beacon

両指揮官のスタイルとプライドがぶつかり合ったF東京vs浦和

このエントリーをはてなブックマークに追加

[5.26 J1第13節 F東京1-1浦和 味スタ]

 両指揮官の強烈なライバル関係が、ピッチ内外で激突した。06年、サンフレッチェ広島の監督に就任した現・浦和レッズペトロヴィッチ監督の下で、コーチを務めていたのが現FC東京ランコ・ポポヴィッチ監督だった。しかし、この年降格してしまう広島で、両者の目指すスタイルに若干の相違があった。自身の描くサッカーをチームに浸透させ、表現する2人の求道者。この一戦は、かつてともに戦った両指揮官のスタイルのぶつかり合いだった。

「攻撃的なサッカーを志向する」と公言する両指揮官だが、この日は同時に、徹底して勝利にこだわり続けていた。06年当時、広島でプレーしていた浦和のDF槙野智章は、こう証言する。「(ペトロヴィッチ)監督には今日の試合に賭ける思いはあったと思います。僕自身は彼らの関係を知っていましたし、ピッチの中で見せるものは見せないといけないと感じていました」。F東京の守備のやり方を見て、ポポヴィッチ監督も強く意識していることを感じたと槙野は言う。「(F東京も)少し自分たちの良さを消しながら戦っていた部分はあったかもしれませんね。(僕たちも)もう少し勇気を持って前に出ることも、必要だったかなと思います」。

 激しく火花を散らした両チームの試合は1-1で終わった。試合後の記者会見での、両指揮官のやり取りは興味深い。試合の見方が、驚くほど似ているのだ。

「今日は非常に良いゲームができたと思います。お互い違うスタイルを持ったチーム同士の戦いでした。片方はショートパスを多用して、我々の30mくらいまでは危険なサッカーをしていました。片方のチームはショートパスを多用しますが、時には相手の裏のスペースも使うような、ロングパスも用いて具体的にゴールに迫っていくサッカーをやります。私は浦和の監督ですので、若干浦和寄りの見方かもしれませんが、今日の試合は我々が勝たなければいけない試合でした。ですから、非常にガッカリしています。我々はより危険にサイドチェンジができていましたし、より危険にゴールに迫っていたと思います。ですから、勝利できなかったことは残念です。こういう試合を引き分けてしまうのがサッカーです。非常に良いゲームをサポーターのみなさんには見せることができたと思います」(ペトロヴィッチ監督)

「今日は面白い試合ができたと思います。2つのクオリティの高い、しかし、異なるスタイルのチームが力を出し切りました。一方はカウンター、試合を壊すサッカーをするチーム。ですが、やはりカウンターの質については、非常に高く危険なカウンターを持っているチームです。どれだけ試合のリズムがタフで速かったかは、浦和の選手が何人か足をつっていたので分かる。ACLを戦っていないチームの選手が足をつるということは、どれだけ後半が速いテンポだったかを物語っていると思います。前半は互角でしたが、後半は私たちが主導権を握っていました。私たちが勝ってもおかしくない試合内容でしたし、最後に同点に追いつくのに相応しい戦いを、90分に渡ってできたと思います」(ランコ・ポポヴィッチ監督)

 互いに今季からチームの指揮を執り、自身のサッカー哲学を植え付けてきた。そして、それが発揮された。だからこそ試合は白熱し、1-1の引き分けに終わったにもかかわらず、両チームのサポーターから拍手が起こるという珍しい光景が広がったのだろう。

 今回は勝ち点1を分け合った。次に対戦するときは、どちらのスタイルが、より深く浸透しているのだろうか。

「2つの素晴らしいチーム同士の対戦でした。私は2人の素晴らしい監督とは言いません。2つの素晴らしいチーム同士の対戦でした」と、ペトロヴィッチ監督。新たな名勝負の誕生を予感させる『両チーム』の再戦は、8月4日、舞台を埼玉スタジアムに移して行われる。

(取材・文 河合拓)

TOP