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仲間にサポーター、松田さんに捧げる初ゴール、柳沢「いろんなことが重なりましたし、長かったです」

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[9.24 J1第27節 横浜FM1-3仙台 日産ス]

 顔をくしゃくしゃにし、らしくない大喜びを見せた。それだけ、この時を待っていた。自身も、そしてもちろんサポーターも。今季からベガルタ仙台に加入した元日本代表FW柳沢敦が移籍後初ゴールを決めた。1-1の前半12分、左サイドからのMF梁勇基のクロスをヘディングで沈めた。記念すべき一発は横浜FMを下す決勝弾となった。

「いろんなことが重なりましたし、長かったですね。共に戦うというのは常に思っているですけど、でも言っているだけじゃだめで……。結果が出て、やっと仲間に入れたかなと思う。僕自身、ゴールを決めないと、サポーターのみなさんに受け入れてもらえないという思いが強かった。遅すぎますけど、これでスタートが切れました」

 試合後のインタビューでは、安堵の表情を見せた柳沢。高年俸を理由に、事実上の戦力外で京都を退団。今季から仙台に加入した。元日本代表という肩書き、これまで培ったJ1通算101ゴールという実績。あらゆる面でエースとして期待された。しかし、4月に左膝を手術するなどして出遅れ、思うような結果を出せない日々が続いた。

 今季27試合目、自身の出場13試合目で、ようやく念願が叶った。5試合ぶりの先発だったが、試合前から期する思いがあった。昨夜、手倉森誠監督から言葉を掛けられた。「松田選手が亡くなって、うちのチームで一番心を痛めていたのは柳沢選手です。今日はマリノスではなくて、松田選手はお前のことを応援しているかもしれないよと、実は昨日話していた」。会見で監督自ら明かした。

 実際、ピッチに立つと、松田さんのことが頭に浮かんだ。「ここでの記憶というか、思い出がたくさんある。敵でも味方でも。横断幕も見ながら、また一緒に戦っているという意識でプレーできた」。スタンドには、この日も8月4日に亡くなられた松田直樹さんへ向けた横断幕が掲げられていた。柳沢は2002年の日韓W杯をはじめ、アンダー世代から日本代表で松田さんと共に戦ってきた。Jリーグでは鹿島時代に、名門のストライカーとセンターバックとして、歴史に残るような試合を何度もこなしてきた。そんな松田さんとの思い出が詰まったピッチに立ち、気持ちが奮い立った。

 しかし、立ち上がりは最悪だった。開始3分でカウンターから失点したが、柳沢のミスがつながったものだった。「頭を抱えてた? いい緊張の中でやっていたのに、自分のミスから失点になり、凄く責任を感じた。周りからは(フォローの意味を込めて)『これで落ち着けます』と言われたけど……」。

 それでも、経験豊富なストライカーはめげない。前半10分にはMF角田誠がミドル弾を決めて1-1に追い付いたが、起点は柳沢だった。柳沢がゴール前左からMF松下年宏にパスし、この落としからのシュートだった。そしてその2分後には、元日本代表で共にドイツW杯を戦ったDF中澤佑二のマークを外してゴールを決めてみせた。

 これでJ1通算102得点としたが、これまでとはまた違う、格別なゴールになった。「新たなスタートになるゴールだし、新しいクラブでのゴールで、思い出に残るゴール。今の僕にとっては、一番嬉しいゴールです」と柳沢は目を細めた。時間がかかった中でのベガルタ初ゴール、松田さんに捧げるゴール、東日本大震災に苦しむ被災者に捧げる……。いろんな思いが詰まった記念弾となり、なおさら喜びが大きかった。

 チームは勝ち点を44に伸ばし、5位をキープした。4位の横浜FMには勝ち点差7、あす25日に試合がある暫定3位の柏には同9差とまだ差は大きいが、ACL出場権が得られる3位以内に向けて食らい付くことができた。だが、柳沢の目指すところは違った。

「チャンスがあるときは狙っていくべきですし、それでこそ成長していけると思う。ACLだけじゃなくて、ACLを狙えるなら、優勝も狙えると思う。そういう意気込みで頑張ります。今度はユアスタのサポーターの前でゴールを取りたい」とさらなる高みを見据えた。やっとの1得点かもしれないが、ベガルタが、柳沢がさらに飛躍するための、大きな1ゴールになるに違いない。

[写真]前半12分、柳沢敦がヘディングで移籍初ゴールを決めた瞬間。いろんな思いが詰まった一発に、喜びを爆発させた

(取材・文 近藤安弘)

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