で、足並みがそろわなかったと思います」と認めた。

 2点のリードを奪っていたことで、指揮官にも「この試合は勝てる」という思いが芽生えたのだろう。しかし、組織面の綻びを、F東京に突かれて逆転を許した。この試合では、指揮官の選択が、大きく勝敗に影響した。問題は、この敗戦をどう捉えるか、だ。

「60分~70分くらいでの途中交代が多いので、90分間前半のようなプレーができるように取り組まないといけない」と岡本は言う。彼が90分に渡って出場できれば、チームにとって大きなプラスになる。だが、現実的に夏場の連戦で、フル出場することは難しいだろう。「新しい選手が入ってきても、後ろにいる僕らが状況を判断して、しっかり指示を出さないといけない」と小林も課題を口にするが、同時に控え選手のボトムアップも必須となる。

 今季、初めて3失点を喫して敗れた鳥栖。初めてJ1に昇格したクラブにとって、真価が問われるのは、まさにここからだ。

(取材・文 河合 拓)

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